第28話『武士道精神』


「待て待て待て。早とちりするな。こうなった以上戦わないとは言わないよ。ただ、時と場所だけ変えないか? ここは俺にとって大切な場所でさ。村の中でやり合うのも避けたいし、何より俺は戦う準備も何も整ってない。そんな不完全勇者を倒すのが完全武装のお二人さんの望みなのか?」


 俺はそんな事を武士道精神を持ち合わせていそうな二人に言った。

 すると。


「「む……」」


 先ほどまでやる気満々だった二人が怯む。


 やはり……な。


 こういう武人タイプの奴はとにかく『正々堂々』というのを好む。

 相手が誰だろうが、同じ土俵に乗って戦いたがるのだ。


 そんな奴らを躊躇ちゅうちょさせるには、今の状況が『正々堂々』じゃないと教えてやるのが一番だ。

 そうするだけで最低でも時間だけは稼げる。


「な? いいだろ? 時と場所を変えるだけだ。戦わないとは言ってない。もし俺が逃げたら……そうだな。この村の人間を皆殺しにしてもいい。俺だって一応勇者だしな。そうやって村の人間を盾に取られたら戦わざるを得ないんだ」


「ん? あぁ、それはそう……なのか? お、おい。どうするレイヴン」


「いや、私に言われてもな……。というか……貴様、本当に勇者……なのか? 戦いの場に出なければ村の人間を皆殺しにしていいなど。それは我らが提案すべき事であって貴様が提案するのは何か違う気がするのだが……」


 なぜだろう。

 目の前の四天王二人が想定以上にうろたえている気がする。

 そんな二人の視線はまるでクズ野郎でも見ているかのようで。


『そうよねーー。こんな勇者居る訳ないわよねーー。しかもこいつ、村の人間がどうなろうと鼻をほじりながら逃げ出しそうだし。だから遠慮なくこの場でやっちゃって欲しいけど……今、私の声はこのクズヒモニートにしか届かないのよね……はぁ……』


 おかしい。

 俺を勇者認定したノクティス様。


 そんな俺の味方であるはずの女神様はなぜか四天王の肩を持ち、あっちに話しかけられない事を残念そうにしていた。

 

 おいノクティス様。

 味方する相手を間違えてませんか?


 俺はそう心の中でノクティス様に届くように呟いた。

 すると。


『はぁ? さっきも言ったでしょ? 私の最大の敵はアンタよクズヒモニート。私がこの二人に語り掛ける事が出来る立場なら問答無用で斬りかかりなさいってお告げを与えてるところだわ』


 完全に俺を敵認定しているらしいノクティス様。

 さっきも似たような事言ってたけど、アレ冗談じゃなくて真剣マジだったんですか!?


 ………………マズイ。

 どうやら俺は完全に女神ノクティス様を敵に回してしまったらしい。

 こっちとしては敵対するつもりなんて全くなかったのに――



『ふーん。へーえ。そうなんだ。私に敵対するつもりなんてなかった……ねぇ。強力なチート能力貰っておきながらロクに魔王と戦おうとせず、冒険者になる事すら拒否する。私の言う事を全く聞かず、挙句の果てにはクズヒモニートになって、それでもいつか立ち上がってくれると信じてたのに今のクズヒモニートである自分を受け入れる始末。そうやって私の期待をことごとく裏切ってきたアンタが私に敵対するつもりなんてなかった……ねぇ?』




 ……マジですみませんでした。


 完全にキレている感じのノクティス様の声に俺は言い返す事すら出来なかった。


 しかし……そうか。


 ノクティス様からしてみればせっかくチート能力を与えて送り出した勇者が冒険者にもならず、挙句の果てには働こうとすらしないニートになってるって感じなのか。


 そう考えればノクティス様が俺を見放すのは……当然なんだろうなぁ。


「――おい…………おいっ! 何を一人で頷いている!? こっちの話を聞いているのか!?」


「あ、ごめんなさい。なんか言いました?」



 ノクティス様との会話に夢中となってしまっていて、目の前の獣人四天王が何か言っていたのを聞き逃していたようだ。


 

「てめぇの思惑おもわくに乗ってやるって言ったんだよ。戦う時と場所。てめぇが好きに決めな」



 おぉ、その事か。

 どうやら戦うまでの時間を引き延ばす事には成功したようだ。

 計算通りである。


『戦う時は一年後……なーんて言わないでしょうね? それとも戦う約束だけして逃げ出すとか?』


 呆れたようなノクティス様の声が再び頭に響いてくる。

 なんて失礼な。

 俺だってやる時はやるんだ。


 この期に及んで時間を思いっきり引き延ばしたり、逃げ出したりするつもりなんてない。


『え!? という事は……まさか……』


 驚いている様子のノクティス様の事は置いておいて。

 俺は獣人四天王へと戦う場所と日付を告げる。


「戦う場所はこの村の西方にある荒野。そこにある泉の辺り。時間はそうだな……明日の朝なんかどうだ?」


「泉? あぁ、途中で野営したあそこの事か」


「明日の朝……か。それなら構わないだろう。あの場所なら野営にも適しているし好都合だ。障害物のない方がラザロにとってもやりやすかろう」


 特に異論はないらしい四天王二人。


 そうして。

 四天王二人は決闘の約束だけして、去っていった。



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