第23話
家に帰ると、母さんが晩御飯を作っている途中だったので、顔合わせを含めてツナミとファーティが手伝いをしに行った。
なので俺は、プライベートルームに行きミナモとサクラと戯れることにする。
「雄大さ~ん!おかえりなさぁ~い」
屋敷の門前まで来ると、なぜかミニスカートのメイド服を着ているサクラが大きく手を振って出迎えてくれる。
「ただいまサクラ……かわいい格好してるね?」
「えへへ~ファーティさまがくれたんだ~」
まぶしい絶対領域に視線が行かないよう、顔を上げサクラの笑顔に癒される。
「それで、ミナモはどこにいるの?」
「ミナモちゃんは~雄大さんの部屋で寝てる~」
ダンジョン探索の時も珍しく御留守番を申し出てきたし、少し早い時間に寝ているミナモはきっと何かを頑張っているんだろう。
少し触れ合えないのは寂しいが、成果が実るまで我慢しよう。
ミナモが寝ているので部屋には行かず、ツナミたちが呼びに来るまで屋敷の外でサクラと過ごす。
「そういえばここの名前何にしようか……」
「なまえ~?」
「そう、この空間の名前……自由に付けられるらしいんだけど、変えられるのは一度だけみたいだからさ」
そう、名前の変更は一度しか行えずその後はずっとその名前になるのだ。
ミナモやサクラの名前を考えたときは、彼女たちの見た目や雰囲気から決めることが出来たのだが、この空間は大きな木と豪邸と広大な海原が広がっているだけなのだ。
そういえば学校で弁当を食べているとき、ツナミが釣果をこの空間に放って天然の環境を作り、この空間だけで釣りが楽しめるようになるって夢のような話をしていたっけ。
なんでもこの空間に放った生物は、俺の魔力を吸って強くなるようなのだ。
そして魔力を覚醒させた魚は身が引き締まりよりおいしくなるんだとか……。
「なんかそれっぽいし、アトランティスにするか!」
様相は絶海の孤島、そこに俺だけの国が出来ているようなものだろう。なので結局名前をアトランティスにしようと決めた。
明日の釣りが楽しみすぎて思考が鈍っている気がするが、まぁいいだろう。
私有地で優雅に釣り……考えただけでわくわくが止まらない。
サクラの木に二人でもたれかけながら、人の体を得たサクラがこれから何をしたいかを話していた。
「わたしは~雄大さんと一緒ならなんでもいいかな~」
樹精族は生来のんびりとした性格のヒトが多くて、サクラもその例に漏れないらしい。
「……あ、でも~お野菜を育ててみたいかも~」
「それじゃあファーティと相談して畑つくろうか」
どんな野菜を畑に植えるか二人で話してると、念話でツナミが呼んでくれたので晩御飯を食べに行く。
「すぐ戻ってくるからちょっと待っててね?」
「ゆっくりでもいいよ~」
せっかくだから今日のお風呂はアトランティスの屋敷でみんなと入ろう。
家に戻りリビングに降りる。そこでは母さんとツナミとファーティが食卓をすでに囲んでいた。
「おかえり雄ちゃん……雄ちゃん、ツナミちゃんがいる上にファーティちゃんみたいな綺麗な子を捕まえるなんて……やるわね!」
一緒にご飯をつくったのがよっぽど楽しかったのか、母さんはニコニコ上機嫌だ。
それから四人で楽しい時間を過ごしていると父さんも帰ってきたので食卓に加わる。
両親から話を聞くところによると、会社や町内会でもパーティーを組んでダンジョンに潜ったらしい。
父さんは学生時代弓道部だったので弓使いに、母さんは俺と同じテイマーになりたかったらしいのだが、同じくらい魔法も使ってみたかったらしいので魔法使いになったそうだ。
二人ともパーティーの後衛を担当しているみたいだし、安全そうでよかった。
食事が終わり、ツナミとファーティを連れてアトランティスに戻る。
ちなみに名前を決めたのは二人に食後報告済みである。
パジャマを取りに自分の部屋に入ると、ベッドの上でグデンと水たまりになっているミナモを見つけた。
「大丈夫?ミナモ……」
『プゥ~(主~むにゃむにゃ)』
どうやらぐっすりと寝ているようだ。
ミナモを起こさないよう四人で大浴場に癒され、寝るためにベッドに向かう。
抱えてあげれば水たまりになっていたミナモも元の形に戻ったので、昨日と同じ配置で寝ることに。
「明日は海のあるダンジョンに行く予定なんだけど、どこかいいところないかな?」
「近くで海のあるダンジョンですと、『迷海の洞窟』がよろしいかと」
ツナミが提示してくれたダンジョンを冒険者ギルドのサイトで調べてみると、迷路型の洞窟とフィールド型の海が階層になっているハイブリットな階層型ダンジョンらしい。
しかし二階層以降の海のフィールドを攻略をすることが不可能と判断した冒険者が多く、今は過疎気味なダンジョンのようだ。
「そしたら明日はそこで釣りを楽しもうかな……」
ついでに素潜りでもして海の幸を大量に家に持って帰ろうか……。
母さんが魚介好きだって、父さん言ってたし。
「みんなおやすみ……」
今日もみんなに包まれて、幸せな柔らかさを感じながら意識を閉じる。
明日は今日よりもっと幸せになるだろうと思って。
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