第34話『打倒魔王』


 アヴリイル村を目指して退避中の王国軍。

 その王国軍が俺とサラの仕掛けた罠にかかった。


 その事を今さっき知ったノクティス様は『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』と叫んでいた。


 王国軍をこの村まで誘導したらしい黒幕ノクティス様は、それはもうメチャクチャに驚いている。


 それはそれとして……いや、本当にどうしよう。

 

 この村に迫る王国軍。

 しかし、この村の周辺には俺とサラが仕掛けた罠が大量に展開されている。

 ならば当然、何も知らない王国軍は引き続きそれに引っかかる訳でして。


『いや、ちょっ!? 何してくれてんのよ!? これじゃ王国軍、罠にめられたまま魔王軍と敵対しなきゃいけなくなるじゃないっ!?』


「知りませんよそんな事っ!! 勝手に王国軍を招いたのはノクティス様でしょう!? 俺は悪くないっ! ノクティス様が悪いっ!!」


『アンタを放置してたらいつまで経っても魔王を倒しに行かないだろうからこうして私が動いたんでしょうがっ!! アンタがもっと勇者らしく魔王討伐に力を入れてたら私だってこんな風に暗躍しなかったわよっ!!』


「そうして動いた結果がこれでしょうが!? そもそも魔王軍を迎え撃つにしても今は昼ですよ!? 夜に本領発揮する俺にどうしろって言うんですか!?」


『馬鹿にするんじゃないわよっ! まだ魔王軍は王国軍のかなり後方に居るわっ! 王国軍とぶつかる前に態勢を整える為に時間を使うでしょうし、その頃には夜になってるわよ。その程度の事は王女が計算してくれているわっ!!』


「ノクティス様が計算した訳じゃないのかよっ!! っていうかまさかノクティス様、俺の能力を王女様に話したのか!?」


『言ってないわよ? ただ、夜の方が勇者にとって有利とは言ったけど』


「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



 ノクティス様のポンコツ具合、ここに極まる。


 俺がノクティス様からもらったチート能力。

 日の光に当たっていない時に限り、『想像を創造できる力』。


 この能力の発動条件は信頼していない人物を除き、絶対に公開してはいけないものだ。

 だってこの能力への対策、簡単なんだもん。


 普通に昼、太陽さんが輝いている時、外出中の俺を奇襲すればいい。

 それをされたら俺に成すすべはない。

 チート能力がなければただの大学生でしかない俺は普通に死ぬ。


 だというのに……このポンコツ女神は……。




『あ、その……ごめんなさい。そこまでは考えてません……でした』


 粛々と謝るノクティス様だが、いまさら謝られてもどうにもならない。


 ――決めた。

 この件が終わったらサラと二人だけで秘境の地にでもこもって本格的に隠居いんきょしよう。

 もう村に愛着があるとか。そんな事もう言ってられない。


 いや、そもそも俺の能力の秘密。

 その片鱗を知った王女をここで始末した方が―― 


『あ、うん。王女をどうするかについてはもう任せるわ。もうね、この世界が滅びずに魔王さえ倒してくれれば私はいいのよ。魔王さえ倒したらこの世界の魔物達は弱くなるし。そうすればこの世界は確実に救済完了よ』


 ん?

 魔王さえ倒してくれたらいい?

 しかも魔王を倒せば魔物達は弱くなる?


 それってつまり――


「――な、なぁサラ。王国軍を追って来てる魔王軍についてなんだけど、その中に魔王が居るかどうかって分かるか?」


「これは確認した訳ではなく、伝聞として聞いただけですが……居るみたいですよ。なんでも今回の魔王軍は四天王を撃破された事により、総力戦を挑む構えで王国軍を殲滅せんめつしようとしているのだとか」


『居るわよ。そういう動きがあったからこそ、私は魔王をアンタに倒してもらうべく魔王をこの村に誘導したんだから』



 サラとノクティス様の両名が迫る魔王軍の中に魔王は居ると言う。

 俺はノクティス様はともかく、サラの事は信頼している。

 ならきっと、そこに魔王は居るのだろう。


 なら、次だ。


「ノクティス様。いまさらなんですけど……魔王の能力って魔物の強化能力なんですか?」


『? そうよ。特に厄介なのがその能力ね。世界中の魔物を常時強化する能力。魔王の近くに居る魔物に至っては四天王と渡り合えるほどに強化されてしまうの。言ってなかったかしら?』



 ――言ってねえよ。聞いた事すらねえよ。

 もっとも、仮にそれを聞いていても俺は魔王を倒そうなんてしなかっただろうから今は置いておこう。


「他に魔王の警戒すべき能力ってあります? 普通に強いだけですか?」


『警戒すべき能力……私の知る限りないわね。でも、普通に強いわよ? 四天王たちほど特化して魔術に秀でていたり、接近戦に秀でていたりするわけじゃないけど各ステータスが平均して高い。それが魔王よ』


 なるほど。

 どれだけ信頼できるかは分からないが、魔王の能力で警戒すべきは魔物の超強化って所か。

 なら――



「なぁ、サラ。そしてノクティス様。一つ、調べて欲しい事があるんだけど――」



 その後。

 俺はある調査をサラとノクティス様と協力しておこなった。

 結果――



「これなら……魔王をれるか」


「さすがレン様っ。この方法なら魔王だって簡単にれると思います♪」



『いや、えっと……確かにアンタの作戦通りにいけば魔王を倒せるでしょうけど……まぁ倒せるんだから文句は言わないけどね。勇者らしくはないけど……』


 魔王側の陣営に探りを入れた結果を元に。

 俺は高確率で魔王をれる作戦をサラに明かし、彼女のお墨付きももらった。


 もっとも。

 俺はもうサラと二人だけで秘境の地にでもこもって本格的に隠居いんきょするつもりなので魔王軍と戦う理由なんて全くない。



 全くないのだが――


「魔王軍を俺に始末させる為にここまで誘導したノクティス様や王女様はどうなろうと構わないし、死を覚悟してるだろう王国軍の人たちもどうでもいいんだけど……この村の人達や王国軍が連れて来た住民達が魔王軍のいいようにされるのは少しだけ良心が痛むんだよなぁ……」


 だから――仕方ない。

 勝てる算段もなんだかんだでついちゃったし。

 それにノクティス様の言う通り、これが最後だ。


「ノクティス様」


『なに?』


「もし俺が魔王を倒したら……その後は絶対に働きませんからね? サラに甘やかされながらぐーたら生活。その邪魔はしないとここで確約してくれます?」


『なにそのクズヒモニート宣言……』


 思い切りドン引きするノクティス様。

 しかし、ノクティス様は『でも――』と言葉を繋げ。



『――――――いいわよ。魔王を倒したらもうこの世界はしばらく安定でしょうしね。だから――女神ノクティスの名において……誓うわ。魔王を倒したその後、私はアンタの邪魔をしない。今回みたく裏でアンタの不利益になるような事もしないと』



 女神ノクティス様から言質を取った。

 よし、これでいい。


 今回みたくノクティスに裏で勝手に動き回られたら困るからな。

 女神様の名においての誓いだ。

 さすがに自分の言葉は曲げないだろう。

 

 これで魔王を倒す意味が一つ増えた。


「なら仕方ない……やるか」


 魔王を倒す算段はつけた。

 その後の事に関して、邪魔になりそうなノクティス様に勝手をさせないよう確約も貰った。


 なら危険でも――魔王とバトルする価値はあるっ!!

 今後もノクティス様に裏でこそこそと動かれた方が後々面倒な事になりそうだからな。


 という訳で――


「よしっ――――――準備を始めるかっ!!」


「はいっ!!」

『ええっ!!』



 そうして。

 俺とサラは最終決戦に向け、準備を始めるのだった――


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