第7話『後始末は念入りに』


 お爺ちゃん四天王を滅ぼすべく猛威を振るってくれていた黒龍。

 俺はそれを消すと共に「ふぅ……」と汗をぬぐい。


「あのぅ………………」


『はぁ……ようやく終わったのね。いや、そもそもとっくに終わってたんだけど……。とりあえず加藤かとうれん。さっきからずーーーーーーーっとお客さんがお待ちよ』



 何度も呼びかけているのに俺に無視されていたお姫様。

 そんなお姫様がタイミングを見て声をかけてきた。


 ノクティス様も魔王軍四天王の相手が終わったのならとっとと彼女に向き合えと呆れた声で言ってくる。

 しかし。


「もちろん最初から気づいてますよ」


『なら――』


「けど、相手にするにしてもそれは後ですね。なにせ相手は魔王軍四天王アブアブさん。これではまだ不十分です」


『アブカルダルムだっつってんでしょうが。それに不十分って……もう影も形も骨の一片すら残ってないのにどうする気なのよ?』


「はぁ……」


『ちょっ、なによその「こいつ何も分かってないな……」みたいな溜め息は!? アンタ本当に天罰喰らわせるからね!?』


 そうは言われても実際この女神さまは何にも分かってないんだから仕方ない。

 俺を異世界召喚させた元凶だと言うのに、ありふれたテンプレの一つも分かっていないとは嘆かわしい限りだ。


「いいですかノクティス様。こいつは魔王軍四天王の魔術師組の組長アブなんたらさんですよ? 確かにその体は灰も残らず燃やしました。でも、あんな感じの執念深そうな魔術師っぽい人の霊魂とかはあの世とかに行かずにこの世に留まると思うんですよ。それを放置しておいたら絶対、なんやかんやで『クク、蘇ったぞ勇者よ』とか言って超パワーアップして帰ってくるに違いありません」


『女神である私の目から見るとアブカルダルムの霊魂は地獄に行ったか一緒に焼き尽くされたのか。少なくともこの場には既にないように見えるけどね』


「そうなんですか? いや、でも勇者に力を与えてくれる女神様がポンコツで役に立たないなんて良くある話なんでとりあえずやっときますね」


『はぁ……もういいわよ。好きにしなさ……今、私の事をポンコツ扱いしなかった?』


「してません」



 とにかく、やはりまだ安心できない。

 というか、どれだけやっても安心しちゃいけない。


 勇者とか主人公が「――やったか」とか言って敵を撃破した~と安心していたら次の瞬間にはなんだかんだで敵が強化されて蘇るのだ。


 だからこそ俺は「――やったか」なんて考えない。

 やりすぎだろうとなんだろうと思い付く限りの全ての方法でこいつの復活の目を封じておくのだっ!



「というわけで……たらりらったら~~。おばけ掃除機~~」


 ――ふぉん。


 そんな音を立てて、俺の右手に掃除機が生み出される。



『おばけ掃除機? あの……加藤蓮? それってどこかのマンションでお化けを吸うゲームの……そう、オバキュ――』


「おばけ掃除機です」


『いや、でもそれは――』


「おばけ掃除機です」


『そ、そう……』


 よく分からない事を言うノクティス様を有無を言わさず黙らせる。

 なお、お姫様的な少女は俺が一人で喋りまくっているのでどう話しかけたものかと右往左往していた。


 どちらにせよ今は忙しくて相手できないし放置しておく。

 さて――



「さぁ……吸うぜぇぇぇぇぇっ!!」



 キュイィィィィィィィィィン――



 おばけ掃除機が物凄い勢いで空気を吸い込む。

 土や葉を吸い込みながら、この場にまだ残っている魔王軍四天王の霊魂も吸い取っている……気がする!!


 俺にはお化けも霊魂も見えないからな。

 さすがに成果までは見れないのだ。



『心配しなくてもそのおばけ掃除機はちゃんと辺りに居る霊も吸ってるわよ。みんな体が吸い込まれるってかなり驚いて……かわいそうに。この勇者がもっとまともなら彼らの幽霊生活が脅かされる事もなかったでしょうに……』



 人をまともじゃないみたいに言わないで欲しい。

 とはいえ、さすがにもういいだろう。

 体は完全に消滅させたし、蘇る核となる霊魂も(たぶん)吸えた。



 俺は手にしていたおばけ掃除機をイメージするのをやめた。

 するとおばけ掃除機は完全に消える。



「――――――――ふぅ」



 そうして俺が一息ついていると。



 パチパチパチパチパチ――



 すぐ隣から拍手の音が聞こえて来た。



「――よくぞ魔王軍四天王のアブカルダルムを倒してくれました。さすがは夜の女神ノクティス様に導かれし勇者様です。まだ召喚されてさして時間も経っていないでしょうに……何の訓練もないまま敵の幹部を倒せるとは思いもしませんでした」



 そう言って俺の事を褒めてくるお姫様的な少女。

 少女は汚れたスカートの裾を両手で掴んで頭を下げ。



「申し遅れました。私はリンドブルム王国第一王女――」



 自己紹介してくれようとするお姫様的な少女。

 だが、そうはいかないっ!!

 俺はイメージのままに呪文を唱えた。



「テレポートッ!!」



『はぁ!?』


「なっ!?」



 そうして。

 俺はお姫様的な少女の前から姿を消した――


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