第19話『辿り着いたぜ辺境の村っ!』


『で、どうしてこうなった訳?』


 おぉ、これはこれはノクティス様。

 どうしてこうなったと言われると……まぁ話せば長くなる訳ですが……。


『話さなくてもいいわ。昨日、私との交信が途切れてからの事を思い返しなさい』



 ――夜が明け、ノクティス様の声が届くようになった頃。


 俺はサラの案内の下、いかにも辺境の村という場所にたどり着いていた。


 そこでたった今ちょうどノクティス様からお声がかかり……今に至る。




「レン様? どうかなさいましたか?」


 俺が考え事をしているのを察したのだろう。

 隣を歩くサラが小首をかしげながらたずねてきた。


「女神さまからお声がかかったんだよ。ほら、道中で話しただろ? 俺をこの世界に放り込んだノクティス様は夜を司る女神でさ。夜の間は忙しくて交信が出来ないけどそれ以外の時は今みたいに頭に語りかけてくるんだよ」


「ノクティス様……あぁっ! レン様をこの世界に導いてくださった女神様ですね!? ノクティス様……わたくしはあなたに深く、深く感謝しています」


 誰も居ない頭上に向かって祈りを捧げるサラ。


 この村に来る道中、サラには俺の事を一通り話してある。

 そこでノクティス様の事も話したのだが、サラは俺をこの世界に引っ張り込んだノクティス様に深く感謝しているらしい。


 俺としては自分の人生を滅茶苦茶めちゃくちゃにした元凶である女神様なのだが……まぁいいか。信仰なんて人それぞれだしな。


『――――――その事については悪かったと思ってるけど……しかしまた妙な事になってるわねぇ。まさかまた四天王に遭遇して、それを倒しちゃうなんて。ねぇ加藤かとうれん。アンタ、この調子で四天王を倒していって魔王も倒してくれるつもりは――』



 ないです。



『そう……よねぇ……。はぁ……』



 俺の記憶やら考えを読んで昨夜の出来事を把握したらしいノクティス様。

 確かに俺は昨夜、四天王リッチモンを倒した。


 だけど、あれはその場の流れで仕方なくだ。

 そもそも、昨夜の俺はどうかしていた。


 夜の闇。

 サラに迫る四天王。

 多くのアンデッド。


 それらを前にしてどうにもテンションが上がってしまったのだ。

 夜の間はなんとなくテンションが上がってしまう。

 それは夜型の人間なら誰もが覚えがある事だろう。


 だが、それを加味しても昨夜の俺は行き過ぎだった気がする。

 やはりアレだろうか。

 夜の女神様に選定されたから、テンションなんかも上がりやすくなってるんだろうか?


 そんな風に頭を悩ませていると。


『いや、私の恩恵にそんなのないから。アンタが昨夜、みょうにノリノリだったのはアンタの中でくすぶってた厨二ちゅうにが再発動しただけだから』


 身もふたもない事を言ってのけるノクティス様。

 というかなぜ俺の黒歴史を……あ、そうだ。心が読めるんだった。



『いや心を読めるとかそんなの関係ないから。アンタの厨二発症の黒歴史。それもこの世界に送る勇者の選定基準に入れてたのよ。だから昨夜のアンタのノリノリな行動は私としてはとても嬉しい。なのに……ねぇ加藤かとうれん。アンタ本当に農民になるつもりなの? 考え直す気はない?』



 ないです。

 俺は農民になってここでゆったりまったり過ごすんです。

 だから――


「――レン様……レン様っ!!」


「うぉっと」


 ノクティス様と頭の中で会話している最中。

 さっきまでノクティス様に祈りを捧げていたサラが俺の腕を掴み、割り込んできた。



「ど、どうしたサラ?」


 俺がどうしたと聞くとサラは少し悲し気な瞳を向けながら。


「酷いですわレン様。わたくしという者がありながらノクティス様とばかり語り合い、わたくしを無視するだなんて……。それほどわたくしには魅力がありませんか?」


 そう言いながら俺の腕にその大きな胸を押し付けてくるサラ。

 無視していたつもりはないのだが……確かに脳内会話をしていてサラの事をおざなりにしていた気はする。


「い、いや、その……悪い。あ、でも勘違いするなよ? サラに魅力がないだんて思ってる訳がなくてだな? サラは魅力的だよ。うん、間違いない」


「本当ですか?」


「ああ、ホントホント」


「ふふ、そう言っていただけると嬉しいです。では、レン様。今一度わたくしの話に耳を傾けてもらってもよろしいですか?」


「ああ、うん。どうした?」


「この村の村長さんに挨拶に行きませんか? 大変言いにくい事なのですが……わたくし達、目立っています」


「……はい?」



 言われて俺は辺りを見渡す。

 すると村の中から俺達をいぶかしげな目で見つめている村人達。



 きっと今から山に狩りに行ったり農作業しようとしていた人たちも居たのだろう。

 その手にクワを持っていたり、狩猟用の道具を持っていたりしている。



 ――――――そういえばここ、もう村の前でしたね。

 そんなところで見知らぬ男女が二人、ずっと突っ立っていたらそりゃ注目されますね。



「――――――そ、そうだな。村長さんに会いに行こうか、うん……」


「あぁっ。注目されている事に今さら気づいて顔を赤くしているレン様も可愛いですねっ。抱きしめながら頭を撫でても宜しいですか!?」


「――やめろぉっ!! これ以上注目されるような行動は控えるんだっ!」


『なんというかこの子も結構な問題児というか……前途多難ぜんとたなんねぇ……はぁ……』



 そんな風にノクティス様の呆れた声を聞きながら。

 俺は近くの村人に声をかけ、村長さんの家へと案内してもらうのだった――


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