ダンジョンの最深部だか知らないけど家のドアを

だらく@らくだ

とりあえず弁償しろ



「ただいま〜って声がする筈無いよな」

風呂場のタイルにて俺はのそのそ靴を脱ぐ

脱いだら、ワイシャツを洗濯機に押し込み

脱衣所から廊下へ進む。廊下には神棚があるので、俺はいつも通り一礼。して、今度は玄関に向かう。玄関の扉を開けたら、ポストに

来ている郵便物を回収して、リビングへ。

郵便物のほとんどはクレームであった、引っ越せとか紛らわしいとか死ねとかまあ色々。

こんな物はとっておても無駄だ、ゴミ箱に放り込んどけ。テレビをつければ今日もおすすめダンジョン特集だ、モンスターを殺戮して

宝物を奪い合って何が楽しいのか俺にはさっぱり分からん。昔、メロスって奴が政治が分からないと言っていた気がするが、俺にはダンジョンが分からん。特にこの家があるダンジョンはな


"ドンドン!バリーンッッ!!!"


まーたそんで玄関から音がするし。行ってみたら、金色の鎧着た男が困惑してるさあ

「普通の家がな、なぜこんなとこに!?」

「はいはい、説明するからこっちに来て」

「あ、はい」


リビングでちょこんと正座する男にとりあえず茶を出してやる。人によってはコーヒーが

良いとか言う奴もいるが、コイツは素直だ。

ごくごく飲みやがる

「とりあえず、これに住所と電話番号書いて。ダンジョンの外ね」

「え、ええ!?どうしてですか!」

「てめぇ、人の家の玄関扉破壊して何様だぁ!」

「玄関扉!?」

あ、コイツ最深部まで来た癖にこの家知らない奴だ。しゃねぇ、説明するか

「さっきあなたが壊したのは俺の家の玄関扉でしてね、直すのにお金が必要なんですよ」

「玄関扉って……岩にあった扉がですか?」

「そうなの。ポストもあったでしょ、勘違いする人多いのよ。んで、君何歳?」

「十六ですが」

「十六か!いや、よく来たなここまで。それは凄いよ。だけどさ、人の玄関扉は破壊しちゃイケナイよ」

「いやいや、そもそもこんな場所に家がある

事がおかしいでしょ!払えませんよ!」

「ふーん」

すっかり眉を立てて、お怒りな男に俺は箪笥から一枚の名刺を取り出し、見せてやった。

「これ、ダンジョンマスターの名刺。連絡すれば永久にここへは来られなくなるけど?」

「う、嘘でしょう!?分かりましたよ!」

泣く泣く、男は紙に住所と名前を書いた。

意外にも綺麗な字ではある

「これ、偽の住所じゃ無いよね?」

「本物ですよ!疑い深いなあ」

「一応、免許証か保険証も出して貰おうかな」

「ありません!ダンジョンにそんな物持ってくる人居ますか!?」

「いやあ、今どき常識だよ。ダンジョンに身分証、持ってくるの」

「んな……」


「それで、どうしてこんな場所に住もうと

思ったんですか?家賃が安いとか?」

「いいや、家賃は三十万取られてるよ」

「高!?じゃあ何故」

「例えば俺が有名人になったとするだろ」

「は?」

「そしたら、トラブルがあった時に住所特定されたりするじゃん。でもここなら特定されても来られないと思って」

「それはとてもバ……素晴らしいアイデア」

男は苦笑いを浮かべた

「でも外に出る時はどうするんですか?毎回ダンジョンを攻略するのは流石に」

「あ、それはこっちに来れば分かる」

人差し指をくいっと自分の方へ曲げ、俺は風呂場へと男を案内した

「お風呂場じゃないですか。ここが何を」

「じゃ、オープン」

風呂場の壁には一部、木で出来た部分がある。大きさは大人二人どうにか通れるぐらいだ。開けてみると、そこには

「嘘でしょ……ここ、現実世界!?」

「しっ!声が大きいよ」

アスファルトの道が広がっている。ここが俺の実質的な玄関なのだ

「じ、じゃあ最深部まで辿り着く苦労は」

「だからナイショにしてんだ。広めたらダンジョンマスターに連絡するからな」

「ショック……」

しょんぼりな顔で男はリビングに戻った


「えっと……0XX5-364-8793と」

「な、電話本当にかけるんですか?!」

「その為に番号聞いたんだろ」

「てっきり電話なんて通じて無いかと」

「IKZO YOSHIかてめえは!」

「吉……?」

困惑する男をよそに、俺は固定電話のボタンを押して、受話器を耳に当てた

「あーもしもし?お宅の息子さんがですね、

ダンジョンの最深部にある私の家の玄関扉を

破壊しまして、えっ?ダンジョンに潜ってる

事なんか知らないって?そうですか、まあ後で請求書送りますんでよろしくぅ!」

「あわわ……」

男の顔は青ざめていた

「おっかしいな、未成年がダンジョンに潜る時は親の許可がいるんだけどなぁ。君の親はダンジョンなんか知らないって言うんだよ」

「す」

「すいませんでした!!!許可なしにここまで来ちゃったんです!」

リビングの床に頭を擦り付け、男は謝罪した

「んじゃ、学校にも連絡するね。住所から大体の学区は分かるし」

「それだけは止めて下さい!停学になっちゃいます!」

「じゃ、十万払えるよな」

「そりゃ、払います!……どうせ払うの親だし」

「0XX2-7……と」

「嘘です!私が全て払いますからぁ」

こうして、数日後に俺の口座へ振り込まれた

十万で玄関を修理し、ついでに焼肉も食べた俺であった


半年後

"バリィイィィンッッ!!!"

まーた、玄関の扉が破壊された。今度は誰だ?全くもう

向かってみると、そこには銀の鎧を着た、小太りの中年男性が立っていた

「おー!ここは休憩スポットだったのか!ほんとダンジョンは奥深いな!はっはっは!」

「お父さん、ここは……」

その後ろにはいつか見た金の鎧の男がいた

「あなたがここのスポットの管理者ですか!

いや〜息子がダンジョンに潜ったと知った時は何事と思いましたが、潜ってみると面白いですね!ここまで来ちゃいました!」

「は、早く逃げよう父さん!ここはまずい」

「べ……」

「へ?」

「玄関の扉、弁償しろや!!!」

「面白い事言いますね、あなた。ここでの

挨拶なのかな?」

「0XX2-……」

「ひっ」

「今度は番号ですか?アイテムでも貰える

コードなのかな?メモしとこ」

「俺、家出します……」


この親にして、この子供あり……か。

俺は強く実感したのだった


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