第4話

「やっと始まるわ、私の学園生活が!」


俺は待ちに待った異世界のニュー学園生活に、ついつい校門の前で叫んだ。

周りの目なんて気にしないのが俺流スタイルだぜ!

浮かれた気分で門をくぐる。


「いやー、かなりここの生活にも慣れた気が────


バキッ!!


「え、なになに何!?」


突然響いた鈍い音。

俺は咄嗟に振り向くと、そこには片膝をついてうずくまる男、それに守られているような女の子、そして殴ったと思しき男がいた。



「いやド修羅場じゃねぇーか!!」


つい突っ込んでしまう俺だったが、幸いその声を咎められることは無かった。


それよりも今のあの状況だ。


よく見たら、守られているような女の子の方は、どこかで見覚えがある。

というか、生前の俺が最後に持っていたあのラノベ──名前を忘れたのではなく名前を出すのがなんか恥ずかしいだけだ(オタク心)───の、メインヒロインでデカデカと表紙を飾っていた女の子だ。

名前は確か……。



「きゃー!あの男の方、キズカ様を守ったわ!」



そう、キズカ・サティアースだ。

超名門サティアース家の長女にして超女、そしてめちゃくちゃツンデレである。


なるほど、確かにあんなシーンはあったな。


「おいおい、俺様が声をかけていたのに、貴様みたいな愚図男には用はないんだよ!」

「でも、この方は迷惑そうにしてましたよ!早く離れてください!」


2人の言い合いはヒートアップする。

こちらにまで話が伝わってくるレベルまでだ。


「貴族でもねぇお前が俺に指図するんじゃねえ!」

「そんなことはどうでもいいです!」

「どうでもいい、だとぉ……?このケツデーカ家を侮辱しやがって!お前っ!【アイスショット】!」


その瞬間、激昂する男に呼応するように魔法子が光り、氷の礫が勢いよく放たれた。

女の子をかばっている男、このラノベ世界の主人公であるアウラム・クロイセンティアを殺すべく放たれた凶弾は、突然地面を割って現れた土の壁に阻まれる。


「なっ!?つ、土魔法?」

「あなたから仕掛けたんです、覚悟は良いですね」


そんなワ◯ップジョ◯ノみたいなセリフを吐き、アウラムは手をかざす。魔法が発動した。

ドゴッッ!という轟音とともに、男の腹を鍾乳石のような土の塊が貫いた。

男は吹き飛び、天のお星さまになった、とさ。


「ふう……大丈夫ですか、あなた。」

「………………アンタ、誰が助けてって言ったの?」

「え?」


お、お約束のツンデレセリフだ。

特徴的な紅色と金色が混じったサイドテールを揺らしながら、悪口とも取れる辛口の言葉に、アウラムは呆然と立ち尽くす。

そりゃ主人公からしたらツンデレセリフ吐かれるのは意外というか経験ないことだろうしな。


「お、女の子が困っていたら助けろって教えられたので……」

「どこが困っていたのよ!アレくらい自分でなんとかできたわ!」

「は、はあ……」

「アンタは強いらしいけど、私の足元にも及ばないわ!これ以上出しゃばらないでくれる?」

「でしゃばったつもりはないんですが……分かりました」


どうやら、話はまとまったらしい。

客観的にこのテンプレ光景見ると、なんか気恥ずかしいな。

俺は見なかったことにして、そそくさと校舎の中へ入っていくのであった。

俺の学園生活、平穏無事に終わるといいんだが……。


 @


「初めまして、僕はアウラム・クロイセンティアというものです」

「どーもご丁寧に。私はミクリ・テシオ=ジャスミンっていうから、よろしく」


俺は先程の光景を思い出すことがないように愛想笑いを浮かべながら、隣の席に座ってきたアウラムに挨拶をする。

こうやって仲良くなっていくんだろうな、陽キャって。

俺がそんなことを考えているうちに、爆弾が歩いてきた。何なら着火済みのだ。


「はあ、女の子にチヤホヤされるのは悪い気はしないわ、ね、って……」


うわっ、気まず。

向こうから歩いてきたキズカは、こちらに座っているアウラムを見て、途端に機嫌が悪くなった。

俺を挟んで冷戦しないでくれよ……。


「き、キズカちゃん、だっけ?よろしくね」

「ええ、よろしく。そこの男よりかはいいわね、あなた。」


だからサラッと罵倒しないでやれよ……。

二人に板挟み───どちらかというとキズカの逆恨み──になって、より気まずくなる俺。

ああ、俺の学園生活、平穏無事じゃなさそうだ……。

ラノベの世界で物語通り進める時点で終わっていたことに、改めて気づいた俺であった。

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