第33話『深く罠を張った』
「――――――つまりなんだ? 王国軍が領民を連れたままこの村に迫って来てて? そしてその王国軍は迫る魔王軍から逃げて来たらしい……と」
「はい」
いつもより早く帰って来たサラ。
彼女から話を聞いた話を要約すると、そういう事らしい。
「それは………………とてもマズイな」
「ええ、とてもマズイです」
なんで王国軍が、それも領民を連れてこんな
それは分からない。
しかし、魔王軍も王国軍もこの村に来てもらうのは非常に困る訳で――
『――くっくっく。さぁどうするの加藤蓮。この村を見捨てたくはないでしょう? 今ならば間に合うわ。さぁ――王国軍と共に魔王軍を一網打尽にしましょうっ!!』
生き返ったかのような気勢でそう提案するノクティス様。
そうだな。
確かに俺はこの村を見捨てたくない。
王国軍と協力するかどうかは置いといて、とりあえず脅威である魔王軍だけはなんとかするべきかも知れなくて。
…………
……………………
…………………………………………待て。
「ノクティス様……まさかとは思いますが……なにか仕込みました?」
『………………』
だんまりを決め込むノクティス様。
そんなノクティス様に俺は続けて尋ねる。
「そう言えばここのところ、ノクティス様ってば音信不通でしたよね? 前に俺と交信したのは……ラザロとレイヴンを倒した翌日でしたっけ? その時の話題は確か……あぁ、今日と同じやつでしたね。魔王を倒しに行けっていうノクティス様の神託を俺が拒否してって感じで……でも、よくよく考えればこれって少しおかしくないですか? あれって一カ月くらい前の話ですよね? その間、ノクティス様は俺と連絡を取ろうともせず、なのに久しぶりに今日連絡してきたと思えば要件は前と完全に一緒だなんて……」
『………………』
まだまだ何も答えてくれないノクティス様。
これは――
「――おいノクティス様。ここしばらく俺と関わっていない間、何やってた!? 今日、俺に話しかけてきたのは魔王を倒す為の説得とかじゃなくて俺の動向を監視するためじゃないのか!? だから話題なんてどうでも良くて、俺が断る事を前提に魔王を倒しに行こうとかいう前の話題を持ち出したんだろ!? 違うか!?」
そこまで俺が言うと。
『ふ、ふふ、ふふふふふふふふふふふ』
暗く頭の中に響くノクティス様の笑い声。
笑い声は徐々に大きなものになっていき、そして――
『アッハハハハハハハハハハハハーーッ! そうよ、その通り!! 私が何をどう言ってもクズヒモニートのアンタが魔王を倒しに行くわけがないってのはもう十二分に理解してんのよっ! なら女神たる私はどうするべきか……。簡単な話よ。アンタが魔王を討伐しに行かないなら、魔王からこちらに攻めてきてもらえばいいんだわっ!!』
このアヴリイル村に迫る王国軍。
それを
そんな図面を自分が描いたのだと、まお……女神ノクティスは明かした。
『もう察してるのかもしれないけどね。私がこうやって言葉を伝えられる人間っていうのはアンタ以外にも居るのよ。この国の王女であるティリルカ。彼女は私の言葉を聞く事が出来る『夜の女神の巫女』なのよ。もちろん、アンタにやってるみたいに気軽に話す事はできない。けどね、彼女の夢の中に現れて神託を下すことくらいは出来るのよっ!!』
「つまり……ノクティス様はその王女に神託という名の助言を与えて王国軍をこんな田舎まで引っ張り出してきたと? そうすれば魔王軍もこっちに来るし、そうなったらこの村を守る為に俺も動かざるをえないだろうって考えて?」
『四天王のラザロとレイヴンの時、アンタは逃げずに戦ったからね。こうなったらアンタは嫌でも戦ってくれる……そうでしょう?』
自信満々にそう言い放つノクティス様。
いやあの……。
そう言われると……サラだけ連れて逃げたくなってきますね。
『………………え?』
なんかとても意外そうなノクティス様。
いや。『え?』って言われましても。
だってこの状況は全てノクティス様が作り出したものな訳でして。
つまり俺がこの村から逃げた後、王国軍やこの村の人たちが皆殺しにされてもそれは全てノクティス様が元凶な訳で。
そうすれば俺も別に心を痛める事もなくその後もスローライフを送れると……そう思うんですよ。
『あの……加藤蓮? あなたこの状況で逃げないわよね? 放っておいたら多くの人が死ぬこの現状。勇者としてという前に人として逃げたりなんかしない……わよね?』
俺の心を読んで急に不安になったのか、ノクティス様が急にしおらしい態度になる。
「はぁ……」
全くこの女神様ときたら。
とことん詰めが甘いというか……先をきちんと見据えていないというか……。
ただ、今はそれはいい。
俺が今ノクティス様に言いたいこと。
それは――「もっときちんと俺の心を読め」だ。
『んん?』
それと同時に――
――カランカランッ
家の中のとあるスペース。
そこで木製の板がカランカランと音を立てた。
「あぁ……やはり引っかかってしまいましたね。どうしましょうかレン様」
「本当に……どうしようなぁ、コレ」
『え、嘘。これ、まさか……か、加藤蓮?』
なんだか声を震わせているノクティス様。
だけど、本当に声を震わせたいのはこっちの方だ。
「はい、そうですよーノクティス様。これ、俺とサラが村の周辺に仕掛けた罠が作動したときに鳴る音です。つまり――ノクティス様がいらん事して連れて来た王国軍とやらが罠にかかっちゃいましたねー」
『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
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