第3話
俺が異世界に転生したあの日から、だいたい3ヶ月が経った。
おそらく、というのは異世界にまともなカレンダーがないからだ。
俺は今、
「姉さんの身体、暖かいですぅー……」
美少女に抱きつかれていた。
多分これ、外から見たら百合厨死ぬんじゃないか?
キマシタワーってな。
いやそんなことはどうでも良くて、なぜこうなったのかだ。
原因を探ると、1週間ほど前に遡る……。
@
そろそろいい加減、女の生活に慣れてきた。
まあたまに男っぽい動作が出るのはご愛嬌だ。
俺は今、家の周りを散歩していた。
「おっ、薬草はっけん!」
家にあった図鑑で、見たような草を発見した。
そこで俺は早速、アレをする。
「【合成】!」
美少女になった俺の澄んだ声が、魔法発動のトリガーを唱える。
伸ばした手から魔法子が煌めき、草を覆う。
そして草は、
「やっぱりこれだけかぁ……」
そう、これが俺の魔法【合成】なのだ。
唯一の魔法がこれだから、もはや無双は諦めるしかないのか……。
「いや、まだまだ模索していけば何かあるはず!」
そうして俺は散歩を再開しようとした。
しかし、轟音によってその意思は覆される。
俺は咄嗟に振り向くと、音のした方へと駆け出した。
ただ、女の足なので男と比べて非常に大変だったが。
現場に着くと、木がぶっ倒れていた。そしてその犯人と思しき男達が、ニヤニヤと女の子を詰めていた。
男は2人組。いかにもごつい顔とガタイをしている。
「……ッ!」
俺は物陰から飛び出したい気持ちを抑え、とりあえず観察する。迂闊に飛び出しても、【合成】しかない俺は何も出来ずに滅多打ちにされるのが目に見えるからだ。
俺YOEEEEEEEE!!
ってなんの自慢にもならんし気持ちよくもないし最悪だろ。
それはともかく、見ていてわかったのだが、女の子の方はいかにも御令嬢といった装いだが、泥にまみれている。逃避行を繰り返してきたのだろうか。
俺は少し考えて、結論を出す。
「逃げるんだよォ!ス○ーキーッ!!」
「なんだお前はッ!?女ァ!?」
突如現れた俺に驚く男たち。そして変なことを言ったのが女だと知ってさらに驚く男たち。
当然と言ってはなんだが、俺の渾身のジ○ジョネタが通じないのは少し寂しい。
俺が考え出した結論は逃げるだ。力で適うはずが無いからな。
───────だが、1人では逃げん。
俺は呆けかけている男たちを尻目に、女の子の手を取る。
「とっとと逃げましょう、私たちじゃ適わないわ」
「え、ええ……。」
女の子の顔にもありありと困惑が出ていた。
そりゃそうデスヨネー。
だが男たちよりも私の方がいくらか安心できるのであろう、俺のエスコート(?)に合わせてきた。
「やべぇ、逃げられるぞ!」
「ハッ!あ、あの変な女ごと殺すぞ!」
男たちも意識が戻ったようで、俺たちを2人を追いかけてくる。
だが、それも計算のうちだ。
俺は手に忍ばせていたものを投げつける。
緑色のそれは、男たちの手にスポッと収まった。
「う、うわっ!なんだコレ!?」
「って、草?」
「あの、今のって……」
どうやら、女の子は俺の投げつけたものの正体、いや真意に気づいたらしい。
「はっはー、それで許してください!
「いや賄賂かーい!!」
咄嗟に男たちは突っ込んだ。
その隙を見逃さない。
「今のうちだよ!お嬢ちゃん!」
「あ、待てや!」
俺の目論見で失敗したところがあった。
男たちの執念を見誤っていたところだ。
だから俺も、敬意を払って、アレに踏み切る。
俺は一歩強く踏み出し、腰を曲げ──────
土下座した。清々しいくらいに。
女の子の前ということも気にせずに─────最も、俺はいま女なんだけど───だ。
「どうか、この子を見逃してもらえないでしょうかあああああ!」
「……そ、そこまでやるなら」
「み、見逃してやるか」
俺の度重なる懐柔、もといクソダサ行為に、逆に男たちは気恥ずかしさを覚えてきたのか、目をそらして諦めの雰囲気になった。
よし、やっと通用した。
これで俺の異世界初戦闘……戦うとは言ってないもんね、が幕を下ろしたのだった。
@
「あの、お名前を聞いてもよろしいでしょうか、姉さん」
「んー?ミクリだよって……姉さん!?!?」
「さっきの地面に勢いよくしゃがむの、すごくかっこよかったです!姉さんと呼ぶに値します!」
どうやら、さっきした土下座が、カッコいいように見えたらしい。
いや、異世界の感性わかんねーな!!
それとも女の子の感性なのかな!?
「姉さん……。そ、そういうあなたの名前は?」
「あ、私の紹介がまだでしたね。うっかりです。私の名前はルキシャ・ロウドラスと申します。どうぞルキとお呼びください、姉さん」
ロウドラス……どこかで聞いたような……。
「って、この街の領主の!?」
「はい、そうです。奴らも多分、私の身代金目的で襲ってきたんでしょうね」
なるほど。でも、助けた(カッコよくない方法で)だけで姉さんか……。
「ま、いっか。こんな可愛い子に姉さん呼ばれるならねー」
完全に思考を放棄して、諦めた俺。
中身男だって言ったら、どんな反応するんだろうね。
「じゃ、じゃあまた会えるといいね、ルキ。」
「あ、お待ちください!姉さんの家に行かせてください!なんなら泊めてください!」
「は?」
俺の驚きのマヌケ声が、森に響いたのだった。
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