第24話『明日から頑張る』


「どうやらレン様は勘違いなさっているみたいですね」


 ため息を吐きながらそう言うサラ。

 勘違い?

 俺が何のことかと首を傾げる中、サラは続ける。


「レン様がわたくしを助けてくださったとき、わたくしは言いましたよね? 『わたくしの命はレン様の物。そのレン様が不要だと言うならわたくしの命や存在などゴミに等しい。レン様にお仕えできないサラ・ヴィヴァレンティなどその辺で野垂れ死にしてしまえばいいと思います』と。あの時の誓いは今もなおわたくしの中に残っているのです」


「あ、あぁ、うん。言ってたね……そう言えば」


 それは俺が魔王軍の四天王である……なんか〇ジモンっぽい名前の人を討伐した時の話。

 あの時、サラは俺と一緒に行けないなら自害するとか、そんな過激な事を言っていた。

 その中で、確かにさっきのセリフを言っていた……気がする。


「わたくしにとってはレン様こそが世界。レン様こそが全てです。仮にレン様がずっとベッドにこもって働かない男性になったとしても。仮にレン様がその実力で夜な夜な女性をいたぶるような畜生だったとしても。仮にレン様がわたくしの事を道具のようにこき使おうとも。わたくしはこの一生涯をレン様に尽くすと心に決めているのですっ!!」


「いやそこは尽くすなよ!? もうそれは普通に見捨てて新しい人生を歩もうよ!?」


 あまりにも悲壮な覚悟を決めていたサラに俺はたまらず突っ込む。

 ベッドにこもって働かないはともかく、後の方は完全に悪人じゃねーか!

 こちとらそこまで堕ちてないよっ!!



「わたくしの新たな人生。それすなわちレン様ですから。なので、わたくしがレン様に愛想を尽かす日など未来永劫みらいえいごうおとずれませんよ? レン様の事はずっと。ずーーーーーーっとこのサラがお世話させていただくのでどうか世間の事など気にせずレン様は気ままに過ごしてください」



 そんなサラの宣言に俺は戦慄せんりつを覚えていた。


 舐めていた。

 俺はサラの覚悟を舐めていた。

 まさかそこまでの覚悟を決めて俺に付き従っていたとは……。


「お、俺は――」


 ダメだ。


 このままサラのペースに乗せられたまま、毎日を自堕落に過ごしていたら確実にダメ人間になる。

 もっとも、働いていない時点で既にダメ人間じゃねえかと言われたら言い返せない訳だが。


 だが、今の俺はまだ取り返しのきく段階に居る。

 そう俺は思うのだ。

 なにせ俺は働いてはいないものの、働く気はあるし、サラにも深く感謝しているからな。


 ――しかしだ。


 サラの好意に甘えて、それに寄生するかのようにスローライフを送る。


 そんなのを続け、ずっとずーーーっとサラに甘やかされながら今後も過ごしたら……いつか働かない事が俺の当たり前になりそうで怖い。


 サラに甘やかされるのが当然で、それなしでは生きられなくなりそうなのが本当に怖い。

 もしかしたら魔王よりも怖いかもしれない。


 だから俺は――


「どうしたんですかレン様? 顔色がとても悪いですよ? 今日は早めにお眠りになられますか? わたくしの胸の中で。子守唄こもりうたでも聞きながらお眠りになられますか?」


「ぜひお願いしま……じゃないっ!! いや、その――」


 おっと危ない、これは罠だ。

 妖艶な笑みを浮かべるサラ。

 その豊満な胸に今すぐ飛びつきたいところだが、俺は我慢が出来る男。


 強い覚悟を持って俺は今この瞬間からダメ人間を脱却するべく気合を入れなければならなくて――


「ふふっ。照れているレン様のなんと可愛らしい事か……。はぁ……はぁ……正直わたくし、かなり興奮してきました。なのでレン様……今夜は一緒に寝ませんか? 大丈夫です。絶対にわたくしからは手など出しませんからっ!!」


 サラの金色の瞳が輝く。

 その熱い視線を俺へと向けてくるサラ。

 どうしよう。とてもエロく見える。


 正直『はい喜んでー』と言ってサラの誘いに乗りたい。


 その豊満なおっぱいで存分に癒されながら。

 子守唄というサラの歌声を聞きながら心安らかに眠りたい。

 


 だけど俺は――


「いいじゃないですかレン様。そんなに思い悩まなくても。そうやって苦悩するレン様の顔をわたくしは見たくありません。ですからそう……ぐっすり寝てからまた明日考えませんか? 宜しければわたくしも相談に乗りますから」


「また……明日?」


「ええ、明日です。レン様が何かをしなければと焦っているのはわたくしも理解しました。ですが、そう思い悩んでも良い考えなど出てきませんよ。ですから……ね? 今日の所は早めに寝て、また明日考えましょう?」



 魅力的なサラの提案。

 それに対して俺は――


「じゃ、じゃぁお言葉に甘えて……今日は一緒に寝ようか?」


「はい、喜んで♪」



 俺は面倒ごとは明日考える事にして、今日は存分に甘やかされながら寝る事にした――


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