第2話『見るとするは大違い』
俺はごねていた。
それはもう人生最大級にと言うくらいにごねていた。
「イヤダイヤダイーヤーダーッ!! 異世界召喚なんてされたくないっ! 俺にはサラリーマンになって無難に生きて無難に推しに金を貢いだりして幸せに生きていくって夢があるんだっ。誰が異世界なんかに行くかぁっ!!」
「ちょっ。え、なんで!? あなた、異世界召喚モノの物語が大好きなのよね!? そういう人間を選んで召喚したはずなのに……どうしてそんなに嫌がるの!?」
女神らしい神聖さをどこかに落っことしてきたらしい女神ノクティス様が訳が分からないと言わんばかりに叫ぶ。
確かに俺はノクティス様の言うように異世界召喚モノの物語が好きだ。
それなのにどうして俺はこんなに異世界召喚されたくないとごねているか。
俺はノクティス様にその
「見るのと自分がやるのじゃ話は全く違うんですよっ!! ええ、確かに俺は異世界召喚モノの物語が好きですよ。でもだからって自分が異世界召喚されたいと願ってるわけないじゃないですかっ!」
異世界召喚されて必死に生きる主人公。
その活躍する姿や苦労する姿を眺めて時には涙を流し、時には笑う。
それが楽しいのだ。
断じて俺自身が活躍したり苦労したい訳じゃない。
「大体その異世界ってテレビはあるんですか? 俺の好きなラノベはあるんですか?」
「え? いや、そりゃもちろんそんなのないけど……」
戸惑いながらも律儀に答えてくれるノクティス様。
そうか。予想通りと言うべきか異世界にはテレビもラノベもないのか。
うん。
「そんなの耐えられないのでやっぱ丁重にお断りさせて頂きます」
「えぇぇぇぇぇ!?」
「ではそう言う事で」
そう言って俺は異世界なんかに旅発たず元居た場所に戻ろうと。
……戻ろうと?
「あ、すいませんノクティス様。そういう訳なんで俺を元居た場所に帰してもらっていいですか? 心配しなくても異世界召喚されたいって願ってる奴なら他に居ますし。なんなら俺の知り合いでも紹介しますよ?」
俺からすればなんとも奇特な奴だなとしか思えないが、異世界召喚されたいなぁと夢見てる奴は俺の知り合いにも一定数居るからな。
そう俺が提案するもノクティス様は気まずそうにしながら。
「その……ごめん。もうあなたという人間を勇者に認定しちゃったから選び直す事は出来ないの。だからあなたを元の世界に戻す事は出来ないわ」
とんでもない爆弾を落としてきたノクティス様。
俺を既に勇者として認定しちゃった?
だから俺を元の世界に戻せない?
「………………おいふざけんなよ女神様。俺の事なんかどうせ下界の人間だしどうでもいいやとか考えてるのかもしれないけどな。勝手に人生を捻じ曲げられるこっちの身にもなりやがれ」
「ご、ごめんなさ………………いや待って!? 別に私はそんな事考えてないから!? 確かにあなたの人生を勝手に捻じ曲げてしまったけど……でも普通ここは喜ぶところでしょ!? だって他の女神に呼び出されてたあなたみたいな異世界物語が好きな奴はみんな『夢にまで見た異世界召喚だイヤッホォイ』って喜んでたもの。それなのになんであなただけそんななのよ!?」
「俺の考えてる事が伝わるなら分かるでしょう!? 俺にとって異世界召喚は見て楽しむものであって体験したいものじゃないんですよっ!」
異世界に行けば俺の好きな異世界モノのラノベやアニメの続きが見れない。
これだけでも行くのは嫌だが、他にも異世界召喚されたくない理由はある訳で。
「俺は知ってるんですよっ! あれでしょ? 異世界召喚されたらなんやかんやで俺は死んだり敵の呪いやらなんやらで死にそうな目に遭ったり、チート能力を持ってても王族さん達から厄介だと目を付けられて人類の敵に仕立て上げられたり……そんな目に遭うんでしょ!? そんなのご免なんですよっ!」
そう、それがテンプレというものだ。
確かに異世界もののラノベやアニメの主人公はなんだかんだでハーレム築いたりして羨ましい生活を送っていたりする。
だが、それは主人公の一側面でしかない。
ああいう主人公達はなぜか現代日本に生まれたとはとても思えない強烈な忍耐力を持ち、決して諦めない心の芯があるからこそあそこまで活躍出来ているのだ。
強烈な忍耐力?
決して諦めない心の芯?
そんなもの、当然ながら俺は持っていない。
だから俺があの主人公達と同じように異世界召喚されたところで華々しい活躍なんてできる訳がないのだ。
仮に一回死んで生き返ったとしても、死んだショックから立ち直れず引きこもる事間違いなしだろう。
「それに俺が認定されたのは主人公じゃなくて勇者でしょ!? そんなのもっと嫌に決まってるでしょうがっ!」
「主人公と勇者って………………似たようなもんでしょ!?」
「全然ちがぁぁぁぁうっ!!」
主人公と勇者が同じわけがないだろっ!!
もはや世界に星の数ほどある異世界召喚モノの物語。
その中で勇者が敵役である物語がどれだけある事か。
そしてその勇者達がどれほど無残な目に遭っているのか。
この女神様はご存じないらしい。
その事について俺は一から十まで説明しようとして。
「えぇっと……。下界の異世界モノの物語もそこまで幅広くなったのね。で、でも大丈夫よっ! あなたにはきちんと物凄く強力な力も与えるし、私には他に担当してる勇者も居ないしお昼の間は暇だからアドバイスなんかも出来ると――」
俺が説明するよりも先に昨今の異世界モノの物語への理解を示すノクティス様。
おそらく俺の考えを読む事により、異世界モノへの認識を深めてくれたのだろう。
説明する手間が省けて何よりだ。
その後。
ノクティス様は俺が召喚される予定の異世界についての説明を始めた。
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