第2話

ひとしきり叫んだ俺は、少し頭が冷えた。

そのお陰か、木製の机の上にあるものを見つけられた。

それは、2通の手紙。


「これは……?」


中をちらりと見てみると、片方はよくわからない、THE・異世界といった文字で書かれている。

しかし、もう片方は俺のよく知る、というかついこの前まで見ていた漢字とカタカナとひらがなが混じる言語、日本語で書いてあった。

ということは……。

俺は日本語で書かれてある方を手に取った。

その内容はこうだ。




『あなたがお察しの通り、私はいわゆる女神です。

あなたは本当の運命ならばこの世界の主人公に転生する予定でした。しかし、私も驚いたのですが、トラックに轢かれるだけでなく電車にも同時に轢かれたことで、運命が変わってしまったようです。

本来ならば不慮の事故でなくなった方には転生とスキルを1つあげるのですが、どうやらあなたにはもうあげることが出来ないようです。代わりと言ってはなんですが、この物語の世界をきちんと導けば、私が降臨する流れですから、物語を崩さずに進めてください。

私が降臨できれば、あなたを元の世界に返したり、または望む世界に送れます。

神の加護があらんことを。』




……最後の1行は神様ジョークかな?

つまり、俺にこのヒロインを演じきって、フィナーレまで持っていけということか。


「無理でしょ絶対!!」


ウキウキの無双異世界転生はどこに行ったんだよ!俺の夢を返してくれ!

思わずノリツッコミのようなものをしてしまう俺だが、状況は変わる訳では無い。


「はぁ……もう叫んでも仕方ないか、こっちを読んでみよ」


俺はもう片方の、異世界らしき文字の手紙を手に取った。

不思議なことに、文字が読めてくる。

これは、この体、ミクリの記憶だろう。

その内容は要約するとこうだ。


・俺は今日誕生日で、15になる

・夜パーティーを開く(このパーティーは攻略班という意味のパーティーではなく、宴会の方だ)

・俺の使える魔法は「合成」「合成物分離」のみ

・来年、成人学校(高校的な感じだろうか?)に通うことになっている



ざっとこんなところだ。

本文は激長の文章で娘への愛がクソデカすぎるため、要約させてもらった。


つまるところ、来年から物語で主人公とミクリが出会う学園に通うってことかな。


本当は無双したかったがしょうがない、どうにかこうにかできる方法を探そうか。



とりあえず手紙を読み、色々な情報が入ってきた俺は、混乱と冷静を両方持っている頭を冷やすために、もう一度まどろみの中に入るのだった。



 @



……きろ。起……。


「起きろ!お前が主役なんだぞ!」


父親と思しき男の声が急激に意識を浮上させていく。

男で生きていた頃とは違う切れ長の目を開ける。


「お、俺が……?」

「俺?どうしたんだ、その口調は」


そのセリフで、俺の寝ぼけた意識が覚醒する。

そしてした失策も同時に悟る。

俺……いや、私は必死に取り繕うことにした。

どう見ても苦しいと分かるものだったが。


「いや、オレンジが食べたいなー……みたいな?」


「ああ、そうか。オレンジはないから、今度オレンジにしてやるよ」


いや誤魔化せるんかーい!!


「あれ?お、お母さんは?」


「ん、ああ。母さんならいまケーキを作ってるよ」

「そ、そうなのね。とりあえず、下に行きましょうか」


会話していて分かったのだが、どうやらここの食文化は地球とよく似ているらしい。

それに、女の子のフリ……いや、もう女から戻れるわけではないから女の子の生活か、は元男の俺にとってはかなりキツイということも。


ら◯まの気分だぜ。

今度ゲームでネカマしてる人見かけたら尊敬しよう。


なんてことを考えていたら、階下についた。

トントンと、小気味の良い音がする。



おお、俺の母さん、美人!!


着いたらすぐに目に入ってきたのは、だいぶ整った顔立ちの母だった。

だがは、そのことをおくびにも出さず、ミクリの母に話しかける。

ただ、美人なせいで声が出にくかった。


「あ、お、美味しそうなケーキね。何を使っているの?」

「あら、ミクリ。どうしたの、声が震えてるけど」

「い、いや、ちょっと眠いだけだよ」


異性と全然話す機会のなかった前世のせいだなんて一言も言えるわけがない。


「そう。それにこれはメジュエナを使っているのよ」

「へ、へー。もうすぐできる?」

「ええ、そうね」


俺の不慣れな言葉遣いは置いといて、ミクリの母のその言葉通り、5分ほどすると、食卓には豪勢な料理が並んでいた。


「それじゃ、ミクリ、おめでとう!」

「ありがとう、お父さん、お母さん。」


体には慣れてきたが、口調は相変わらず慣れない。


「そういえば、わ、私って学校に行くんだよね、来年」

「ああ、そうだな。手紙で書いた通りだ」

「その学校ってどんなところなの?」

「まぁ、普通の魔法学院だよ。それよりも今何か欲しいものはあるか──────」


なんてたわいのない話をしながら、パーティーは夜が更けるまで続いていった。


そんなこんなで、俺の異世界生活一日目が終了したのだった。




いや、まだ一日目でこれだけ疲れるとか、俺、いや私の人生、前途多難すぎだろ。

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