第22話
昼ごはんに今朝俺とツナミとファーティの三人で作った弁当を食べ、午後の授業も無事乗り切る。
そして日課のごとく、帰りに冒険者ギルドへ寄る。
いつものように見てくれだけの装備を身に着け、ダンジョンに潜る。
昨日の帰り道、サクラが元いた場所からダンジョンの入り口までまっすぐ全力で走って30分ほどだったので、今日中にはこのダンジョンの攻略を完了できるだろう。
頭にいつも感じるぷにぷにが無く、少し変な気分になりながら、ダンジョンの中心に向かって全力で走りだす。
このダンジョンにもとうとう人がちらほらと潜り始めたので、細心の注意を払って走る。
全身甲冑の質量が間違っても衝突してしまえば、レベルがまだ低い浅層にいる他の冒険者はミンチになってしまう。
そして昨日から記録を更新して、20分ほどで目的地に着いた俺を待っていたのは、4メートルを超える灰色の巨狼だった。
【名前】未設定
【種族】エルダーグレイウルフ
【Lv】150
【職業】――
【スキル】――
【情報】――
……久しぶりの鑑定情報が読み取れない格上モンスターだった。
「絶対ダンジョンボスクラスだと思うんだけど⁉なんでこんなとこにいるんだよ⁉」
『あれは確かにボスに設定したエルダーグレイウルフだが……急に膨大な魔力が消失したから、様子を見に出張ってきたと言ったところだろうな』
念話でファーティが解説を入れてくれるが、それに悠長に答えている隙を相手は与えてくれない。
前足を大きく振り上げ、その鋭い爪を振り下ろしてきたのだ。
「うおぉ⁉」
身体能力に身を任せて何とか横っ飛びで回避する。
そして周囲に海槍ツナミの複製を十本作りだし、エルダーグレイウルフにまっすぐ飛ばす。
軽い身のこなしでいくつかのツナミを避けたエルダーグレイウルフだったが、右後ろ脚の付け根と背中に一本ずつ突き刺さり、いくつか掠り傷を負わせることに成功した。
「一撃でたおせねぇ⁉」
なまじ今までツナミを一突きすれば倒せていたモンスターばかりだったので、少し動揺してしまう。
そんな俺の隙を狙ったのだろう、俺の攻撃に少し怯んでいたエルダーグレイウルフが大きな咆哮を上げ、魔力の衝撃はを起こし吹き飛ばされてしまう。
「ぐぅ……」
木にぶつかり地面に落ちるが、鎧のおかげでダメージは少ししか負っていない。その上ファーティの加護のおかげで地面に立った瞬間気力と体力が湧き上がってくる。
「ツナミとファーティのおかげだな……後で何か御礼しないと」
ツナミとファーティに感謝していると、当のファーティから念話が送られてきた。
『雄大!君専用の槍斧のデザインが決まったぞ!ぜひ使ってみせてくれ!』
戦闘自体は時間をかければ余裕だと感じたところで、新しい武器の試しをしろと興奮しているファーティ。
右手に握っていた海槍ツナミを一度空中に浮かべ、ファーティの造ってくれた武器を呼び出そうとする。
すると脳裏に武器の名前と呼び出し方が刻まれる。
「来い!グレイス!」
右手に表れたそのハルバードは、黄金色に輝いていた。
柄は脈打つ木材でできていて槍先は螺旋、斧頭は180度に広がる扇で反対の突起は長く鋭利だ。
『あんな犬ころなど一発でぶった切ってしまえ雄大!』
興奮が最高潮のファーティに背中を押され、エルダーグレイウルフに近づき上段に飛び上がる。
体をひねり、回転を加えてエルダーグレイウルフの頭に斧頭をぶち当てる。
すると大きな悲鳴を上げて、エルダーグレイウルフが地に倒れ伏す。
それと同時に体から膨大な熱を感じたので、確実に倒したのだろう。
「ハハハッ!……きもちいぃ~」
両手で握るグレイスのあまりの感触に笑顔がこぼれてしまった。
『……すごくいい顔をしているぞ?雄大』
「最高だったよ……ありがとうファーティ!」
『……大変ようございましたね?旦那様……ダンジョンボスを倒されたので御座いますから、早くダンジョンコアに触れて今日は帰宅いたしませんか?』
念話越しにファーティと笑いあっていると、少し不貞腐れた様子でツナミがダンジョンの攻略の続きを促してくる。
「そうだね……よし!走ろう!」
エルダーグレイウルフが魔石になっていたのでそれを拾い、さらにレベルが上がった身体能力を駆使して森の中を全力で走り抜ける。
数分もすると、黄土色に輝くダンジョンコアがある祭壇のような場所にたどり着いた。
「あれがこのダンジョンのコアか……あれに触れればいいんだよな?」
『そうで御座います』
鈍く光るダンジョンコアに手をつくと、前にも見たメニューのようなものが目の前に出てくる。
今回は一番下にあったダンジョン破棄の項目はなく、入り口転移の項目しかなかった。
『私のダンジョンは残すべきものでは御座いませんでしたから、こちらが正常なので御座います』
ダンジョンの詳細情報を流し見て、入り口転移の項目を選択する。
すると視界がまぶしく光り、目を開けたときには眼前に冒険者ギルドの建物が見えていた。
「あっという間に攻略できたな……みんなも手伝ってくれてありがとうね」
日数にして四日でダンジョン攻略だ。目標よりも短縮できたのもみんなのおかげだ。
これでツナミもダンジョンでの釣りを許してくれるだろう。
『……ミナモちゃんもサクラちゃんも、私たちもいるので御座います。旦那様のダンジョン内の安全は、ほぼ確実なものになったでしょう』
明日は海のあるダンジョンに行こうかな、でもさっきみたいな大きなモンスターとの戦闘も楽しかったんだよなぁ~。
とりあえず明日は久しぶりに釣りを楽しもう。ツナミにいいダンジョンを紹介してもらわないとな。
「……これはっ⁉」
明日の予定をウキウキで立てていると、魔石を換金していた受付のお兄さんが大きな声を出した。
その魔石はエルダーグレイウルフの魔石だった。
大きな魔石に、ギルド内の他の冒険者からも注目が集まる。
「っ⁉……申し訳ございません!河野様!」
周りからの視線に気づいたのか、声を小さく俺に謝罪の言葉を述べる受付さん。
「構いません……それで、いくらになりますか?」
「申し訳ございません。これほどの魔力量の魔石なら、これ1つで小国のエネルギーをまかなえてしまう可能性もあるのです。……ですので、こちらの査定金額は一度上と相談して、決まり次第登録されている河野様の口座に振り込ませていただく形になると思います。……よろしいでしょうか?」
今すぐ値段が決まらず、後々振り込まれる形になるらしいのだが、今すぐお金に困っているわけでもないし、これは別に許可してもいいだろう。
「はい、大丈夫ですよ」
そうして無事(?)魔石の換金を終わらせて、家に帰る。
明日はとうとうダンジョン釣りの日だ……何が釣れるのか楽しみだなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます