第31話『四天王の最期(おまけ話)』
――魔王軍四天王の二人、おまけ話
「しっかしアブカルダルムもリッチモンドの野郎も情けねえなあ。あの勇者がどんな力を秘めてるのか。それは知らねえがアレは真っ当に戦ってきた戦士って感じの顔じゃねえぞ」
「真っ当に戦ってきた戦士に見えないという点には同意しよう。奴からは血の匂いが殆どしなかった。戦いに塗れた血の匂い……それでどれだけの修羅場を潜って来たのか。それを感覚で我らは感じ取れるが、奴からはそれが一切感じられなかったからな」
加藤蓮と決戦の約束をしたその夜。
もう二人のみになってしまった四天王ラザロとレイヴンは泉の傍にテントを張り、野営していた。
「だよな。まともに戦った経験のない新兵。そんな雰囲気を感じたぜ。どれだけ強いのかは知らねえが……なっ」
はむっと狩った獣の肉にかぶりつくラザロ。
今は夕食時。
ラザロとレイヴンは先ほど狩った獣を食している。
ラザロに至っては明日の決戦に備えて英気を養うという名目で酒まで飲んでいる有様だ。
逆に、レイヴンは獣の肉を食べるのみで酒には手を出そうともしなかった。
「確かに新兵という表現がしっくり来るな。もっと言うならば……そうだな。私の奴に対する見立てだが……女神からただ力を貰ったただの一般人という印象を受けた」
「おぉ、それだそれ。ったく。勇者様だってんならもっと戦闘に明け暮れていろよって思うぜ」
「ラザロ……先ほども言ったが油断は――」
「わーってるわーってる。心構えやら戦闘経験はへなちょこだろうと、奴の強さについてまだ俺達はなーんにも分かってねえからな。油断はしねえよ。もっとも、そんな野郎に負けてやるつもりなんざ
そう言いながら酒をぐいっと飲むラザロ。
そんなラザロを見ながらレイヴンは「はぁ……」とため息を吐き。
「お前の強さについては私も認めている。認めているが……もう少し警戒するべきだと私は思うぞ? 敵の強さは未知数。そして現実問題としてアブカルダルムとリッチモンドは奴にやられている。ゆえに、警戒すべきだ。それにあの勇者……勇者という肩書きに似つかわしくない発想をする。明日の決闘ではどんな汚い手を使ってくるか分かった物ではないぞ」
「あぁ!? それはアレか!? 俺があの
「油断をして望めばその確率が上がると言っているのだ。戦いとは……全ての総合力が試される場だ。武力・知力・判断力・戦闘経験・センス……それらを駆使し、敵を上回った者が勝者となる。あの勇者の実力が分からん以上、どちらが勝つかなど私には分からんよ」
だからこそ判断力やセンスを鈍らせるような油断などしてはならない。
そう淡々と告げるレイヴンにラザロは舌打ちして。
「わーったよ。俺が悪かった。確かに俺はあの勇者のひょろい体を見て油断してたな。俺の悪い癖だ」
そう言って飲んでいた酒が入ったグラスを後方に投げるラザロ。
パリィンっとそれが割れるとともに、ラザロは立ち上がる。
「酒も入ったことだしそろそろ俺は寝るわ。お前はどうする? レイヴン」
「そうだな……私も眠っておこう。時にラザロよ。いつも通り索敵については――」
「大丈夫だっての。酒を飲んだくらいじゃ全く支障ねえよ。誰かが近づいてきた瞬間、俺の鼻はそれを察知する。どれだけ酔って眠っていても、俺を奇襲する事なんざ不可能だ」
自らの嗅覚に絶対の自信を持つラザロ。
実際、彼はその嗅覚によって多くの危機を乗り越えて来た。
それは獲物を探すとき。
それは敵が迫ったとき。
それは危機が自身へと迫ったとき。
そのサインをラザロの鼻は見逃さないのだ。
「ふっ。このような時は頼りになるな。では、頼むぞ」
「おうよ」
そうして二人は眠った。
――その数時間後。
ラザロは特大の危機を鼻で察知し、飛び起きた。
「なっ、なっんだこりゃぁ!? 今まで感じた事のねえヤバイ匂いだ。特大のヤベエのが近づいてくるっ。お、おいレイヴ――」
――ゴォォォォォォォォォォォォォォンッ
そうして全てを言い終えることなく。
何が起こったのかも分からないまま、獣人ラザロは絶命した。
同じくして。
四天王レイヴンは就寝したまま、永眠させられた――
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