第15話『それは陰陽術のような』


 サラさんの前に立ち、迫るアンデッド達を迎え撃つ事にした俺。

 俺は目をつぶりながら人差し指と中指を立て、強く……強くイメージする。


「ほぅ、迎え撃つか。この数を? 貴様が如き魔力の乏しい一般人がか? く、くはははは。愚かな。先ほどの貴様の力が何なのかは不明だが、時が悪かったな。今は夜。我らアンデッドの力が最も高まる時――」


陰陽八卦救急如律令おんみょうはっけきゅうきゅうにょりつりょう如何いかなる化生けしょうもここに調伏ちょうぶくせんっ!!」




 アンデッド四天王の言葉に応えないまま、俺は印をきる。

 もっとも、これは適当だ。


 大事なのはイメージ。

 それっぽい振る舞いをすることで、脳裏に描かれる俺の術はその精度を高めるのだ。


 そして――術は完成した。


「地を這う龍よ、首なしの騎士よ、天を駆ける黒馬こくばよ。そのくさびを解き放ち、四聖しせいの獣の名のもとに我が軍下に帰化せんっ。従属術――――――化生怨縛鎖けしょうおんばくさっ!!」


 そう俺がイメージした陰陽術を唱え切ると。

 イメージした通りの黒い鎖が俺の手もとから伸び、目に見える全てのアンデッドと繋がる。

 すると。


「な……んだと」

「嘘……止まっ……た?」


 俺を目掛けて襲ってこようとしていたアンデッド達。

 その全てがピタリと動きを止め、微動びどうだにしなくなっていた。



「くっ。貴様ら何をやっている。この……何故だ!? なぜ動かせぬ!? 我の生み出したアンデッドだぞ!? それがどうして我の意のままに動かぬのだ!?」


 焦ってアンデッド軍団を再び操ろうとしている四天王その2。

 だが……無駄だ。


「面白い事を言っていたな。夜がアンデッドの力が高まる時? 時が悪かった?」


 俺は手元から伸びる黒い鎖をジャラジャラと鳴らしながら。

 アンデッド軍団を操ろうとしているのに全然うまくいっていない四天王その2さんの勘違いを正すべく告げた。


「残念ながら時が悪かったのはお前の方だよ。夜は我が女神の恩恵をもっとも発揮できるとき。そして――俺のような夜型の人間のテンションが上がる時だぁぁっ!!」


「「「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――」」」


 俺がそう言い放つのと同時に雄たけびを上げるアンデッド達。

 それを見て一瞬安堵の表情を見せる四天王その2さんだが、すぐにその顔が恐怖に染まり。


「わ、我の思い通りに未だ動かぬまま……だと? まさか……いや、あり得んっ!! 魔力の残滓ざんしすら感じさせぬ貴様がこれほど多くのアンデッドを……それもただの人間が我の指揮下にあったアンデッド達を操れる訳が――」


「――なら、試してみようか?」


 そう言って。

 俺は手始めにドラゴンゾンビ、デュラハン、ナイトメアを三体ずつ四天王その2へと襲いかからせた。


 その攻撃はレイスといういわゆる幽霊である四天王その2には届かない。

 しかし――


「ぐっ――。ぐぉぉぉぉぉぉっ!! 馬鹿な。魔力を吸われた……だと? 我が長年かけて溜めた魔力を……。お、おのれぇぇぇぇぇっ!! 世紀の大魔術士たる我の魔力を……この知性すら持たぬクソ共がぁぁぁぁっ!! 貴様らを生み出した親たる我の魔力をよくもぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 なんだかんだで魔力を吸われたらしい四天王その2さん。

 どうやら魔力を吸えるのは四天王その2さんやレイスの固有能力ではなく、アンデッドなら普通に持っている特徴のようなものらしい。



「生まれたてのアンデッドである貴様らの魔力はまずく、質も悪いのだが……仕方あるまい。――返してもらうぞ、その魔力っ!!」



 しかし、そこはさすがの四天王その2さん。

 群がるアンデッド達を苦労しながらも消滅させていき。

 


「はぁ……はぁ……はぁ……。貴様……貴様……許さんぞ。我の長年に渡る計画を台無しにしおって……。我が生み出したアンデッド。それをなぜ我が滅せねばならんのか……。えぇいっ全てが台無しだっ!! 貴様だけは生かしたまま永遠の苦痛と絶望を与え続けてやるっ!! その最中に貴様の不可思議な力の正体も研究させてもらうとしようかっ!!」



 その体を透明にして掻き消える四天王その2さん。

 どうやら本気で怒らせてしまったらしく、逃げる気も見逃してくれる気もないらしい。



「モルモットにされるのは嫌だなぁ。ここはもうお嬢様連れて逃げたい所なんだけど……俺に恨みをもってて、更に透明にもなれちゃう奴を放置は後が怖すぎるよなー」



 ――仕方ない。

 俺は雰囲気たっぷりに四天王その2さんが消えた辺りをゆびさし。

 


「俺の安眠の為、俺の今後の平穏の為、そしてついでに我が女神の望みの為……お前はここで滅ぼすぞっ! 魔王軍四天王の………………えぇっと………………魔王軍四天王のその2さんっ!!」


「「その2さん!?」」



 魔王軍四天王その2さんと俺の後ろで成り行きを見守っているサラさんの声がハモる。

 いや……だって仕方ないじゃん。

 四天王その2さんの名前、覚えてないもん。


 俺としてもこの場面。格好つけたいのは山々だ。

 普段の俺ならともかく、深夜の俺のテンションは動き続けていたというのもあって高まりまくっているからな。

 なのでここは格好よく相手の名前をきちんと呼んで最終決戦みたいな形に落とし込みたい所なのだが……覚えていないものは仕方ないよな?


 ――あ、そうだ。

 一応ノクティス様に聞いてみるか。


(もしもーし。ノクティス様ーー? この四天王その2さんの名前ってなんて感じでしたっけ?)


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