第5話
「それでは、この森で生きのびてください!」
教官の凛とした声が並ぶ生徒たちの合間を抜けていく。
入学して2日、いきなりの実践訓練だ。
俺たちが入学したこのグンピーテ魔法学院は貴族であるメインヒロインのキズカが通っているように、そこそこの名門学院だ。
当然そこの授業ではレベルが高く、高度な魔法が飛び交っていたり、そこらじゅうで決闘まがいのことも行われていたりする。
ちなみに、なぜ【合成】しかない俺がそんな学院に入学できたかといえば、猛勉強である。努力である。シンプル学力is正義である。
話を今の訓練に戻そう。
毎年恒例のこの訓練は、新入生に向けた親睦の場であるとともに、学園の厳しさを教えるものらしく、ルールもシンプルだ。
朝早くの時間から夜遅くまでここの森に居続け、最後に残った人同士で試合をする。
森には魔獣や教官──完全武装のガチ戦闘仕様だ──がおり、それを戦闘で凌いでいくことで常時戦闘態勢であることの難しさとその技術をつけさせることが目的だそうだ。
だいぶハードな訓練なんだが、陰キャの俺を殺そうとしてんのか?
そもそも戦闘スキルないって入学試験のときわかってるよね学園さん??
まあ始まってしまうものは仕方あるまい。
俺は渋る気持ちを抑えて、森の中へ入る。
運良く何にも遭遇しなければいいんだけどな……。
@
「ん、ああ。ミクリさんじゃないですか」
あ、そういえばそうだった。序盤の話だから忘れてたけど、私はアウラムといの一番に出会うんだった。
「私はあまり戦うのは向いてないから、アウラムくんにお任せしていい?」
「構わないですよ」
「んー……」
「まだ、何か?」
「うん、その敬語、やめて欲しいな」
そう、なんか男に敬語で話しかけられると心が女になりきっていない俺にとってはむず痒いのだ。
俺にそんなことを言われるのが意外なのか、少し驚いた顔をするアウラム。
しかし直ぐに、柔和な笑みに戻る。
「いきなり唐突ですね、どうしてですか?」
「いーや、友達に敬語ってなんか変じゃない?私がそう思っただけ」
「なるほど、分かりま……分かったよ、ミクリ」
うむうむ。それでいーのだ。
会話を終わらせた私達は、とりあえず周囲の散策へと出かけた。
この訓練では、宝箱が各所に設置されている。
その中に入っている魔法石は、冒険者がダンジョンに採りに行くもので俺たち学生にはあまり手が届きにくいものだ。
学生たちのちょっとしたご褒美にするといったところか。
もちろん俺も欲しい、なぜなら鍛冶師や薬師には必須のものだからだ。
俺が生命線とする【合成】で、魔法石は万能の材料としてなんでも使えるので、多く持つに越したことはないと言うわけだ。
私が木の裏や草の中などをじっくりしっかり探し、アウラムが魔獣や教官の襲撃を警戒する。即席コンビ、というか入学して知り合ってからまだ3日も立ってないのに組めたコンビは、効率がかなり良かった。
ただ……
「あのさ」
「何だい?」
「なんか魔獣めっちゃ死んでない?そんな襲われてるの?」
ドゴッ!!
「今も殺したよね?」
「あ、いや、これは癖で」
いやどんな癖ェ!
つい某お笑い芸人の粗◯さんみたいなツッコミを入れてしまうのも眼前に大量の土に貫かれた魔獣の死体を見れば仕方のないことだろう。
ジト目でアウラムを見つつ、口をさらに開く。
「確かに任せるって言ったけどね、なんか私が働いてないみたいにならない?」
「そ、そんなことはなくないかな?」
「まあいいんだ───
ギィン!!
俺の言葉が言い切る寸前、金属と何かがぶつかる硬質な甲高い音が弾けた。
金属音、つまり武器。魔獣よりも強い
俺がとっさに振り向くと、アウラムが作り出したと思われる土の鍾乳石と、それに剣を取られている男の教官がいた。
すぐさま剣を土から引き抜き、ニヤリとした笑みを浮かべる教官。
「ハッ、伊達に噂になってねぇな、アウラム・クロイセンティア!!」
「受けてたちましょう!!」
踏み込みながら剣を振りかぶる教官は、手付きから相当な手練であることが伺えた。
至近距離から放たれた袈裟斬りを、地面から射出した土弾でいなす。
崩されかけた姿勢をすぐさま正し、次いで突きを使う。
それは土の壁で受け止める。
「アウラムくん、後手を取っているのに強い……」
「こいつ、冷静にさばきやがる……」
俺と教官の驚愕に満ちた声が重なる。
アウラム──正真正銘この世界の主人公の、無双が始まるのだった。
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