第35話『絶体絶命王女』
蓮とサラが魔王討伐を決意したその日の夕方頃。
森林地帯にある罠にかかった王国軍は意外な人物達によって攻め立てられていた。
「な、なぜ……なぜあなた達がここに居るのですか!? あなた達は勇者によって倒されたと……この一カ月の間、消息を絶っていたからそう軍部は判断していたのにっ!!」
リンドブルム王国第一王女ティリルカ。
彼女は女神ノクティスの神託に従い、アヴリイル村という辺境の村まで王国軍を導いた。
しかし、今のところ結果は散々。
死者こそ出ていないものの、落とし穴に多くの部隊が落とされたり、大きな丸太がいくつも転がってきて後退を余儀なくされたりと……まだ魔王軍と戦ってすらいないのに負傷者ばかりが増えていた。
そして、ダメ押しとばかりに現れたのが――
「ふんっ。確かにあの勇者には手こずらされたがな……。けれど、我らは腐っても魔王軍の四天王。最近動いていなかったのは単に勇者から傷つけられた傷が癒えるのを待っていただけに過ぎん。なぁラザロ?」
「げっへっへっへっへ。そうだぜぇ。あんな勇者に俺たちが負ける訳がねえんだよ。なーレイヴン? という訳で……四天王であるラザロとレイヴンは健在だぞ恐れ入ったかぁっ! ハーッハッハッハッハッハッハッハ」
四天王であるラザロとレイヴン。
蓮の手によって滅ぼされたはずの四天王二人。
その二人が今、王国軍の兵士たちを
「あなた達二人が生きているという事は勇者様は――」
最悪の想像をするティリルカ。
しかし、それは目の前の四天王二人が同時に首を振ったことによりすぐ否定される。
「いや、残念ながら勇者はピンピンとしている」
「げっへっへっへ。今のところはなぁ。だが問題ねえ。魔王様の力を借りて今度こそは奴を血祭りにあげ、その血肉を浴びてフィーバーパーティーだぁ。きぃーっひっひっっひっひっひっひ」
冷静に王女の疑問に答えるレイヴンと、
レイヴンは隣で下品な笑みを浮かべるラザロを見て、なぜかぽーっとしていて――
「くっ、どうしてこんな事に……。ノクティス様のお告げ通りにしたのにっ。お父様と騎士団長にこっそりとノクティス様のお告げの事をお伝えして無理に軍を動かし、希望する多くの領民まで連れてここまで来たのに……どうしてこうなるのですか!?」
アヴリイル村。
そこに居る勇者に魔王軍を押し付ければ後はどうとでもなる。
ただし、その勇者の本領が発揮されるのは夜。
なので夜という時間に勇者と魔王をぶつけるよう、魔王軍をアヴリイル村へと誘導すること。
これがノクティス様のお告げだ。
そんな女神ノクティスのお告げの通りに軍を動かしたティリルカ。
だというのに結果は――これだ。
誰が仕掛けたのかも不明な謎の罠にかかり、そんな不利な状況で側面を四天王に突かれた。
その背後には魔王軍も控えているはず。
このままでは――
しかし、このような状況で目の前の四天王二人が自分達を逃がしてくれるはずがなくて――
「げっへっへっへっへぇ。さぁて。どいつから食ってやろうか? 生きたまま喰ってやるぞぉ? お? そこの兵士いいケツしてんなぁ。ちょいと俺と遊ぼうぜ?」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
途端に猛ダッシュで逃げる負傷していたはずの兵士。
彼の後ろの生存本能が刺激されたからだろうか、それは負傷者とは思えない程のスピードで獣人ラザロに背を向けて逃走していた。
「ぐっふっふっふっふ。逃げるのか。残念だなぁ。だが、逃げるような雑魚には用はなーい。俺に挑みし勇敢な戦士こそ俺は求めているのだ。さぁ……勇敢な者は俺の前に出て来いっ!! それを打ち倒し、その後でお楽しみタイムだ。ギャハハハハハハハーー」
王国軍の兵士たちを挑発するラザロ。
それを前にして多くの兵士が逃走する。
しかし――それをラザロは追わなかった。
「――追ってこない? 獣人ラザロとレイヴン。確かに彼らは高潔な騎士道精神を持つと言われています。だからこそ逃げるような弱者には興味を示さないと……そう言う……事なのでしょうか? ですが、ラザロの人物評が実際に見る物とはかなり違うような?」
気高い騎士道精神を持っていると評されるラザロとレイヴン。
しかし、ティリルカの前に現れたラザロはなんというかこう……下品なのだ。
こんな人物が気高い騎士道精神を持っている?
ティリルカにはとてもそうは思えなかった。
「とはいえ、追ってこないのは
逃げる兵士を追わないラザロとレイヴン。
それを確認し、王女は少し遅れて逃げる兵士達に混じって後退を始めようと――
「おっとすみません」
「なっ!?」
後退を始めようとしたところで、王女の両手をレイヴンが取り押さえた。
いつの間に近づいていたのか、非戦闘職の王女には分からなかった。
「悪いですが……あなただけは魔王様の元に連れて行かせてもらいます。それまでは――眠っていてください」
「あっ――」
そうレイヴンが言った途端。
王女ティリルカは急激に眠気に襲われ、そのまま抗えない眠りに就くのだった――
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