第36話『魔王様と配下』


 獣人ラザロと裏切りの騎士レイヴン。

 彼らは王女を生け捕りに魔王軍の最後尾に居る魔王の元へと訪れていた。



「――よく戻ってくれたね。ラザロ、レイヴン。驚いたよ、まさか二人とも生きていたなんて……ね」


 魔王に相応しそうな黒塗りの椅子に腰かけながら、柔らかな声で二人の帰参を労う魔王。

 その姿は――まるで人間の青年のようだった。


 黒髪黒目のどこか優し気な雰囲気すら漂わせる青年。

 その頭から小さくも禍々しい角が二本生えてさえいなければ、誰も彼の事を見て魔王だなんて信じないだろう。



「げっへっへっへっへ。俺達は四天王ですぜ魔王様。あんな勇者なんぞにやられる訳ねえじゃねえですかい。深手こそ負いましたが、そんなの一カ月休めば全快しやしたぜぇ。ギヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」


「!? どうしたんだいラザロ!? なんでそんなにおかしな喋り方を!? 頭でも強く打ったのかい!?」


 いつものラザロとは違う様子に驚きを隠せない魔王。

 一体ラザロはどうしたっていうんだ?


 そんな魔王の疑問に、ラザロの隣に居たレイヴンが答えた。


「魔王様。その……ラザロは勇者との戦闘で強く頭をうち、元々バカだったのが更に大変な状態となってしまったのです……」


「いや君も君で酷いねレイヴン!? 確かにラザロはお世辞にも頭がいい奴ではなかったとは思うけど、その言い方はないだろう!?」



 同じ四天王であり、ラザロとの付き合いもそれなりに長いレイヴンの言い方にまたもや驚きを表す魔王。

 そこで何かを誤魔化すかのようにして、ラザロは縄でぐるぐる巻きにされている王女ティリルカを担ぎ上げた。


「そ、そんなことより魔王様。こいつを見てくだせぇよっ! 勇者の野郎は無理でしたが、王女を捕らえてきやした」


「ん? あぁ、そうみたいだね。報告は聞いたよ。まさかたった二人で王国軍を撤退まで追い込み、王女までこうして連れ去ってくるなんて……。驚いた。さすがだね、二人とも」


「王国軍は我らとは関係のない罠に引っかかり、負傷者も多かったですからね。わた……我らはそこを突いただけです」


「ぎゃっひっひっひっひ。魔王様にも見せたかったですぜぇ。訳も分からず半狂乱に騒ぐ王国軍。無理な采配を行った王女への不信感を募らせる奴ら。全く……人間ってやつはどこまで愚かなんですかねぇ。俺は笑えて笑えて涙まででてくる始末だぜぇっ!!」


「あ……うん。そう……だね? まぁ、ご苦労様。とりあえず王女はこちらで引き取るよ。二人はゆっくり休んでいてくれ」



 そうして。

 ラザロは縄でぐるぐる巻きにされている王女を手に抱え、魔王の足元に寝かせるようにして置いた。


 魔王は足元に寝かされた王女へと視線をやり、「ふむ……」と考え事を始め。



 その瞬間――



「――とぅっ!!」


 獣人ラザロはどこから取り出したのか、小さな短剣を魔王へと突き出していた。

 王女の方へと意識を向けている魔王。

 この不意の一撃は躱せない。


 そう思われたが――



「――おっと危ない」



 ――ガッ



 ラザロの突き出した短剣が体に突き刺さる直前。

 魔王はラザロの手を掴み、それを押しとどめていた。



「キミ……ラザロじゃないね? 本物のラザロが僕に歯向かう訳がない……とは言わないさ。ただ、彼がこんな武器を使う訳がない。彼は自分の肉体で戦う事を誇りにする獣人だったからね。加えて、彼が不意打ちなんて卑怯な真似をするわけがないし、そんな彼の拳を僕が止められる訳もない。――君は……誰なんだい?」

 


 獣人ラザロの姿をした目の前の者に、「君は誰だ」と問いを投げる魔王。

 そんな問いに獣人ラザロの姿をしたソレは「はぁ……」とため息を吐いて。



「――さすがは魔王様。第一作戦は失敗……か」


 瞬間、ラザロとレイヴンの姿が崩れる。

 そうして、崩れた後に現れたのは――



「どうも、加藤かとうれんです。魔王さん、特に恨みはないんですけどあなたの命、頂戴しに来ました」



 獣人ラザロに化けていた加藤蓮と、レイヴンに化けていたサラの姿だった――


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