第37話『打倒魔王-2』


 時は少し舞い戻り。



「なぁ、サラ。そしてノクティス様。一つ、調べて欲しい事があるんだけど……俺が倒したラザロとレイヴンについて。世間ではあの二人ってどうなってる扱いなんだ?」

 

 それは俺とサラの仕掛けた罠に王国軍が引っ掛かり、その後方からゆっくりと魔王軍が迫っていると聞かされたお昼ごろの話。


 俺はちょうど一か月前に倒したラザロとレイヴンが世間ではどのようにして語られているのか、それを二人に聞いていた。


『ラザロとレイヴン? 既に倒した四天王がどうしたってのよ?』


「ラザロとレイヴン……レン様が相対せずに滅ぼした二人ですね。あの二人がどうなっている扱いかとは……どういう事でしょう?」


 二人して倒した四天王の事を今さら気にしてどうしたと言うサラとノクティス様。

 そんな二人に対し、俺は続けて言う。


「言葉通りの意味だよ。あいつらって俺が倒したわけじゃん? でも、俺とサラは騒がれたくないからっていう理由で戦いがあったっていう痕跡を消しただろ?」


「そうですね」


「だから王国も魔王軍も、ラザロとレイヴンが死んだという情報を掴んでいない。ただ、一カ月もの間連絡がないから死んだ扱いにされてるだけ。なーんて事があったりしないかなって思ったんだけど……どうだ?」


『それは――少し待ってなさい。王女の方に意識を集中してみるわ。それである程度は分かるはず』


「それは……どうなのでしょう? すぐに調べてみます」


「頼むよ二人とも。俺にも何か手伝えることがあったら言ってくれ」


 四天王ラザロとレイヴン。


 二人の死がなんらかの手段によって魔王軍側に筒抜けになっているとかだと、俺の考えた作戦は上手くいかない。

 だが、もしただ音信不通だからという理由だけで死亡扱いになっているのだとすれば……その隙を突けるっ!!



 その後。

 俺はサラとノクティス様と協力し、ラザロとレイヴンについて、魔王軍と王国軍の間でどのように話が伝わっているのかという調査を行った。


 結果――


「レン様の睨んだ通りでしたね。王国軍でも魔王軍でも二人は死んだと判断されていますが、確たる証拠もないようです。二人による定時連絡が途絶えた。それで魔王軍は二人を死亡扱いにしたようですね。王国軍側はその情報を遅れて仕入れ、この一カ月の間、二人による被害が無くなっている事から二人は死んだのだと判断しているようです」


『――戻ったわよ加藤かとうれん。四天王ラザロとレイヴン。二人の死についてだけどね。定時連絡が途絶えたから死んだと判断されてるみたいよ。で? この情報を何に使うの?』


 四天王ラザロとレイヴン。

 魔王軍も王国軍も二人は死んだと考えているらしいが、それは定時連絡がないからという魔王軍側の薄い根拠のみらしい。


 なら――やれる。


「――よし。じゃあ……サラ、一緒に魔王軍に潜入してくれないか? ラザロとレイヴン。その二人に成りすましながら最後方に居るっていう魔王を不意打ちしようと考えてるんだが……」


『はぁ!? 何言ってんのアンタ!? 魔王軍のラザロとレイヴンに化けて、魔王を不意打ちするぅ!?』


「さすがレン様です。後方に控える魔王。その魔王の元までどうやって辿り着くのか。その問題をそのような方法でクリアするだなんて素敵ですっ!! もちろん、お付き合いしますよ」



 おっと意見が分かれたな。

 ノクティス様は俺の作戦について文句があるらしい。

 逆にサラは大賛成のようで……いや、でもサラは俺の考えなら基本なんでも「素晴らしいですっ」と称賛しちゃうような子だからなぁ。 

 

「ちょい待ってくれサラ。なんかノクティス様はこの作戦あまり気に入らないみたいで……あのーノクティス様、なにかダメな点ってありました?」


 敵陣に潜入とか危険だろとか、そう言う話だろうか?

 でも魔王軍がこっちに着くのは夜の事らしいし。

 それなら最悪、潜入がばれても逃げられる気はするんだけどなぁ。


 そしてこの潜入作戦がうまくいけば……多くの魔王軍の魔物とかをすり抜け、いきなり大将首を捕れる。

 それに、今回の大将首こと魔王は全魔物のステータスを上げるといういわゆる『バッファー』だ。


 そんな存在を前にちまちまと魔物を相手にしてたらこっちが体力負けするか、夜が明けてこっち側が不利になる可能性がある。

 だからこそ手っ取り早く終わらせる為に潜入&不意打ちという電撃作戦を提案したのだが――


『いや、危険とかじゃなくてね!? そんな魔王討伐があってたまるかぁっ! それに夜になったら潜入って言ってたけど、たぶんアンタ達が潜入している間に魔王軍は罠に引っかかった王国軍を襲うわよ? それを無視してアンタは魔王の元に行くつもり?』


「そうですけど?」


『いや普通は王国軍の人たちを助けるものじゃないの!?』


 いや、そう言われましても……。


 勝手にこのアヴリイル村目指してやって来て、勝手に罠にまったのは王国軍さん達の方ですし。

 ついでに言うと、その王国軍を王女経由できつけ、この村まで進軍させたのは他ならぬノクティス様だし。


 だから王国軍の兵士やら王女様とやらがどうなっても、別にいいと思うんだけどなぁ。


 むしろ、魔王軍が罠にかかった王国軍に手を取られてくれるならそれだけこっちの潜入に注意を払う人が少なくなるだろうし、そうなれば魔王不意打ち作戦が成功する確率も上がるしでいい事しかないって思うんですけど。


『そこまで考えての事なら……いや、でも私の勇者がそんな方法で魔王を倒しただなんて知られたら私の信者数が激減するんじゃ……。とはいえ、魔王を倒せる確率は少しでも上げるべきかもしれなくて……』


 ぶつぶつと独り言を呟くノクティス様。

 どうも俺の立てた作戦、ノクティス様にとって手放しで歓迎できるものではないらしい。



「あの……レン様。ノクティス様はなんと言っているのですか?」


「俺の作戦だと現状罠にかかってる王国軍側に甚大な被害が出るからそれで迷ってるんだとさ。でも、魔王軍に王国軍が襲われてピンチになってるのをどうにかしてたら夜が明けちゃうだろうしなぁ……今から罠にかかった王国軍を救出しに行ったとしても『何者だ!?』とかなるだろうし。それに、まだ日も出てるからなぁ」


「ふむ……確かにわたくしとレン様が魔王軍によって守られているはずの魔王の元まで潜入する際、現状王国軍は罠にかかったまま魔王軍の相手をしなくてはなりませんね。そうなると……あっさり突破され、この村までの侵攻を許してしまうかも」


「……え? 王国軍側が足止めも出来ないくらい魔王が直接率いる魔王軍って強いのか?」


 王国軍VS魔王軍。

 いくら王国軍側が俺達の仕掛けた罠にかかり、負傷者を抱えている状況でも、村に侵入されないように足止めくらいはしてくれるだろうと思っていたのだが……。


「ああ、いえ。魔王軍がどうこうというよりは王国軍が弱いだけです。今、この国の人々はかなり疲弊ひへいしていますからね。魔王軍が一丸となって攻めてきている現状、彼らに足止めを期待するのは酷かと……。この国に居る優秀な冒険者達も続々と他国に避難しているみたいですし。あぁ、でも今回は王都の民も連れた大移動をしているみたいですし、肉の壁くらいの時間稼ぎはしてくれるかもしれませんね」


「王国軍による足止め期待できる要素ゼロじゃねえか」


 肉の壁って……そんなのが勘定に入っちゃうくらい弱いのか王国軍。


 そしてこの国から逃げたのかよ優秀な冒険者様。

 いや、俺が冒険者の立場でも魔王なんて相手にしてられるかって言って逃げてたと思うけどね?


「うーん。そうなると考え直した方が良い……か? 魔王軍を俺に始末させる為にここまで誘導した王女様、それと死を覚悟してるだろう王国軍の人たちもどうでもいいんだけどなぁ。特に王女様に関しては俺の能力の事をノクティス様経由で半ば知られちゃってるから、勝手に消えてくれる分には最高だし」


 王国軍やら王女様がどうなろうが俺としてはどうでもいい。

 しかし、俺は「でも……」と続ける。


「この村の人達が魔王軍のいいようにされるのは良い気分しないからなぁ。それに、よくよく考えてみれば王国軍が連れて来た住民達まで犠牲になるって聞くとなんか……なぁ」


 とはいえ、それを全部どうにかしながら魔王の元への潜入作戦まで成功させるのは不可能だろう。

 仮に俺達が王国軍と協力したとしても、魔王軍を抑えられる自信なんて俺には全くないしな。

 夜明けというタイムリミットが来て、右往左往するのが関の山だ。


「はてさて……どうするべきか」


 これは……詰んだか?

 村の人たちなんて置いておいて、サラだけ連れて『後はしーらね』と言って逃げ出すか?


 そんな事を俺が検討していると――



「レン様。わたくしに一つ策があります。魔王軍への潜入作戦の成功率を高めつつ、上手くいけば王国軍が連れて来た王都の住民達と村の人たちを守り切れる。そんな作戦です」


 そんな事をサラは言ってのけた。

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