第37話 久しぶりの休日①

義姉さんに買って貰った服を来て外に出ると黒塗りの車がやってきて家の前で停まった。普通の人なら不信感を覚えるかもしれないが俺の家に停まる黒塗りの車なんて義姉さんが呼んだやつだと決まっている。


予想通り車の中から義姉さんと───おそらく時雨家で働いてる人なんだろうけど俺は会ったことがない、最近雇ったのだろうか?


「おはよう義姉さん、それと今日連れてきてる人は誰?」


「優秀なのは間違いないんですけど───極度の人見知りなんですよね。多分吹雪の前では無口になると思います」


お嬢様の送迎を担当するのが人見知りの人でいいのかと思ったが逆に考えれば人見知りでも送迎係に選ばれるくらい優秀と捉えることも出来るだろう。


「お嬢様、お友達を待たせては行けないのでそろそろ行きましょう。───そ、それと初め……ましてです義弟様……」


「初めまして、今日はよろしくお願いします」


「はいぃ……」


非常に申し訳ないのだが現状、この人に優秀そうな面影が見えない。なんか義姉さんが危険に陥ったら無言で助けてそう。(偏見)


一応俺も守る対象に入ってると思うのだが話せない状態で大丈夫なのだろうか。護身用にお母さんから渡されたものがあるし、俺はなるべく自分でどうにかしようと思う。


義姉さんとは普通に話せてるので義姉さん相手なら優秀な従者なのだろう。


しばらく運転してもらって待ち合わせ場所に着いたが車で来ているのでやっぱり俺たち以外に誰もいなかった。


「少しお手洗いに行ってくるので絶対にここから動かないでくださいね。あと誰かに話しかけられても絶対について行かないでください!」


「心配しすぎだって、今から遊びに行くのに他の人にはついて行かないよ」


逆ナンというやつだと思うが普通に知らない人と遊ぶより知ってる人と遊ぶ方が楽しいと思うのだが……。ナンパは嫌がる人もいるのであんまり良いとは言えないが街中で知らない人に声をかけれるその勇気だけは尊敬したい。


俺は話しかけられないと思ってたけどフラグだった。


「お兄さんこの後、暇だったら私たちと一緒に遊びませんか?」


「今待ち合わせしててこれから遊びに行くんですけど」


「それならその人たちも含めて一緒に遊びましょうよ!」


思ってたよりもナンパされる側って面倒くさいな、そりゃあナンパしたやつが嫌われるのも少し納得出来る。というかこの人達は多分俺が待ち合わせしてるのが男性だと思ってるだろう、おかしい事に俺に男の友達はいないし今日一緒に遊ぶ人も女性だ。


ここから動くなって言われてるし俺に知らない人と急に遊べるほどのメンタルは無いので相手をなるべく傷付けずに断るとしよう。


「ちなみに待ち合わせしてるのは女性なので。あなた達について行ったら彼女に文字通りボコボコにされるかもしれないんですけど……」


俺が言った彼女は三人称の方の彼女なので俺は何も嘘はついていない、女性と待ち合わせしてるのも本当だし普通ならこれで諦めてくれるはずだ。


「なんだあ彼女持ちかぁ。邪魔しちゃったねお兄さん、楽しんできなよー」


そう言って逆ナンしてきた女性は去っていった。


「デレデレしてたら本当にボコボコにするところでしたよ?」


「なんで彼女ヅラなの……?」


「義理の弟なら結婚できるんですよ? つまり付き合えるということでもありますから。まぁ吹雪はずっと私の義弟でいいんですけどね」


俺も義姉さんは義姉さんのままがいい。数年間ずっと義理の姉弟として過ごしてきたというのにいきなり恋人になったら違和感でしかない。


「……いやストーカーですよその立ち位置は」


「え?」


「綾乃んからは見えないけど義弟クンからは見えちゃったかぁ。確かに電柱の裏から覗いてるのはストーカーだねー」


この人が女性じゃなかったら普通に通行している人から通報されていたかもしれない。世の中って男性と女性で色々対応が違ってるからな……。


集まったということで移動することになったのだが車を使うらしい、運転手はさっきの人見知りの人。でも義姉さんの友達とは普通に話してる───あ、これ紅葉と同じタイプか。


「車で行くって結局どこに行こうとしてるの? それと───なんで俺が真ん中に座ってるの? 普通どっちかの端に座るものじゃないの」


「義弟クンがウチより先に入っていたからこうなったんだよ? 数ヶ月会えなかった綾乃んを癒してあげてねー」


まぁ……うん、それを言われたら俺もう反論できない。というかこのことを知ってるってだいぶ俺の事を茜さんに話してるな、義姉さん。


結構遠くまで来てるがそうじゃなかったらこんな早くから集合することは無いか。



※※※



吹雪と綾乃は普段の疲れと朝早く起きたことによって眠ってしまった。しかもお互いの肩に頭を預けながらである。


「……本当に義理なのかな? 2人とも可愛いから写真撮っとこー」


「その写真、後で私にもください、仕事中に眺めて活力を得るので。お嬢様は慣れましたけど義弟様とはまだ無理ですね……可愛すぎます」


「従者としてお嬢様とその義弟の寝てる写真を欲しがるって大丈夫なの……?」


とりあえず2人が眠っているうちにウチは言われた通りに写真を送る。


「これで私はまだ戦えます」


この2人が仲良く寝ている写真が時雨家中に広がるのはまたあとの話……。

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