第14話『VS四天王その2』

何妙法蓮華経なんみょうほうれんげきょうーー!!」


 そう叫びながら俺は神聖な力がこもってそうな、どでかいハンマーを魔術師四天王へと叩きつけた。

 相手が呆けていたというのもあって、その一撃は綺麗に決まり。



「な――ゴハァッ――」



 面白いように飛んでいく魔術師四天王。

 効果はきっと絶大だ。



「大丈夫ですか?」


 俺は残ったサラさんの元に駆け寄る。


「え……ええ……。ありがとう……ございます」


 未だに先ほどまでの恐怖が消えないのだろう。

 サラさんは俺の手を掴みながら、まだ震えていた。



「それで? 一体何があったんですか? 他の仲間達は? 実は俺、さっき吹き飛ばしたのが四天王でサラさんを生贄に捧げようとしてたっぽい事しか把握できてないんですけど……」


 昼に出会った冒険者パーティー。

 その一員であったはずのサラさん。

 トラブルに巻き込まれたっぽいというのは理解できるが、他の仲間はどうしたのだろう?


「実は――」


 そうして彼女側の事情を聴くと。


 どうやらサラさん含むあの冒険者パーティーは受けていた依頼を見事達成できたらしい。

 しかし、問題はその後。


 帰り道にあったこの森で大量のゾンビに襲われたのだとか。


 サラさんのパーティーは普通のゾンビ相手ならば遅れは取らないくらいの実力者で固められていたのだそうだが、今回出たゾンビは普通のものよりも遥かに強力だったらしい。


 相手が普通のゾンビだと思って対峙したサラさんのパーティーは一気に劣勢となり、そこから更に魔王軍の四天王が現れた事で撤退を選んだのだとか。


 そしてパーティーは一つの決断を迫られる。


 危険を承知で犠牲など出さずにみんなで街に戻れるように死力を尽くすか。


 一人を見殺しにして、残りのメンバーのみで街に戻るか。



 結果、サラさんのパーティーは一人を犠牲にして、残りのメンバーのみで街に戻る方を選択した。

 そうして――サラさんは見殺しにされ、こうして敵地の真ん中に置いて行かれたらしい。


 そうして四天王がゾンビを操りながらサラさんを生贄にするかどうかと言っている時に俺が現れて今に至る……と。



「――という訳です。なので……助けて頂きありがとうございます。あなたは私の命の恩人です」





 瞳を潤ませながらこちらを見つめるサラさん。

 しかし……命の恩人か。


 確かにこの辺りに居たゾンビは丸ごと全部焼き尽くしたし、なんか幽霊っぽい感じの四天王さんも神聖な力が宿った感じのハンマーでぶん殴った。

 だが……これで終わりな訳がない。


「いえ……まだ俺達は助かった訳じゃないと思いますよ? あんなので魔王軍四天王さんがやられる訳がないじゃないですか」


「――――――その通りだ」


 俺の言葉に応えるかのように。

 先ほどハンマーで吹き飛ばした魔王軍四天王その2がゆらりゆらりと揺れながらこちらに向かってきていた。


「我は不死者。人の身などとうに捨て、無限の魔力を取り込めるレイスとなりし魔術師。この世で最強の魔術師リッチモンド・クラベルだ。先ほどの一撃には多少驚いたが、あれしきで滅せられるほど我の執念は軽くない」


「あ……あ……あ……」



 俺の一撃など全然効いていない様子の四天王その2さん。

 その様子を見てサラさんの表情が絶望に染まっていく。


 それを満足そうに見ながら四天王その2さんは。



「――我の下僕を焼き尽くした事だけは見事と褒めておこう。だが、貴様らの絶望は終わっていない。アレは我が配下の中でも最弱の存在なり。そう……ここからが絶望の始まりだっ!!」



 四天王その2さんが宣言するのと同時に、地面が割れる。

 そして、その奥から化け物達が姿を現した。



「これは……ドラゴンゾンビ? それにデュラハンに……ナイトメア。そんな……どれも強力なアンデッドばかり。こんなの……勝てるわけ。いえ、逃げる事すら――」



 現れた強力なアンデッドたちは四天王その2さんの命令がないからか、今のところは襲ってこない。

 だが、目の前にすぐにでも振るわれそうな暴力装置が迫っている事には変わりなく、生物として根源的な恐怖をひしひしと感じてしまいそうになるのは避けられなかった。


「おいおいマジですかこりゃ。俺も知ってるような強力でメジャーなアンデッドをこれまたわんさかと出しやがって……。これを全部使役するのって普通にチートじゃないか? 普通に一国を滅ぼせそうな戦力が揃ってる気がするんだが」


 そんなアンデッドたちを目の前に俺は軽口を叩く。

 すると。


「なんだ。いい線を突くじゃないか。その通り。このアンデッド達はこの国を落とす為に我が自ら生み出した」


 なんと俺の軽口に対して肯定して見せる四天王その2さん。


 おっとマジでございますか。

 さっきのは適当に言ったのだが、どうやら的を射た答えだったらしい。


 しかし、そんな四天王その2さんの答えが認められないのか。

 俺のすぐ傍に居たサラさんが声を上げた。


「生み出した? そんな……あり得ませんっ! アンデッドは自然に生み出されるもの。それをこんな強力な物を。それも大量に揃えるだなんて簡単に出来る訳が――」


「――ああ、その通りだよ。アンデッドの精製は簡単には出来ない。生成には元になる素材と多くの魔力、そしてアンデッドに関する専門知識を必要とする。しかし、レイスというアンデッドであり、多くの知識と魔力を有する我ならば素材と外部から摂取する魔力、そして元になる素材だけで事足りるのだ」



 そうサラさんの反論を封じ込めて見せる四天王その2さん。

 正直、この世界の魔術やら魔力やらについてはちんぷんかんぷんなので本当にそれが可能なのかは知らないが、不思議とその言葉には説得力がある……気がする!!


「もっとも、この程度の戦力で国は滅ぼせんのだがな。ゆえに、魔力だ。多くの魔力を我が取り込み、このアンデッド軍団を強化する。そうして我を認めなかったこの国を滅ぼしてやる」


 そう言って肩をすくめて見せる四天王その2さん。

 俺の見える限り四天王その2さんが抱えるアンデッド軍団の戦力はドラゴンゾンビが数体にデュラハンが数十体。そして空を駆けるナイトメアが数十騎ほど。


 一つ一つの戦力は俺には分からないが、どうやらこれでは足りないらしい。


 だからこそ、この四天王は魔力を求めているという。


 原理は不明だが、魔力と素材さえあれば無限にこのアンデッド軍団を強化できるから。


 そして今回、その標的となったのが俺たちで――


「――なるほどな。つまりお前の目的は俺とサラさんの魔力という訳か」



 正直、魔王軍四天王とのバトルなんてもうしたくない。

 しかし、ただでさえ仲間に見捨てられたサラさんを置いて逃げ出す訳にはいかないし、相手も俺を逃がすつもりがないときた。


 そうなればもう……戦うしかないっ!!


 そう俺が腹を括ったと言うのに。


「は? あ、いや……その女はともかく貴様の魔力はないも同然だしどうでもいいというか……。そもそも、貴様はなんなのだ? 先ほどの一撃は魔術……なのか? どこからともなくハンマーなど出しおって。というか我はレイスだぞ? 物理攻撃など一切効かぬはず――」


「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「なぜだ!? なぜそこで貴様が怒る!?」


 うろたえているアンデッド四天王をよそに、俺はキレていた。

 この野郎……俺がせっかく逃げたいのを必死で我慢しながら格好つけていたのにそれを台なしにしやがって……。


 ――絶対に許さんっ!!


「ま、まぁいい。貴様の魔力などカスの役にも立たんが目撃者は消さねばならん。ゆえに……やれ、アンデッド共。あの男を喰らえ。おっと、女の方は殺すなよ? アレからはなかなかに良質な魔力が取れそうなのでな」


「「「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉおぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――」」」


 何かごちゃごちゃとくっちゃべっている四天王その2。

 それに応えるかのようにして雄たけびを上げるアンデッド達。


 そのどれもこれもが――


鬱陶うっとうしい!!!」


 そうして。


 俺は「あ……あぁ……いや……こんなところで……終わりたくないです……」とか言って震えているサラさんの前に立ち、迫るアンデッド達を迎え撃つ事になった。

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