第5話『四天王その1発見』


『ちょっとアンタどういうつもりよ!? テンプレだかなんだか知らないけどね!? アンタが知ってるラノベ展開なんか現実じゃそうそう起こらないわよっ!!!』



 駆け出しの街グリーンハート。

 そこから脱出した俺は木々が生い茂る森の中、ノクティス様に思いっきり怒られていた。

 なお、声しか聞こえないがガチギレしている様子である。


『グリーンハートは駆け出し冒険者の街なのよ!? 辺りに出るのはスライムとか群れてないゴブリンとか簡単に狩れる魔物ばかり。それにアンタには私があげた強力な力があるのよ!? 万が一ちょっと強力な魔物が出て来たって苦労せずに倒せるわよっ。なのに……あぁぁぁぁぁぁもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』



 ぎゃいぎゃいと騒ぐノクティス様。

 だが、こちらにだって譲れないものはある。


「駆け出し冒険者の街でスライムとかゴブリンしか出ないなんてある訳がないじゃないですかっ!! 俺は知ってるんですよ。そういう街に異世界人が召喚された時に限ってなんやかんやで強敵が出て来るってねぇっ!」


『んな事ある訳ないでしょ!? それにアンタの言っているそれってラノベとかアニメの展開でしょ? そんな事、現実じゃそうそうないからっ!!』


「いいやあるっ! そしてこれが現実だからこそ、俺は物語の主人公みたく強敵に打ち勝つ事なんてできず、散々いたぶられた上で殺されるんですよ。そんな目に俺は断じて遭いたくない。絶対に……そう、ゼッタイにだっ!!」


『どんだけ悲観的な未来を見据えてんのよ!? ちょっ、戻りなさいっ!! 早く冒険者ギルドに戻って冒険者になりなさいよぉぉぉぉぉっ!!』


「だが断る」


 頭の中に響くノクティス様の声を無視しながら、俺はとにかく街から離れようと歩いた。

 その時だった――



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――」



 女の子の悲鳴が森の中に響き渡る。


「なんだ?」


『なに?』



 俺は悲鳴が聞こえて来た方向へと顔を向ける。

 そこには今の悲鳴を上げた当事者らしき金色の髪の少女が何かを前に後ずさりしていて――


「ふぇっふぇっふぇっふぇっふぇっふぇ。これまでじゃのう。お主を守る者はもう誰も居らん。さて……どう料理してくれようか」


 

 その目の前にはいかにも悪い魔法使いですと言わんばかりの黒ローブのお爺ちゃんが迫っていた。


「あれは……魔物か? 人間のようにも見えるけど……」


 パッと見ただけじゃ状況がよく分からない。

 幸い、どちらもこちらには気づいていないみたいだし、ここは様子をうかがう事にしよう。


「クッ……あと一歩のところで……それなのに……なぜあなたのような大物がこんな場所に居るのですかっ!?」


 金色の髪の少女がその翡翠の瞳でお爺ちゃんを睨みつける。


 ふむ。

 どうやら二人は知らない間柄じゃないらしいな。

 そんでもってお爺ちゃんは本来この場に居る人ではないらしい。


『あ、あれは……魔術師団長アブカルダルム!?』



 おっとノクティス様。

 どうやらあのお爺ちゃんの事、知ってるみたいですね。


『いや、知ってるもアレは魔王軍の四天王で……。な、なんで? どうして駆け出しばかりが集まるこの街にアイツが居るのよ!?』


 思いっきり動揺しているらしいノクティス様。

 そっか、アレが四天王ってやつか。


 思った通り、初っ端から厄介なのが現れてしまった。


 もっとも、まだ相手はこっちに気付いていないみたいだし、どうせ異世界テンプレ的にこうなるだろうと思っていたから俺はあまり驚いてないのだが。


『いや驚きなさいよ!? 初っ端から敵の幹部クラスが現れたのよ!?』



 俺が驚いてない事に不満を表すノクティス様。

 しかしなぁ……。

 


「いや、だって俺言ったじゃないですか? 『駆け出し冒険者の街でスライムとかゴブリンしか出ないなんてある訳がない。そういう街に異世界人が召喚された時に限ってなんやかんやで強敵が出て来る』って。ね? 言った通りでしょう?」



『言ってたけどね!? でもどうしてその通りになっちゃうのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?』



 自然の摂理のように当然の展開。

 だというのにノクティス様は納得いかないご様子だ。


「あ、すいませんノクティス様。ちょっと静かにしてもらってもいいですか? ちょっと二人の会話に耳を傾けたいんで。ノクティス様がうるさくて聞こえにくいです」


『あ、はい。ごめんなさ……いやおかしくない!? 私、女神なのよ!? なのに厄介者扱いっておかしくない!? アンタ失礼にも程が……あ、うん。ごめんね? 黙ります、ハイ』



 俺の『この女神様本気で邪魔だなぁ……』という考えを読んだのか、ノクティス様の声が止む。

 よし、これであの四天王おじいちゃん達の会話が聞こえるな。



「ふぇっふぇっふぇっふぇっふぇ。なぜこの場所にじゃと? 簡単な事よ。貴様らの王国には我が手の者を幾人か紛れ込ませておるでな。その者達から貴様が召喚された勇者を迎えにそこの駆け出しの街へと向かうという情報を得たからこそ我はここにおるのよ」


「な……召喚された勇者様の事まで知っているだなんて……あなた達はどこまで深く根を張っているのですか!?」


「ふぇっふぇっふぇ。さぁてな。そんな事よりも勇者じゃ。貴様らをこれほど追い詰めても出てこないという事は………………ふん。しくじったのぅ。まだ貴様らは勇者は出会っていなかったか。まとめて始末できるようもう少し待つべきじゃったわい」


「――なるほど。勇者様が成長なされる前に始末しようとあなた自らが出てきたわけですか……。あいもかわらぬ狡猾こうかつさですね。ですが、焦りましたね。勇者様がこのような場面を見ていれば必ずあなたに挑み、しかし訓練も何もしていない為に敗れていたでしょう。ですが、ここに勇者は居ませんっ!」


 え?

 いや、あの――


「ふんっ。そのようじゃのう」


 あれぇ?

 納得しちゃったの?


「しかもお前さんを拷問したとしても勇者の容姿などは分からんと来た。お告げで『見れば分かる』とだけ言われただけらしいしのぅ」



「そこまで掴んでいましたか……」


 緊迫した空気がお爺ちゃん四天王とお姫様の間に流れる。


 いや、うん………………ごめんなさい。

 勇者ここに居るけど、飛び出しもせずに黙って見ててごめんなさい……。


『い、いいのよ。そりゃ勇者らしくないとは思うわよ? でもさすがに今回は相手が悪いしね。それに今は昼間。森の木々で太陽の光がある程度はさえぎられているとはいえ、その光に晒されている間、あなたは一般人以下の存在になってしまう。余りにも時期が悪いわ。だから……今はここで大人しくしてなさい』



 さっきまで勇者らしく冒険者になれとか言ってた気がするノクティス様が優しい。

 そうだな。

 ここでお姫様とお爺ちゃん四天王が去るまで待って――



「――であれば仕方ないのぅ。この街もろとも全てを焼き払うか。そうすればこの街に居るであろう勇者もいぶり出せるじゃろうて」



 お爺ちゃん四天王はそう呟き。

 その右手を掲げ、ぶつぶつと何か呟き始めた。

 その手の先には小さな火球が生成され、どんどん大きくなっていく。


 お爺ちゃん四天王の狙い。

 それはお姫様を焼き、そのついでに駆け出し冒険者の街グリーンハートをその業火とかで焼き尽くす事だろう。


 そうすればテンプレを守る勇者ならば確実に駆け付けるだろうからな。


「な、何を……まさか!?」


 それを察したのだろう。

 お爺ちゃん四天王の行動に顔を青ざめさせるお姫様。



 ――それと同時に……俺は飛び出した!

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