ハーレム作るのも大変です!
新切 有鰤
第1話
ここは人間界の地下深く。地底の世界の王に生まれた魔族の子──────アウラム・クロセンティアは、なにもない地底の世界にひどく飽ききっていた。そこから流れで人間界の魔法学院に入学することになったのだが、彼の力は人間の常識を遥かに超えていて………。
魔王の子が学園で無双する!痛快異世界ファンタジー!!
───────なるほど、これは……、
「かなり面白そうだな、地底の子と来たか…!」
書店のラノベコーナーで、俺はそう独り言を落とした。
俺は、オタクだ。
しかも、中二病臭いタイプのだ。
愛読書はラノベだし、アニメは
今日も今日とて、ラノベの新刊───最近俺は異世界モノにハマっているので異世界モノだ───を買いに、本屋まで来た次第だ。
「とりあえず、これだけ買うか」
俺は今手にとってあらすじを読んでいたこの本、『地底最強、学園で無双す』を買いにレジカウンターへと向かい、そのまま購入した。
でもやっぱり、ラノベの名前って心の中で読むにしたって恥ずかしいよな。
略称を公式がつけてくれるやつは略称で呼べるから多少マシだけど。
この◯ばとかはが◯いとかな。
なんてことを考えながら、俺は書店を後にした。
もちろん書店では運命的な出会いなんてなかったし、謎に古びた本が置いてあってその本から光がなんてこともなかった。
「って、異世界モノの導入じゃないんだから無いだろ。ここは現実だよ。」
自分の考えに苦笑いアンドセルフツッコミ。
オタクの妄想もここまで来ると重症がすぎるな。
せめて、無双するならどんなスキルがいいかとかに留めておこう。
帰り路を歩いているとふと、買ったこの本の中身が気になってきた。
何か知らないが、ビビッとくるような第六感と呼べるものを確かにこの本から感じる。
俺はだんだん強くなっていくその心に負け、あまり良くないのは分かっていつつも、本を取り出して歩きながら読み始める。
いつものごとく、感想を漏らしながら。
ふむふむ、へー。おっ、かわいいな。この2番目に出てくるヒロイン、俺の好みすぎるな。青ベースに白や紫のメッシュが入ったロングヘアに翡翠色の目とか、癖すぎるだろ。胸も丁度いいくらいだし。鍛冶屋の娘で、薬屋になりたいのか…、かわいいね、推せる。一番目のヒロインはツンデレすぎるしな。名前は……。
なんて夢中になっていたのが悪かったのかもしれない。
それとも、歩きながらの読書が悪かったのか。
俺はクラクションを鳴らしながら突っ込んでくるトラックに、直前で気付いた。
眼前に迫るトラックの機械的な顔。
そしてそのまま、無抵抗に空中へと撥ね飛ばされた。
血飛沫が舞う。人々の悲鳴が遠く聞こえる。
……ああ、俺今米津◯師のK◯CK B◯CKのMVみたいになってるのかな。
朦朧とする意識であっても懲りずにオタクなことを考えていた俺に、衝撃が再び襲いかかる。
横転する俺の体は、もう逆に痛みを感じなくなっていた。
薄ぼんやりとした世界で見えたのは、電車がすぐ近くに止まっているということ。
どうやら二度目の衝撃は、トラックに飛ばされた先が運悪く線路の上で、そのまま電車にも轢かれたときのものらしい。
お、オーバーキルじゃないか……不幸すぎるだろ。せめて、転生くらいは……。
そうして俺は、意識、というか命が、完全に途絶えたのだった。
@
目を覚ました。
薄っすらと開けた俺の目に飛び込んできたのは知らない天井だ。
意識が覚醒していく。
「これはまさか……?」
俺は違和感のある体を起こして、部屋を見回す。
木でできた壁の外からはチュンチュンと鳥と思しき鳴き声が聞こえ、部屋の中には質素な木製の家具があった。
奥には扉があり、何かを打つようなカンカンという音が薄っすらと聞こえてくる。
いかにもな風景に、俺は思わず衝動的に叫ぶ。
何度も夢見た、
「やったああ!転生した!!」
ん?
「あれ?」
声が子供であることを抜きにしても、高いぞ……?
風邪、いやそんなことはないだろう。
体の違和感は体調不良というより、もっと根本的なもののように感じる。
俺は急いで違和感のある体を動かし、ベッドから降りようとして転びかけた。
めげずに移動し、水の張ってある木桶に自分の顔を映し出す。
そこには、青ベースに白や紫のメッシュが入った髪を持つ、翡翠色の目の美少女が映っていた。
「は、は、はあああああああああああああああああああああ!?」
今度の叫びも衝動的だったが、声量が段違いだった。
じゃなくて、俺、俺、
「あのヒロインになってるううううううう!!」
どうやら俺は、あの読んでいたラノベの、ハーレムを作る一人。
2番目のヒロイン───ミクリ・テシオ=ジャスミンへと、転生したようだった。
………いや、そっちじゃないだろ。
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