第20話『我が家ゲットだぜ』


 村長さんとの交渉の結果。

 俺とサラは村の片隅にあった家を貸してもらえることになった。


 数か月前まで他の誰かが住んでいたらしい家。


 なんでも前にこの家に住んでいたのは二人の兄妹らしい。

 その兄妹は両親を魔物に食い殺され、失くしたのだとか。


 兄妹は魔物への復讐のため。

 そして、同じような想いを誰にもさせない為に冒険者を目指し、冒険者ギルドを目指して旅発たびだったのだと。

 そう何も聞いていないのに村長さんは語ってくれた。


『――そんな話を聞いたのにアンタは何も思わなかったんだ?』


「うるさいですよノクティス様。あんな話を聞かされたらさすがの俺だって思う所はあるに決まってるじゃないですか。ただ、そんな見ず知らずの兄弟よりも自分の命の方が大事ってだけです」


『勇者の風上にも置けないわね……』


「さすがレン様です!! 情に流されず的確な判断を下せるなんて。このサラ、感服しましたっ!」


 キラキラとした尊敬の眼差しを向けてくるサラ。


 おいやめろ。

 そんな綺麗な目で俺を見るな。

 的確な判断とかそんなんじゃなく、ただただ危ない目に遭いたくないし俺にはどうでもいい事だしと感じてた俺がひどく汚れてる気分になるじゃないか。



『それは大丈夫でしょ? だってアンタ、とっくに汚れきってるもの』



 ノクティス様は黙っててください。



 ――――――そんな訳でだ。


 俺達は無事にこの村に住む事を許されたわけだ。

 後はのんびり農業でもやりながら暮らすだけ。



「そういえばレン様。農民になりたいと仰っていましたが……農作業に関する知識はあるのですか?」


「え? そりゃまぁ適当に土を掘って種をいて……後は雑草とか抜けばいいんじゃないか?」


「………………」


 俺の答えを聞いて固まってしまうサラ。

 あれ? もしかして違ったか?

 なんかそんな感じで適当に畑を耕したら野菜とかが生えてくるっていうイメージだったんだが……。


『やっぱりアンタ馬鹿でしょ。農民舐めんじゃないわよ』


 ……ぐぅの音も出ない。

 正直、農民なんて誰にでもやれると思って舐めてました。



「さ、さすがレン様ですね……。しかし、それでは上手くいかないと思います。なので……どうでしょう? わたくしにもこの家の農作業を手伝わせては貰えないでしょうか?」


「え? サラって農作業とかできるのか?」


 俺の記憶が正しければサラはどこぞの貴族のご令嬢とかだったはず。

 そんな子が農業の知識を有しているとは思えないのだが……。


「ええ、確かにわたくしにはその手の知識はそれほどありません。ですが、ご安心ください。わたくし、こう見えても人と接するのが得意で、物覚えも良い方なんです。なので、この村の方々と交流を重ねて農作業の知識を身に着けたいと思うのですが……どうでしょうか?」


 俺の力になるべくそんな提案をしてくれるサラ。

 サラやノクティス様に言われるまで農業を舐め切っていた俺としては……願ったりかなったりの提案か。


 仮に俺一人じゃうまく出来なくても。

 二人ならうまくスローライフを送れるかもしれない。

 ――――――よし。


「それじゃあ頼めるか? 俺も正直言うと農業舐めてたからさ。サラと一緒に勉強させてもらうよ」


「さすがレン様。なんて勤勉なんでしょう。このサラ、感服いたしました」


 一々オーバーアクション気味に俺を褒めてくるサラ。


 しかし男なんて単純なもので、わざとらしいなぁとは思うものの悪い気はしない。




「とはいえ、長旅で疲れたでしょう? レン様はお休みください」


「あー、うん。そうだな」



 夜中であるにも関わらず俺とサラはこの村まで旅をしたんだ。

 当然のように疲れているし、少し眠い。


 もっとも、旅と言っても数時間程度の旅だし、歩き疲れたわけでもない。


 日の光が出ていない間はノクティス様から頂いたチート能力が使えるからな。

 夜の間はバイクをイメージして高速で移動した。


 しかしそれでも疲れは貯まるし、眠い物は眠い。

 というか眠い事を自覚したら更に眠くなってきた。

 ここは大人しく眠っておくことにしよう。



「ふぁぁ。それじゃあ俺はさっそく寝る事にするから。お休み~~」


「ふふっ。レン様ったらあくびまで可愛いですね。――はい。お休みなさい」


 そうして。

 俺は貸してもらった家の床に寝そべり、寝た。




 しかし。

 この時俺は気付くべきだった。

 サラが言った言葉の意味をもっと深く考えるべきだったんだ。



 そう。

 先ほどサラは……「レン様はお休みください」と言ったのだ――

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る