問⑧【彼女の友達に会う? 会わない?】

 スマートフォンをいじりながら、彼女が何気なく言う。


「そうそう。こないだ友達と話してたら関川くんの話になってさ」

「友達に僕のコト話してるの?」


「もちろん。みんなに、じゃないけどね」

 当たり前のようにいう彼女。


 でも僕はちょっとドキドキする。

 僕はどんなふうに紹介されているんだろう?

 ちょっと気になったりもする。 


「でさ、そろそろ、私の友達に紹介したいんだけど……どうかな?」


 突如として突きつけられたイベントに僕は一瞬返答に困る。


「関川くんが、そういうの苦手なのは知ってるんだけど……ダメかな?」


 彼女が上目遣いで僕を見る。


 僕の頭の中ではいろんな思惑がグルグルと回っていたが、こう答えることにした。


「そうだね……」


🌱🌱🌱


正直なところ、女の子の集団は昔から苦手だった。一人ずつなら大丈夫なのだが、集団になった女性ほど対応が難しいものはない。


「ちなみに、友だちは何人?」


表情をなるべく変えずに彼女に聞いてみる。

後々のことを考えると、嫌がっていると思われるのは宜しくない気がしたからだ。


「5人だよ。私も入れて仲良し6人組!」


ろ、6人……


『いい仕事についてるけど私より収入は下かな』

『でも、料理は上手そうよ』

『うん、それに真面目そうです』

『でも服のセンスがちょっと。みんなアリ?』

『私はいいと思うけどなぁー』


手にした拡大鏡を使い、頭から爪先までをじっくり探る1人め。そして2人め、3人め……。

まるでナントカ鑑定団に出品された壺か掛け軸だ。鑑定が終わり点数を付けられる。

イチ、ジュウ、ヒャク……と1の位から発表される自分の姿を想像し身震いした。


「おねがい」


スマートフォンをテーブルの上に置いた彼女は両手を顔の前で合わせて首を傾げた。

後ろでひとつに纏めた髪の毛束が、傾げた方向にトュルンと揺れる。


なぜ今日に限ってポニーテール!

男を擽るポニーテール!!


こんなに可愛らしくお願いされたら断れない。


仕方ない、覚悟しよう。


そう気持ちを切り替えて、とりあえず情報収集だけはしておこうと思った。友だちの雰囲気を知っておけば、それなりにでも準備が出来る。


「そのお友だちは、同級生とか?」

「うん、高校の同級生だった子もいるよ」

「ん?」

「社会人になってから仲良くなった子でしょー、大学の後輩でしょー、えーと、それから」

「ん? んん?」


仲良し6人組と言うから、てっきり年齢や出会った時期が一緒だろうと思っていたのだが、どうやら違うらしい。


「年も、仲良くなったタイミングも雰囲気もみんなバラバラなんだけど、みんな気が合うの!」


雰囲気もバラバラという言葉を聞いて肩を落としてしまったのは言うまでもない。どうやら壺・掛け軸コースの想像は間違っていないようだ。

アハ、アハ、アハハ……

作り込んだ満面の笑みにはそぐわない乾いた笑い声が部屋中に響き渡った。


「えーっとね、バリキャリのイチカでしょー。あっ! ニイナは離婚したばかりなんだけどー。 あとは受付嬢のシオリとー、ファッション関係のイツキにー、染めもの職人のムツミ!……と私! なかなか濃いメンバーでしょ」


微笑む彼女の顔は凄く怖くも見える。


「関川くんなら、みんなに気に入られるよ」


彼女は「ふふふ」とそれはそれは楽しそうに、スマートフォンをもう一度手に取った。


🌱


……はたして、このお話は『前』か『後』か、お好きな方をどうぞ。

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