第10話『パーティー加入イベント回避しますっ!』


 リルスト。

 アスト。

 ライラ。

 サラ。


 この世界で初めて目にした冒険者パーティー。


 しかし、なんというか……色々と問題のありそうなパーティーだな。


 例えるならそう。

 ラノベの第三話辺りで強力な魔物か何かによって分断され、パーティー内で仲違なかたがいが起きそうなパーティーだ。



『おっそろしく失礼ね!?』


 おやノクティス様、こんにちは。

 ところで聞きたいことがあるんですが。


『………………』


 都合の悪い事があるとすぐ黙り込むノクティス様。

 この女神様……マジでどうしてくれようか……。


「カトウ・レン……。家名があるって事はもしかして貴族と何かしらの関係があるのかしらぁ? でも、レン家なんて聞いたことないわぁ。サラはどぉ?」


「わたくしも聞いたことがありませんね。もっとも、わたくしとて全ての貴族の家の名を覚えている訳ではないですけれど」


 ライラ・カラントスさんとサラ・ヴィヴァレンティさんが俺に奇異の視線を送りながらそんな事を言う。


 ……なるほど。


 リルストさんやアストさんのように下の名前が無ければ平民。

 逆にライラさんやサラさんのように『カラントス』だの『ヴィヴァレンティ』だの下の名前があれば貴族と……そんな感じで分かるようになっているらしい。



「これも何かの縁だし一緒にクエストに付いてきて欲しいとも思うけど……なぁレン。君は冒険者登録なんかは既にしてるのか?」


 仮リーダーであるリルストさんの誘い。

 これは……トラブル発生フラグの予感っ!!



「いや、まだですよ」


 まだというか、冒険者登録なんてするつもりもないんだけどな。

 これでリルストさんが俺の勧誘を諦めれば問題ない。

 だというのに……。



「そうか……なぁ、みんな。まだ時間に余裕もある事だし一度ギルドに戻らないか? 幸い、今日はこのパーティーの試運転も兼ねてクレナ平野のスケルトン狩りだ。初心者冒険者であるレンに色々と教える余裕もあるだろうし、俺としてはレンの面倒を見たい所なんだけど……」



 なんという有難ありがた迷惑。


 テメふざけんなよリルストッ!!

 なまじこいつの好感度を稼いでしまったせいか、パーティーに入れられてしまいそうな雰囲気じゃねえかっ!



「俺はいいぜ。なんというかこいつとは上手くやっていけそうな気がするんだよ」



 ガハハと笑いながら俺の肩に手を回してくるアスト。

 ええい黙れこの筋肉ゴリラが。

 勝手に俺に触れるな暑苦しいっ。

 ラノベの噛ませ役として真っ先に死にそうなキャラが俺に絡むんじゃないっ!! 


 俺はお前と上手くなんてやりたくないし、そうやって絡まれるのはとても迷惑なんだっ!!



「私はどっちでもいいわぁ。好きにすればいいんじゃなぁい?」


 本当にどうでも良さそうに自身の赤髪をくるくると弄っているライラ。

 どっちでも良くないっ! きっちり断れっ!!


「わたくしは賛成に一票を入れさせていただきますわ。か弱い乙女としてパーティー内に頼もしい男性が増える事は大歓迎ですから♪」


 そんな一票は要らない。

 そもそも俺は頼もしくない男性なので歓迎してくれなくて結構です。



 さて………………これはまずい。

 完全にこの冒険者パーティーに入れられそうな流れになっている。


 それだけは嫌だ。


 こんなトラブルフラグがビンビンに立っているパーティーになんか入ったら確実に俺はこの世界のごたごたに巻き込まれる事になってしまうだろう。

 なので、ここは丁重に断っておく。


「い、いやいやいやいや。気を遣ってくれなくて大丈夫ですって。そもそも、俺は遠くからここまで徒歩でやってきてクタクタですし。だから冒険者登録も後日に回してまずは宿で休もうかなって」



「そうかい? でも、俺たちなら冒険者として色々と教えることが出来ると思うよ? スケルトン狩りもレンは見てるだけでいいし。それだけでも勉強になると思うけど――」


 やんわりと断っているのになおも誘ってくるリルスト。


 いや、本当に結構です。

 俺に気を遣っての発言かもしれないけど、それ本当に要らないやつです。


「いやいやいやいや、本当に大丈夫です。今日は本気で疲れてるので。なので……そう明日! 明日とかにまた誘ってくださいよっ。その時は喜んで皆さんのパーティーに入るんで。良ければそこで色々と教えて欲しいですっ!」



 そこまで言うとリルストも納得したのか。



「そう……か。そこまで言うなら分かったよ。でも、困ったことがあったら何でも言ってくれよ? なんだかレンとは長い付き合いになりそうだしね」


 それは気のせいだろう。

 俺としては付き合いなんてこれっきりにしたいところだ。




 ――そうして。

 リルスト達のパーティーはスケルトン狩りとやらの為にどこかへと旅立って行った。

 


「さて……行くか」


『えぇ、行きましょう。ここからがアンタの冒険の始まりよっ!』



 リルスト達が去ったのを確認した俺は歩き出した。


 冒険者ギルド総本部のある街ラクレイシナ。


 その街に。


 背を向けて。


 俺は悠然ゆうぜんと歩きだしたっ!!



『………………ですよねー。はぁ……』



 ため息を吐くノクティス様。

 だけど、こればかりは譲れない。

 冒険者ギルド総本部。



 そんなイベントやらトラブルに巻き込まれそうな場所に行ってたまるかっ!!

 俺を騙して冒険者という道に進ませようとしたのだろうがそうはいかない。


 俺は……平凡で立派な農民として何のトラブルにも巻き込まれることなく一生を終えるんだっ!!!



『ふぅん……。でも、いいの? ねぇ加藤蓮。アンタ、お腹は空いていないかしら?』



「へ? お腹ですか? いや、確かに結構減ってますけど」



『ならちょこっとだけでも『ラクレイシナ』に寄っていきなさいよ。そろそろ食べないとアンタやばいわよ?』


「はっ――」



 まったく。

 今更何を言うのかと思えば。

 この俺がご飯なんかに釣られてホイホイ冒険者ギルド総本部のある『ラクレイシナ』に入る訳がないだろう。


 大体、俺はノクティス様のチート能力である『想像を創造する力』によってなんでも生み出すことが出来るのだ。

 この能力さえあれば飢える事なんて絶対に――



『あぁ、言い忘れていたけどね。私のあげた能力で栄養補給なんてほぼ不可能よ。実際、アンタは今飢えてるでしょう?』



 ――――――なんだと?

 いや、でも確かに。

 今日も朝食はきっちり摂ったというのに、それにしては異常にお腹が空いているような……。



『私がアンタにあげた想像を創造する力。それは使用者であるアンタがイメージしている限り、想像した事象がそこに在り続ける力よ。つまり、イメージが途切れればそのイメージした物体は消え、最初から存在しなかった事になる。ねぇ加藤蓮。アンタはイメージしたご飯をどこまでイメージし続けていたかしら? 食べて、それが胃の中で消化されて、栄養となって体に行きわたる。そこまでイメージ出来ないとイメージしたご飯は栄養にならないわよ?』



 マジですか。

 昨日からイメージした食べ物の数々。

 それをどこまでイメージ出来ていたかと言われれば、そんなの呑み込むまでに決まってる。

 そもそも、胃の中まで入った食べ物を俺は目にした事なんてある訳ないし、イメージ出来る訳もない。


 え? てことはまさか――


「つまり……俺は丸一日以上何も食べていない状態って事? いや、でもさすがにそこまで飢えてる気はしないんだが……」


『イメージで生み出した食べ物は栄養にならないってだけで満腹感だけは得られるからね。あれだけ色々と食べて呑み込んでたら満腹感と充足感だけは満たされるんじゃない? もっとも、それにも限界があると思うけどね』



 それに加えて『食べた』という認識が俺の側にあるせいで飢えに気付きにくくなっていた……と。


 ――ぐぎゅるるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ



「あ、やべ」



 自分が空腹である。

 そう意識した途端、急にお腹が空いてきた。


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