問③【優しくするのはキミにだけ?】
「関川さん、今度入ってきた後輩ちゃん、すごく可愛い感じじゃないですか?」
と聞いてきたのは一つ年下の後輩の子。
「そうかな? あんまり気にしたことなかったけど」
「髪型とか服装とか、関川サンの好みなんじゃないですか?」
「うーん、そんな風に思ったことはないけどなぁ」
「本当ですか? なんか後輩ちゃん、いっつも関川サンの後ろにくっついてるし」
「まぁこれでも先輩だからねぇ」
と、急にジトッと上目遣いで睨まれた。
「でも後輩ちゃんには特に優しくないですか?」
「そうかな? キミが入ってきたときもなるべく優しくしてたつもりだったんだけど……違った?」
「違ってないですけど……どうやらあたし、自分が特別だと勘違いしてたみたいです」
「……」
「関川サン、聞いてました?」
「ん? あ、あぁ……」
これは多分大事な二択。
僕は一呼吸して――
🌱🌱🌱
僕は一呼吸してから、意外と重たい冷凍ポテトの段ボールを二箱、冷凍室へと移動させた。
冷凍室に入っていないとはいえ、冷気を浴びる位置にいる彼女は「ちゃんと聞いてないですよね」と不貞腐れながら、デザート用アイスの納品数を確めている。
真面目なのはいいけれど、制服の赤いポロシャツから伸びる腕があまりに白くて寒そうだった。
「ほら、これ着て」
「でも!」
「力仕事してるこっちの方が実は寒くないから」
「……ありがとうございます」
僕のマウンテンパーカーの襟元に照れくさそうな横顔が沈む。
彼女がこの焼肉屋でアルバイトを初めてから今日までの約一年半、気のある素振りなんて一切見せられたことがない。
一緒のシフトに入ることが多かったから、結構な時間を過ごしてきたけれど、正直、そういう目で見たことは、今の今まではなかった。
――けれど。
「後輩ちゃんにもこうやって貸しちゃうんでしょうね、関川さん優しいから」
『しゅん』の文字が彼女の頭上に浮かんでいるのが見える。
なんか……なんか……めちゃくちゃ可愛くて調子が狂った。
「ど、どーした? なんか変だぞ」
店長が煩いから、検品して片付けて早くフロアに戻らないと……と早口になる僕とは対称的に、彼女は手を止めて再び上目遣いを繰り出した。
「私、もうすぐ就活が始まるので……あんまりシフト入れられなくなるんです」
大学生の僕と違い短大生の彼女。
確かにそろそろ、そういう時期だ。
「あんまり……会えなくなるんです」
後輩に優しいとか、好みだろうとわざわざ聞いてきたことを自惚れていいならば。
『会えなくなる』
その事実が寂しいと、そう今、感じたことをそのまま素直に伝えていいならば。
彼女の前にしゃがみこみ聞いてみた。
「……本当の特別に……なってみよっか」
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