第9話『とある冒険者達に出会った』


 俺はノクティス様の言う通りの道を歩いた。

 我ながら呆れる事にノクティス様がくれた俺のチート能力は家やら食べ物なんかも創造できてしまったので、何の苦労もなく俺は見知らぬ異世界で一夜を過ごせた。


 道順を教えてくれたノクティス様は夜になるとやはり女神としての仕事があるからか連絡が取れなくなったが、何の問題もなかった。


 途中、スライムやらゴブリンだのといった魔物が襲い掛かってきたが、それも難なく撃退。

 夜の女神様から貰ったチート能力であるせいか、昼に能力を使った時以上にイメージに手間がかからなくて済んだというのもあるかもしれない。



 そんなわけで。

 一夜を自分のチート能力により無双しながら過ごした俺は何の苦労もなくノクティス様の言っていた『辺境の冒険者ギルドすらない村』へと辿り着いた。


 その頃には既に朝になっており、ノクティス様とも交信が可能になっていた。

 俺が村に着くなりノクティス様は言う。



『まずは村長への挨拶ね』


 村に住みたいのならまずは村の長である村長に話を通さなければならない。

 なので、村長への挨拶は必須だろう。

 そう言ってノクティス様は村長の家までの道順も教えてくれた。


 しかし……。



「待ってください」


 

『どうしたの加藤蓮? さ、早く行きましょうよ?』



 俺は村に入らず、その入り口が見える辺りで立ち止まっていた。

 辺境の冒険者ギルドすらない村。

 簡潔に言えばそれは田舎であり、栄えていない場所のはずだ。


 だというのに……。


「ねぇノクティス様。どうしてこの村には城門なんてものがあるんですか? 村の様子も心なしか駆け出し冒険者の街のグリーンハートより栄えてるように見えるんですけど?」



 立派な城門。

 その中からガヤガヤと聞こえる村人達の声。

 どこからどう見ても『辺境の冒険者ギルドすらない村』には見えない。


 というか、そもそも村じゃなくて街じゃないか、これ?



『………………な、なーに言ってるのよ加藤蓮。そんなの考え過ぎ――』



 ノクティス様が何か言おうとしたその時だった。



「よぉ、そんなとこに突っ立って何してんだ?」



 村の城門から出て来た冒険者風の四人組。

 そのうちの一人が俺を見つけるなり声を掛けて来た。




「おいアスト。初対面の相手にいきなり失礼だろ。――すみません、俺の仲間がいきなり迷惑を」


「待ちなさいよリルスト。この人、少し怪しくなぁい? たった一人で街の外に出ていてなおその軽装……。街の外に一歩でも出れば魔物が出るのに……」


「お、おいライラ。お前もいきなり失礼だぞ。こう見えてソロで活動してる冒険者かもしれないし」


「私はこの街で活動している男性冒険者については全て把握しているけど、彼のような人は居ないはずよ。だから……答えてもらえない? あなたは魔物も出るようなこんな場所でたった一人、何をしていたのぉ?」



 街の外で城門を眺めていただけなのにいきなり不審者扱いされてしまった!?

 とにかく何か言い訳をしなければ。


「えーーっと……俺は怪しい者じゃありませんよ。俺は田舎からこの村に移住しにやってきただけです」

 

「移住? 冒険者ギルド総本部のあるここラクレイシナに? あなたが?」


「………………ほぅ」


「どうかしたのぉ?」


「いえ、なんでもありません」


 そうか。

 この街こと『ラクレイシナ』は冒険者ギルドの総本部がある場所らしい。

 つまり、ここは『冒険者ギルドすらない村』などでは断じてなく、むしろこの世界で最も活気に満ちてしまっている冒険者ギルドという訳で。


 ノクティス様……やってくれましたね?



 俺の心を今も読んでいるだろうに反応を示さなくなったノクティス様に心の中で愚痴を吐きながら。

 俺はこの場をしのぐため、あまり怪しまれないような上手い言い訳を考える。


 そうだな……設定としては……これだな。

 俺は「こほん」と咳ばらいをして。


「え、ええ。俺はこの冒険者の街に移住しにやってきたんです。もっとも、ここが冒険者の街だって知ったのは今なんですけどね」


 俺は即興で構築した自身の設定に従いながら話を続ける事にした。


「どういうことぉ?」


 俺の含みのある答えに疑問を抱いたのだろう。

 ライラと呼ばれていた女冒険者さんが意味が分からないという感じで首をかしげる。


 無論、これは予想していた返しだ。

 なので、俺は淀みなく彼女の疑問に答えていく。


「いえね。俺の世話をしてくれた孤児院の先生が俺にこの街までの道順を教えてくれたんですよ。そこならば俺に相応しい何かが見つかるって言ってね。俺はまだ孤児院のガキどもの面倒を見たかったんですが……先生め、余計な気を回しやがって」



 ツンデレっぽい口調で存在すらしない先生とやらに愚痴を吐いてみる。



「辺境の村から……ねぇ。でも――」



 まだ怪しんでいるのか、ライラさんが何かを言おうとする。

 だが、それに重なる形でリーダー格と思われるリルストと飛ばれていた青年がぬっと前に出てきて俺の手を掴み。


「素晴らしい先生をお持ちなんですねっ!」


 なんかキラキラした目で迫って来た!?

 え、なにこいつ怖い。


 俺が思いっきり引いている中、リルストさんは構わず続ける。



「孤児であるあなたはお世話になった先生や下の弟や妹たちの力になりたいと願い、だけど先生や下の子達はあなたに華々しい活躍をして欲しいと願ってあなたを送り出した……。あぁ、まるで物語のようじゃないですかっ。俺、そういうの大好物なんですよっ!」


「は、はぁ……どうも?」



 まるで物語のようって……そりゃ俺が即興で考えた物語設定ですしね。

 


「ふぅ……まぁいいわぁ」


 そんなリルストさんと俺のやり取りを見て毒気を抜かれたのか、ライラさんはため息を吐きながら俺への追及をやめてくれた、

 そう言う意味ではリルストさんには感謝するべきだろう。


「あ、すいません申し遅れました。俺、このパーティーの仮リーダーを務めてるリルストって言います。そして――」


「アストだ。お前と同じく田舎の村出身の平民だよ。よろしくな」


「ライラ・カラントスよぉ」


 仮リーダーであるというリルストさんにならって自己紹介してくれるアストさんとライラさん。

 そして、今まで一度も口を開いていなかった残りの一人もそれに倣い。


「――――――サラ・ヴィヴァレンティと申します」



 そう気品を漂わせながらサラさんという女性は名乗った。

 水色の長い髪をかきあげながら、優雅に微笑んでいる。


 冒険者というよりどこぞのお嬢様という感じの女の人だ。



「――加藤かとうれんです」



 そんな彼らの自己紹介に合わせて俺も名乗る。

 すると。



「かとうれん? こう言ってはなんですが……珍しい名前ですね?」


「かとうれんか……よろしくなっ! カトウレン!」



 いや、違うよアストさん。

 カトウレンじゃなくて加藤 蓮。

 仕方ないとはいえ、発音がとてもおかしな事になってる。



「……れんでいいですよ」



「レンか……。うん。確かにこっちの方がしっくりきますね」


「――だな。改めてよろしくな、レン。先輩冒険者として分からない事があったら何でも聞きな」


「は、はいっ!」


 確かに俺はこの世界の冒険者制度なんかについてはほぼ何も知らない。


 だけど、興味もないので分からない事があっても聞く事はないと思いますっ!!



 そんな訳で。


 金髪の爽やか青年である仮リーダーリルスト。

 黒髪の筋肉隆々の筋肉ゴリラ枠のアスト。

 不敵な笑みを浮かべ、まるで商店に並んでいる商品でも値踏みしているかのような視線を送ってくる赤髪赤目のどこか謎を残していそうな妖艶な女性枠のライラ。

 そんなライラとは別種の、上品な笑みを浮かべているのは水色の髪に輝く金の眼を持つ巨乳の癒し属性キャラのサラ。とても胸がおっきい。あと胸がでかい。



 俺はそんな冒険者パーティーと知り合った。

 

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