第3話『勇者の旅立ち?』


 俺が召喚される予定の異世界についての説明を始めるノクティス様。


 そんなノクティス様の説明によると。


 まず、俺が飛ばされるというその世界は現在、魔王軍によって人類が滅亡の危機にさらされているらしい。


 その危機を救うべく、人類の守り手たる女神さまの手によって勇者たる存在を送り込む事になったのだとか。


 その世界に限らず、人類が滅亡の危機に瀕している世界には勇者を送り込んでなんとかするのがもはや神様の中で恒例行事と化しているらしい。


 その世界の時代レベルは中世。

 貴族や王族が権力を持ち、科学技術などはほぼ存在しない世界なのだとか。

 ただ、科学の代わりに魔術というものがその世界にはあり、生活基盤は魔術によって成り立っている面もあるという。



「凶悪な魔王軍によって支配されようとしている世界。そんな世界に送り出すんだからもちろんあなたには女神たる私からチート能力を授けるわ。その能力は……日の光に晒されていない時、想像を創造できる力よ」


「日の光に晒されていないとき限定の能力で……そうぞうを……そうぞう?」


 夜の女神様たるノクティス様。

 そんな女神様の能力だから日の光に晒されていない間なんていう限定条件が付いているのだろう。


 それはまだ理解できる。


 だけど……ぞうぞうをそうぞう?

 それってどういう事だ?


 俺が首を捻っているとノクティス様は中空に『想像を創造』と文字を描き。



「想像を創造できる力よ。簡単に言えばあなたが思い描いた力はなんでも使えるわ。空を飛びたいと思えば飛べるし、自分にだけ従う召喚獣を召喚したいと思えば手順なんて関係なしに召喚出来る。どう? なかなかに強力でしょう?」


 なるほど。

 確かにそれは強力だ。


 思い描いた力を問答無用で使える能力。

 それはつまり、なんでもありという訳で。

 

 某有名漫画の『邪王〇殺〇龍波』だって頭に思い浮かべるだけで使おうと思えば使える訳だ。


 例え日の光に晒されている間はその能力が使えないとしても、十分すぎるくらい強力な能力じゃないだろうか?


 というか。


「もしかして……その能力でいつでも元の世界に帰ったり出来るんじゃ……」


 それが可能なら嫌で嫌で仕方ない異世界召喚に応じても構わない。

 だって嫌になったら元の世界に帰ればいいだけだし。

 そう思ったのだが。


「さすがにそれは無理ね。思い描けばなんでも叶うとは言ったけど、それにも限度があるわ。世界を超える力だったり世界そのものを破壊する力なんかは引き出せないのよ。でも、あなたがさっき思い描いてた漫画の技なら普通に使えるわよ?」



 そこまでうまくはいかないらしい。



「そうですか……」


 与えられるチート能力にも限界があるのか。


 はぁ……。


 泣こうが喚こうが俺は元の世界には戻れないらしいし。


 このままだと俺は異世界で過ごさなきゃいけなくなるみたいだし。


 よし。

 決めた。


「決めました……ノクティス様。俺を冥界に送ってください」


「ようやく決心がついたようね。それじゃさっそくあなたを冥界に……今なんて?」


 立ち上がって俺を送り出そうとしてくれたノクティス様だが、なぜか真顔で俺がなんと言ったか聞き返してきた。


「言った通りですよ。俺を冥界、つまりあの世に送ってください。ここって現世と冥界の狭間みたいな場所なんですよね? そして勇者認定された俺はもう現世に戻れないと。だったら冥界になら送れるでしょう?」



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



 こいつ何言ってんのみたいな目で俺を見るノクティス様。

 まるで異常者を見るような目だ。

 正直、そんな目で見られると傷つきますね。


「いや、えっと、え!? なんで!? いや、そりゃ確かに規約的にも冥界になら送れるけど……アンタはそれでいいの!?」


「良くないけど異世界召喚されて酷い目に遭うよりはあの世でのんびりしてる方がいいかなって。俺、生前は善行も積んでないけど悪行も積んでないんできっと天国行けますよね?」


 平穏第一。

 将来の夢はサラリーマン。

 そんな俺は今までトラブルを起こしたこともなければ巻き込まれた事もない。


 クラスに必ず一人は居るような教室の隅っこで黙々と勉強したり本を読んだりしている居ても居なくても変わらない奴。

 そんなポジションを確立している俺だからこそ、きっと天国に行けると思うのだ。


「いや、それは担当が違うからなんとも言えないけど……おかしいわっ! 絶対におかしいわよアンタッ!? 異世界召喚されるより死を選ぶだなんて……。って事はなに? 仮に異世界召喚されてもすぐ自殺しちゃう気なの!?」


 おっとそこは誤解があるな。

 そこだけは正しておこう。


「いやいや、俺が自殺なんて出来る訳がないじゃないですか。だって怖いですもん。俺は異世界に飛んで酷い目に遭いたくない。そんでもって自殺する勇気もない。だからこそ、このまま安らかに眠らせてくださいって頼んでるんですよ。だってそれなら怖くないでしょ?」


 自殺するのは怖い。

 だってどうやって自殺するにしてもすっごく痛かったり苦しかったりするだろうし。


 だが、今の俺は半分死んでいるようなものだ。

 このまま天国に送られるならきっと痛くないと思う。


 痛くないなら別に怖くない。

 俺はそう思うのだ。


「こ、こいつ……。ぜんっぜん勇者っぽくない……。わざわざ『異世界モノが好きな日本人』っていう召喚するのに一番適した人間を呼び出したはずなのにこんなのを引くなんて……」


「おい。人をガチャの外れみたいに言うのはやめてもらおうか」



 なんて失礼な女神様なんだ。

 そんな女神ノクティス様は『ふ、ふ、ふ』と不気味な笑みを浮かべ。



「もういいわ……。アンタには悪いけど無理やりにでも異世界に飛んでもらうわよ。アンタを勇者に認定したから他の人は送れないし。あの世界は私の担当だから滅ぼされたら査定に響くのよっ!!」


 そう言って俺には聞き取れない呪文のようなものを唱えるノクティス様。

 すると俺の真下に魔法陣のようなものが現れて。


「んなっ……。ちょっと勝手が過ぎませんかゴラァッ!! さっきの話だと女神様は人類の味方なんだろ!? だったら俺の意見も少しは聞けぇっ! 職業選択の自由が俺にはあるはずだっ。人には生まれながら持つ権利が色々とあるはずで――」


「――――――――黙らっしゃいっ!! 知らないわよそんなもんっ! アンタみたいな狂人なんて一々救ってられるかぁっ! それより真っ当な人間救うわよ」


 人類の守り手だとか言っていたはずのノクティス様。

 だが、その人類の中に俺は入っていなかったらしい。


「それじゃあ……こほん。加藤かとうれんさん。どうかお達者で。あなたが魔王を倒し世界に平和をもたらす日を楽しみにしています」


 俺の真下の魔法陣が光を放つ。

 そうして俺の目の前は白に染まっていき。


「くそっ。ふざけるな、ふざけるなぁっ!! 嫌だぁぁぁぁっ。異世界召喚なんて……死んでも嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」



 そう叫ぶ中。

 俺の視界は完全に白に染まった――

 

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