第27話『見抜かれました』

「――貴様、怖がる演技をしているな? 本当は我らの事など恐れていないだろう?」


 既に確信しているかのようにそう言ってきたのは眼帯を付けた方の四天王。

 そんな四天王の言葉を聞いて――



『いぃぃぃぃぃぃぃよっしゃぁぁぁぁぁっ!! よくやったわ四天王レイヴンッ!! さすがは人類を裏切って魔王軍側についただけの事はあるわね。その素晴らしい観察眼。よくぞこのクズヒモニートの演技を見抜いたわ。この場所を見事探り当てたライオンの獣人であるラザロも…………本当に……ほんっとうにありがとう!!』


「頭の中でぎゃんぎゃんうるさいですよノクティス様っ!! っていうかなんで魔王軍の奴らを褒めてるんですか!? こいつらアンタにとっては敵でしょ!?」


 事もあろうに魔王軍四天王に良くやったと感謝の言葉まで送るノクティス様。

 その感謝の言葉は当の二人には伝わらないだろうが、こっちとしては突っ込まずにはいられなかった。


 だって、四天王やら魔王を倒せと言ったのは紛れもなくノクティス様のはずで。


『はぁ? 何言ってんの? 私の敵。最大の敵は……アンタよ、ロクに言う事を聞かないクズヒモニート』


「いやマジで何言ってるんですか!?」


 馬鹿な事を言い出すノクティス様。

 いや、確かにノクティス様の言う事を俺は全然聞かないんだけども。

 だからって女神様が魔王軍の人に声援を送るって色々間違ってるでしょうがっ!!


 などと色々と文句はあるが、今はそれどころではなく。


「ノクティス……夜の女神ノクティスか。一見脈絡もないその物言い……貴様、さては女神に選ばれた勇者だな? 大方、その加護で女神とコンタクトを取り続けているといった所だろう」


「な……マジかよ。こいつが……勇者? だ、だがよレイヴン。そいつはおかしくねえか? こいつの貧弱な肉体に貧弱な魔力。とても勇者には見えねえ。こんなのが本当にアブカルダルムやリッチモンドを殺ったってのかよ?」


「油断はするなよラザロよ。以前、魔王は言っていた。勇者は女神から特別な能力を与えられる存在だ……とな。ゆえに、もしこやつも何かしらの能力を女神から授かっているのなら――」


「――なるほどな。もし俺達の知らないような未知の能力をこいつが秘めているのなら……肉体や魔力をいくら探っても実力なんざ分かる訳がねえ。油断は禁物って訳か」


 先ほどまで警戒を解いていた獣人の四天王であるラザロ。

 それが眼帯を付けた四天王レイヴンの忠告を受けて俺へと鋭い視線を飛ばしながら身構えてしまった。


 ぐぅ……さっきまでのようにこっちを一般人と舐めて油断していればいいものを……。


 四天王レイヴン。

 さっきのラザロやノクティス様の説明通りなら、こいつは強さのみを追い求める武人タイプの四天王という所か。


 このタイプの戦いの果てに強さを求めてる奴は汚い手などは使わない傾向にある。

 だが、その代わり相手が何者だろうが油断しないという実に厄介な特徴を持っている。

 

 そう言う意味では俺との相性はあまりよくないかもしれない。


 しかし――


「それならそれでやりようはある……か」


 幸い、レイヴンと共に行動している獣人の四天王であるラザロは実力だけで頭が空っぽなタイプの四天王だ。

 こういうのは油断もしてくれるし、何よりバカなのでこちらの作戦にポンポン引っかかってくれる。


 つまり今のこの場面。

 レイヴンだけを言いくるめれば………………後はどうとでもなるっ!!


「ほぅ……ようやくやる気になったか。やはり先ほどまでのは我らの目をあざむくための擬態ぎたい。そうやって我らを油断させておいて隙を突くつもりだったのだろうが……失敗だったな。その手の輩が私はともかく、ラザロは大層嫌いなのだよ」


「ああ、ちまちま小手先の技ばっか使う野郎は大嫌いだよ。なーにがやりようはある、だ。オスなら小手先の技なんか使わず己の力で全てを解決しろってんだ。気に喰わねえ。本当に気に喰わねえなぁ……おいレイヴン。こいつは俺にやらせろ。このクソ生意気な勇者の肉、残さず食い散らかしてやる」


「ふっ……御覧の通りだ。そして……良いだろうラザロ。私は手を出さん」


 泣きわめく演技をやめ、立ち上がった俺に対してやる気満々の四天王二人。

 武士道精神的な何かを持ち合わせていそうな二人だからだろう。

 予想通り、二人一緒に襲い掛かってくる事はなさそうだ。


 ――勝機っ!!


 俺は眼前の二人に対し、努めて不敵な笑みを浮かべてみせ。


「ふっ……勘違いするなよ四天王さん達。俺は争いが嫌いでな。お前さん達のお仲間の四天王も襲ってきたから撃退しただけ。今さっき演技をしたのも争いを回避しようと思っての事だ。不意打ちするつもりなんて最初からないんだよ」


 強気にそう言い切る俺。

 争いが嫌いなのは本当だし、だからこそ争いを回避しようとしていたのも本当だ。

 もっとも、お仲間の四天王を襲ってきたから撃退したというのは嘘だが。


「ハッ――。んなの知るかよ。てめぇが争いが好きだろうが嫌いだろうが関係ねえ。俺は殺し合いが大好きだ。だからやる。それで十分だろっがよぉっ!!」


「然り。どれだけ貴様が嫌がろうが我らは貴様との戦いを望む。貴様が強者である限りな」


「――そういう訳だ。だから戦いを回避しようとしても無駄だぜ? 仮に逃げても――」


 俺が嫌がろうとも関係ない。

 あくまでも戦いのみを望むと言う二人。


 俺はそんな二人に対して手のひらを突き出し。


「待て待て待て。早とちりするな。こうなった以上戦わないとは言わないよ。ただ、時と場所だけ変えないか? ここは俺にとって大切な場所でさ。村の中でやり合うのも避けたいし、何より俺は戦う準備も何も整ってない。そんな不完全勇者を倒すのが完全武装のお二人さんの望みなのか?」


 武士道精神を持ち合わせていそうな二人に対し、効きそうなセリフを言ってみた――


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