第23話『サラの為に』
「え? レン様がわたくしの為に何かしたい……ですか?」
その日の夕方頃。
仕事から帰って来たサラと一緒に夕食をとりながら、俺は例の話を持ち出した。
「ああ、サラには世話になりまくってるからな。いや、本当にこの村に来てから世話になりっぱなしで……むしろ迷惑までかけて……すいませんでした」
「ふふっ。気にする事などありませんよ。だってレン様のお世話はわたくしの生きがいですもの。それに迷惑だなんて……思い当たることがいくつもありますけど特に気にせずとも大丈夫ですよ?」
そっかー、じゃあ気にしないでおくね。
なんて言えるほど俺の面の皮は厚くない。
「いやいや、さすがに気にするって。だから俺もなにかサラの為になる事をしたいんだが……何かあるか? ノクティス様は魔王を倒して世界を救いなさいって感じだったけど。そうすればサラの為にもなるからって」
「わたくしの為に魔王を……ですか? しかし、レン様は魔王とは戦いたくなかったのでは?」
「それはそうだけど、魔王退治がサラの為にもなるんならやってもいいかなって」
俺がサラの為に何かしたいのは本当だ。
サラの望む事なら多少危険だったり困難な事でも俺はやれる。
サラが魔王を倒しに行ってきて欲しいと言うなら、俺もヒモニートを辞め、危険を承知で魔王やら四天王やらとのバトルをするつもりだ。
「わたくしの為にそこまで……。レン様からそんな言葉を頂けるなんて。とても嬉しいです」
頬を赤くするサラ。
そうして。
俺は魔王を倒すべく今日から動き始め――
「ですが、魔王退治など無理にせずとも良いですよ? レン様が嫌ならばなおの事です」
――俺の魔王退治の旅は始まる前に終わった。
「え? いや、あの……俺が言うのもなんだけど良いのかそれで? ノクティス様が何度も話してくれたけど、この世界って魔王によって滅ぼされそうなんだろ? それなのに仮にもノクティス様に勇者認定された俺が魔王退治に乗り出さないって……それでいいのか?」
ノクティス様がここに居たら『本当にお前が言うな』とでも言われそうな発言。
ただ、俺の感情云々を置いておくなら勇者は魔王を倒さないとダメだと思うのだ。
仮にこの世界の人々が勇者が既に召喚されている事を知っていたら。
そうであればこの世界の誰もが勇者が魔王を倒してくれるようにと強く願うだろうと。
そう俺は思っていたのだが……どうやらサラはそうじゃないらしく。
「あら、ノクティス様から聞いていないんですかレン様? 現在、魔王軍は四天王を二人も倒された事で慎重策をとっているようですよ? レン様の事を知らないのは魔王軍も同じですからね。二人の四天王を倒したのは何者かと魔王軍は斥候を人類の中に放っていると噂になっているのですが……」
「マジですか」
え?
なにそれ?
何も聞いてないんですけど?
「なるほど……そうですか。ノクティス様は何も仰っていなかったのですね。という事はもしかして……。レン様、人類側も四天王を倒したのは誰か探っているという話はご存知ですか?」
「全く知らないです」
え? 俺の知らない間にそんな事になってたの?
魔王軍と人類側から捜索対象になっているらしい俺。
そんな事、ノクティス様は何も言っていなかったのだが……。
「ともあれ、しばらくは魔王に世界が滅ぼされるような事にはならないと思いますよ? もちろん、魔王軍傘下の者による散発的な人類への攻撃は続いているでしょうし、それによって何人もの人が不幸になっているでしょうが……レン様が無理をしてまで出るほどではないですよ」
「それでいいのか!?」
本当に俺が言うなという話だが、それでいいのかサラ!?
何人もの人間が不幸になっているのに一人の女の世話になりっぱなしで、働く事すらしないヒモニートこと勇者。
俺の事である。
そう考えたらもう罪悪感で胸がいっぱいなんだが……。
「もちろんいいですよ。見知らぬ人が何千人泣こうが喚こうが、わたくしはレン様さえ居ればそれでいいのですから。それに――」
「それに?」
そこでサラはしばらく「うーん」と考え込み。
「なんというか……レン様がノクティス様の言う事を素直に聞くのはやはり何か違うかなと。自分でもうまく言えないのですが……何なのでしょうねこの感情は。いつでもレン様と繋がっていられるノクティス様に
おいやめろ。
俺は確かにノクティス様の意に反する事をしまくっている。
そんな自覚はもちろんあるが、だからってそれをお家芸みたいに言うんじゃない。
いや、確かにノクティス様に逆らってこその
「そ、そうか……。え? という事は……結局俺は何をすればいいんだ? 一応、サラに愛想を尽かされないように努力したいんだが……働いたらまたサラに迷惑をかけそうだしどうしようかなと……」
魔王討伐。
その意見をサラが突っぱねると思っても居なかった。
だからだろう。
俺は素直に自分の思っている事をサラに告げてしまっていた。
「愛想を……尽かす?」
「あ……」
そこで俺は自分の失言に気付く。
しまった。
サラに愛想を尽かされないように頑張る。
それは嘘偽りない俺の本音なのだが、それをサラ本人に言うのは格好悪すぎるだろう。
だからこそ俺はサラに今まで散々世話になったので恩を返したいと思っているという形で話を進めていたのに……。
別にサラに俺の本音がばれてマズイ事はない。
マズイ事はないが……その……格好悪いし、普通に恥ずかしい……。
そんな俺を見てサラは何を思ったのか「はぁ……」と深いため息を吐き。
そして。
「どうやらレン様は勘違いなさっているみたいですね」
そう告げたのだった――
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