第2章 初クエスト、ですわ~②


「……あんたってあんなバトルキャラだったの?」


 北門から街を出てゴブリンの被害があった村へ向かう道中、佐倉が俺にそう尋ねてきた。


「誰がバトルキャラか」


「だって……中堅の冒険者だったんだよね? なのにあんなに簡単にあしらうなんて」


「……まあ、受付さんもステータスだけなら俺らも中堅並だって言ってたし」


「それにしたって……」


 納得がいかない、と佐倉。


「俺が空手やってたのは知ってるだろ? スキルに体術もあるし。そんであの人らはモンスター相手の経験豊富そうだった分、逆に人が相手の喧嘩って慣れてないんじゃね?」


「……そう言えば、あんたってクラスで浮きまくってたのにイジメに遭ってるとか、そんな噂は皆無だったわね。今思えば、どっちかっていうとハブられてるって言うよりアンタッチャブルって感じだったような……?」


 懐疑の視線を向けてくる佐倉。


「……まあ冴えない見た目でオタク趣味、その上友達もいないとくれば、小馬鹿にされたり手を上げられたりすることもあるわけで」


「あんたそんなこと一言も言わなかったじゃない! 相談しなよ!」


「俺とお前って入学当初から仲良かったわけじゃないじゃん……いくらお前がクラス委員だからって〇〇くんに絡まれてるんだけど、なんて相談するわけないだろ」


 ましてや男子が女子のクラス委員に、だ。


「……それでああいう感じで対処したきたってわけね」


 そりゃあ友達ができないわ、と空を仰ぐ佐倉。


「そこで殴られっぱなしでも友達はできないだろ?」


「そうだけど……あんた、この世界ではめっちゃ見た目いいから、がんばってわたし以外にも友達作りなさいね?」


「それは現世じゃ絶望的だったってことか……?」


 異世界TS召喚されないと友達が作れないってことか? なんてハードルが高いんだ、友達づくり……


 ……というか、今の超絶美少女の見た目で釣れる友達は友達といっていいのだろうか?


「それにしても、チート使うのかと思ってた。まさか素のままあしらうなんて」


「お嬢様ですわよ~、なんて言いながらぶん殴られたらモヒカンも可哀想すぎるだろ」


「われわれの業界ではむしろご褒美では?」


「お前的にはそうかもしらんが……モヒカンはまあ、見た目からして挑発にすっごい弱いタイプだったからね。煽ってやれば反射的に手をだしてくると思ったし。いくらステータス高くても喧嘩は素人だってのは昨日の時点で分かってたから、そしたらあとはあの通りよ」


 俺がそう言うと、佐倉は感心したように頷く。


「あんたが空手やってたっていうの、初めて実感した」


「今更か。辞めて一年以上経つけど意外と体が憶えててさ」


「その調子でゴブリンも頑張ってね」


「馬鹿言え、何のためにロンソ買ったと思ってるんだ」


 佐倉の無茶振りに俺は言い返す。


「そりゃあいざって時のために拳まで保護できる防具にしたけどさ、足も……けど剣の扱いが素人だったとしても、金属の刃物と素手じゃ攻撃力が違いすぎるじゃん。そりゃ剣で戦うよ」


「……スキルでステ盛った状態なら行けるんじゃない?」


「だとしても空手一本で戦うより剣使ったほうがいいだろ」


「ゴブリンならいけるんじゃない? 小鬼、なんて言われるぐらいだし。小学校低学年くらいのイメージなんだけど」


「どうだろうなぁ」


 俺は佐倉に告げる。


「スライムやゴブリンってずっと雑魚モンスターの代表みたいな感じだったけど、最近の異世界ものじゃそのへん見直されてるだろ? 一筋縄じゃいかない相手だと思うぜ。ゴブリンと言えば数が多いってのが定番だ、一対一なら素手でも戦えるかも知れないけど、数で圧されたらちょっと戦える気がしないな」


「……それがわかっているならどうしてクエストを受けたのかなぁ。地道にやっていこうって行ったのは椎名の方だったのに」


 ぐっ……


「……俺、なんか冷静じゃなかったよな?」


「報酬金額聞いてから目の色変わってたよ」


 冷静にそう告げてくる佐倉。


「……いや、一気に手持ちの金が増えると思ったらさ……」


「薬草集めなら支度もこんなにお金かかんなかっただろうに、お陰で残りのお金が金貨十枚切っちゃったよ」


「……お前だってクエスト受けるの納得したじゃん……ポーション買い込むの反対しなかったじゃん……」


「いやまあ、加護もあるし、いざってときはあんたのチートスキルもあるしね。なんとかなるかなとは思ってる。その時が来たら出し惜しみせずに使いなさいよ?」


「【優雅たれエレガンス】か……」


 俺に発現したチートスキル【優雅たれエレガンス】――ですわ口調、というかお嬢様っぽい口調、おそらく態度も――で発動、ステータスの数値が増加するという単純かつ強力で意味の分からないスキルだ。


 現状確認できた範囲だとステータス補正量は最大で二倍ほど。よくある必殺・無双系のスキルとは違い絶対的なスキルじゃないが、使い勝手はいいし今後補正量が伸びれば更に頼れるようになるだろう。


 問題は――


「……あれ使うと心が折れるんだが」


「女口調で話すだけでバフかかるんだからいいじゃない。わたしのスキルなんかいつ使いドコがくるんだか……」


 ぼやく佐倉。


「【剣の才覚】な……そっちのが勇者っぽくて裏山なんだが」


「見方を変えれば【優雅たれエレガンス】が発現したのがあんたでよかったとは思うわね。わたしの見た目で、更にですわ口調はさすがにね」


 そう言って佐倉は自分の体を見下ろす。国民的イケメン(ただし二次元の)そっくりとなった佐倉が、『わたくしはお嬢様ですわよ~』と言っているのは確かにアレだが。


「……そういや俺もお前も、見た目の性別反転してんのに言葉遣いなんも言われねえな」


 ふと、そんなことに気がつく。何人か現地人と会話しているが、誰もそのことを突っ込んで聞いてはこない。俺の男言葉はともかく、佐倉の女言葉は傍目から見たら違和感がありそうなもんだが――


「わたしも実はそれ気にしてたんだけど」


「そのわりには僕とか俺とか言わないのな」


「やー、わたしたちの言葉って日本語として成立してるわけじゃないかもじゃん? ニュアンスで伝わってるっていうか」


「――ああ、異世界あるあるの自動翻訳か」


「うん。それならわたしの言葉は丁寧に話してる風に伝わってるのかなって」


「……文字が違うし全然あり得るな、それは……」


「まあ、そこは多分考えても絶対答え出ないし、わからないんだけどさ」


 ――と、佐倉が言い終える前に俺たちが歩くすぐ先にどごんと落雷が落ちた。土煙が上がり――そしてそれが治まると、そこには。




『正解☆ マジ便利っしょ♪』




「……正解だってさ。まあ、言葉遣い直さなくていいのは便利かな」


「答え出ちゃったな。つーか、それ俺に言う? 言葉遣い縛りを要求されてるんだが?」


 ギャル女神の無駄な神託に、俺たちはそんなことを言い合いながら問題の村に向かって歩き続けた。


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