第12話『VS空腹-2』
「昨夜と同じように野宿します。そしてこれは賭けになりますが……そこら辺に生えている木の実とかを食べて栄養を摂ります!!」
断固として冒険者ギルド総本部のある『ラクレイシナ』には行かない。
そう俺は固く心に誓いながら宣言する。
『そこまでして『ラクレイシナ』に行きたくないの!?』
そう驚くノクティス様だが……その通りだよ。
俺はそこまでして『ラクレイシナ』には行きたくないんだっ!
無論、異世界の木の実を食うなんて危険だという事は分かっている。
そもそも、ただの大学生だった俺にはどれが食べられる木の実でどれが食べられない物なのか分からないしな。
しかし、聞いたことがある。
多くの木の実は人間にとって消化しやすく食べられる物であるという事を。
ならば――――――木の実を食べるしかあるまいっ!!
『いや、あの……そんな馬鹿な事をしなくてもそこら辺で魔物を狩って素材をラクレイシナに持って行けば――』
「何度も言わせないでくださいノクティス様。それはダメなんですっ!! 俺が木の実を食って食中毒で倒れるよりも遥かに高い確率で俺の死亡フラグが立ちますっ!!」
『えぇぇぇぇ……』
とても納得のいかなさそうなノクティス様。
だけど、事実なんだから仕方ない。
ラクレイシナに行けば確かに俺の空腹問題は解決するだろう。
だが、その代わりに四天王だったり別の強敵だったりと戦わなきゃいけなくなる。
そっちの方が遥かに危険なんだっ!!
『いや、だからそんな事が起こる訳がないって……あ、そうだっ! そもそもアンタは既に四天王の一人であるアブカルダルムを倒してるじゃないっ。だから……ね? もっと自分に自信を持ちなさいよ。仮に『ラクレイシナ』に魔王軍の四天王が現れてもアンタならどうとでもなるはずで――』
「はぁ……」
『ちょっ。何よ。アンタの心の声は私に丸聞こえなんだからね? なーにが「やれやれ。ノクティス様は何も分かってないなぁ」よっ!? そもそもこの国の主要都市であるラクレイシナでそうそう変な事が起こる訳がないのよっ! それを私がアンタの頭のおかしい妄想に合わせて考えてやってるのにそれを――』
「いやいや、そうは言いますけどねノクティス様。実際、俺が四天王の一人を倒したから次も大丈夫だなんて……そう言ってる時点でおかしいんですよ」
『ど、どう言う事よ』
どういう事もなにもそのままの意味だ。
俺は確かに四天王の一人であるアブ……なんたらを倒した。
あそこまで念入りに始末したから、実は倒せていませんでしたなんて事もないだろう。
だけど、思い出して欲しいんですよノクティス様。
俺があのお爺ちゃん四天王を倒した時。
俺は正面から堂々と四天王と戦ってましたか?
『あ……』
さすがのノクティス様の気づいたようだ。
そう、俺はあの四天王と正々堂々戦った訳じゃない。
ただ一瞬の隙を突いて倒しただけだ。
アレで倒せたからと言って他の四天王まで大丈夫だろうなんて思えるほど俺は自信家じゃない。
「それにノクティス様。仮に俺があのお爺ちゃん四天王を実力で倒してたとしても、きっと俺は次の四天王も大丈夫だろうだなんて思ってませんでしたよ?」
『はぁ? どういう事よ?』
「やっぱり知らないんですねノクティス様。ならば答えましょう」
四天王。
それらは全員が同じくらいの強さ……ではない。
最初に出てくる四天王はむしろ雑魚。
いわゆるかませ役だ。
一人目を倒したら二人目、二人目を倒したら三人目と順に強いのが主人公の前に立ちはだかる事になる。
それが四天王における常識。テンプレだ。
最期の四天王さん、同じ四天王なのに一人目の奴との差があり過ぎるだろ!? なんて読者側のツッコミなんて関係なしに強力なのが出てくるなんて当たり前。
つまり――
「分かりますかノクティス様。つまり次に出てくる四天王は俺が倒したお爺ちゃん四天王より強い。それは確定事項なんですよっ!!」
そんなものの相手をして勝てるかどうか。
もちろん、あっさり勝ってしまうかもしれない。
それだけノクティス様のくれた能力はチートだと。そんなのは俺も既に知ってる。
しかし、当然だが勝てる可能性と等しく負ける可能性だってある。
その可能性は少なくとも俺が木の実を食って食中毒になる確率より高いだろう。
だからこそ、俺は断固として『ラクレイシナ』には行かないのだっ!!
『な、なんなのよこいつ……。あ、ちょっ。話はまだ終わってないわよっ。少しは私の言う事聞きなさいよっ。アンタが食中毒で倒れて死んだりしたら私が他の神々から笑われるでしょうがっ!! そんなつまらない理由でこの世界の滅びが決定しちゃうなんて私は認めな……こら、ちょっ、話を聞いて……もどれぇっ!!』
そんなノクティス様の怒鳴り声を聞きながら。
俺は食べられる木の実を手に入れるべく、遠くに見える森を目指して歩き始めた――
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