第28話

 エアを加えた賑やかな食卓を囲み、俺は今竜司たちパーティーとの待ち合わせ場所である『勇気の洞窟』前の冒険者ギルドに待ち合わせの三十分前に来ていた。


 俺が早くに待ち合わせ場所に来たのは、竜司がいつも待ち合わせに早く来るからだったのだが、今日は時間になっても姿を現さなかったので少し心配になってくる。


 あまりにも珍しい現象に心配になってしまい、思わず電話をかけてしまったほどにだ。


 そしてその電話に出た竜司曰く、パーティーで支援魔法などを担当している白星さんが寝坊してしまったらしい。


 白星さんは楽しみにしている日の前日になかなか寝付けないタイプの人らしい。


 自分たちパーティーより少し進んでいる俺がテイマーということもあり、どんな子たちと触れ合えるかと楽しみだったらしい。……朝一番に白星さんがした言い訳がそれだったそうだ。


 そんなこんなで待つこと三十分、四人そろった竜司たちパーティーと合流した俺は、ギルドの貸し出し装備を借り竜司たちの後ろについていく。


 そして何度かモンスターとエンカウントした後に俺が思ったのは、竜司たちのパーティーのバランスの悪さについてだった。


「竜司のパーティー、バランス悪くね?」


 思ったことをつい口に出してしまったがそれも仕方のない事だろう。


 なんと竜司のパーティーは前衛を竜司だけが担当し、他女子三名は後衛という非常にバランスの悪い構成だった。


「いいんだよ、こいつらに危ない目にあってほしくないし……それに今まであんまり不便を感じたことないしな!」


 先頭で竜の意匠があしらわれた鎧と盾と片手剣を両手に構えた竜司が前方を警戒しながら言う。


 弓の名手の大久保さん、支援魔法や回復魔法を自在に操る白星さん、火魔法などの攻撃性の高い魔法を使う固定砲台な土岐先輩。


 確かに前衛を務める竜司がへまをしなければ、よほどのモンスター出ない限り後れを取らないだろうが、あまりに竜司への負担が大きすぎる。


「そう……竜司がそれでいいならいいか」


 きっと何を言っても聞かないのだろうと思い観念してこれ以上の言を飲み込む。


 そうして竜司たちの後ろをついていき一時間ほどたったころ、目的の湖が見えてきた。


「とうちゃーく!……さて、そろそろ雄大もテイムした魔物たちを出しても大丈夫だぞ。この辺りはほとんど人が通らないからな!」


 前もって竜司たちと顔を合わせたいか聞いていたので、その際顔合わせをしたいといった子たちをアトランティスから呼び出す。


『プルゥ!(主~来たよ~!)』


「お疲れ様です旦那様……この湖なら十分に釣りを楽しめそうで御座いますね 」


 頭の上にミナモ、右腕に抱き着いてくるツナミと二人がホームポジションに着いたので竜司たちに二人を紹介する。


「頭の上のスライムがミナモで、隣の美人さんがツナミって言うんだ……あんまり会う機会もないと思うけどよろしくね」


「ご紹介にあずかりました、旦那様の妻のツナミと申します。以後お見知りおきを」


 頭を軽く下げて挨拶しているツナミと、俺の頭の上で跳ねているミナモに、対面にいる四人は大きく口を開いて驚いている。


 その視線はミナモよりツナミの方に向いているので、単にツナミの美しさに見惚れているだけかもしれないが……。


「じゃあ俺は早速釣りするから、頼むわ~」


 とりあえず驚いて固まっている四人の事は放置して、水辺に近づいてみる。


 迂回しないと先へ進めないほどの広大な円形の湖だが、浅い階層なのでそこまで大物はいないだろうと、さっそく初めての釣り竿召喚で手頃な釣り竿を召喚してみる。


 スキルの説明曰く、魔力を使って俺がイメージする釣り竿を象るらしい。


 このスキルなんだが、ツナミに詳しく聞いたところ、現実にないような釣り竿も、イメージによっては作れるらしい。


 そしてこの湖の中の魚たちは、モンスターなのだ。


 なので外で使うような釣り具では耐久性の問題で使えなく、専用の釣り竿をイメージして作らなければいけない。


 それに加え、モンスターを吊り上げるためには魔力を餌にする必要があるらしい。


 俺の魔力ならば入れ食いになるだろうとツナミがニコニコと言っていたので、魔力を込められる釣り針のついた釣り竿をイメージする。


 すると右手に、リールもガイドもついていない竿の先から魔力でできた糸が伸びているだけの、見た目原始的な釣り竿が出現した。


「なんか思ってたんと違うな……」


「きっと旦那様が異世界の釣り事情を原始的とイメージしたからで御座いましょう。……実際旦那様の所持されていたような釣り竿は、異界の文化として発展はしていないようでございますし」


 ツナミが言うのに加え、俺がこれくらいで十分だろうと思ってしまったのも原因かもしれない。


「とりあえず魔力を込めて糸を垂らしてみるか」


 地面によくキャンプへ持っていく椅子をアイテムボックスからだし、ツナミと二人で座り水面へと魔力でできた糸を伸ばして垂らす。


 魔力でできた糸は伸縮自在でだが、意外と魔力の操作が難しく、自由に動かすにはもう少し練習が必要なようだ。


 糸を垂らして五分ほど経ち、とうとう初めての獲物がかかったのか竿がしなる。


「結構大きいかも!……ってか魔力の操作難しいな!」


 魔力の糸の操作に四苦八苦しながら獲物と格闘し、とうとう吊り上げることに成功する。


「おぉ!でかい!」


 それは体長七十センチを超える、ニジマスのような見た目の魚だった。


 どんな種類の魚か知るためにすぐさま鑑定をする。


【名前】未設定

【種族】ダンジョントラウト

【Lv】2

【職業】――――――

【スキル】水魔法Lv1

【情報】ダンジョンの浅層の水中に生息するトラウト型モンスター 水中に入った侵入者を魔法で攻撃する

 


 やはり種類としてはマスの様だ。釣り針に喰いついて、ぴちぴちと体を揺らしている。


 しかしモンスターになっても魚は魚、だんだんと弱っていき最後には靄になって魔石になってしまう。


「やっぱりモンスターだから魔石になるのか……。釣り自体は楽しいけど、なんだかこれじゃない感がすごいな……」


 ダンジョントラウトの魔石を見つめながらぼやいていると、背後から竜司が声をかけてきた。


「それなんだよなぁ~……他のモンスターも魔石だけじゃなくて素材みたいなドロップアイテム落とすようになんねぇかな?」


「あぁ……素材で武具とか、ちょっとしたロマンだもんな」


 竜司の言う通り、魔石だけがドロップするのはなんだか味気なく感じてしまうのだ。


 もし迷宮を管理運営しているらしい異界の神に会ったら、直談判してみようかな……。


 ……まぁそうそう会うことなんて無いだろうけど。

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