眼中

中学に入り、ウリのは、更に度を増していた。小学校の時好きになった田川と竹下を2人とも好きだ、と言ったまま、中学に上がったのだ。そして、ある日の事だった。


「ねぇ、碧琉!先生に英語のノート、集めて職員室に持って来いって言われちゃった…」


「ん?あぁ…良いよ。俺も半分持つ」


クラスも違うのに、ウリは自分のクラスに碧琉を呼びつけた。


「うん」


そう言って、2人が、席を立とうとした時だった。


「ウリちゃん、これ、お願い」


「あ…う…うん!」


「………」


碧琉に悪い予感が過る。


「じゃあ、よろしく!」


久永ひさなが君…優しい…。誰も『お願い』とか、『よろしく』とか、言ってくれないのに…」


「…好きに…なった?」


ひっそり、碧琉は聞いた。


「なった…」


(はぁ……)


碧琉は、心の中で、大きな大きな溜息を吐いた。そして、ウリは3冊、碧琉は、30冊持って、職員室に向かった。そして、碧琉は、聞いておきたい事を、ここで聞こうと思った。


「なぁ、今、ウリ好きな奴いるの?」


「いるよ!」


ウリは、ルンルンとした顔と声で、答えた。


?」


!!」


(はぁ…やっぱりか…)


碧琉には、心当たりがちゃんといた。田川と、竹下と、久永。そして、これから起こる事も、予想出来た。


そう。ウリは、人を、同時に、何人でも好きになってしまうのだ…。それが、ウリの性格…恋の法則になっていた。1度に何人もの人を好きになり、しかも、1度好きになると、いつまでも、いつまでも想うようになってしまったのだ。


理由は、小学校の時と、さして変わらない。『ハンカチを拾ってくれた』とか、『転んだ時絆創膏をくれた』とか、『先生に集めて来いと言われたノートを<お願い>と一言声をかけてくれた』とか…。そんなの、よっぽど、碧琉の方が奉仕していると言うのに…。


しかし、碧琉は、それをウリに言う事はなかった。



そして、また、ウリのが始まった。




「キャー!高橋たかはし君、3ポイントシュートだー!格好いい!!」


その黄色い声の主は、何を隠そう、ウリだった。言って置く。碧琉は、身長182㎝。2年生ながら、バスケ部のエースだ。2年生の段階で、もう推薦の誘いも来ているほどだ。しかし、クラスの違う碧琉のプレーをウリが見られるはずもなく、そもそも、碧琉のバスケに、ウリは興味がなかった。


それでも、吹奏楽部のウリと、部活が終わる時間は一緒なので、2人は、中学に上がっても一緒に帰っていた。


その日の帰り道、碧琉は、またも、聞きたくない話をウリから聞かされる事となる。


「ねぇ、聞いてくれる?碧琉!」


「…何?」


もうすでに、碧琉は不機嫌だ。


「今日ね、体育の時間、高橋君の3ポイントシュート、滅茶苦茶格好よかったの!!」


「あぁ、高橋か…。3ポイントなら、俺も得意だけど…」


「へー、そうなんだ」


(それだけかよ…)


「でね!」


(まだあんのかよ…)


「今日、同じクラスの、日向ひなた君と漫画の話したんだけど、『薔薇の庭』って言う漫画、日向君、好きなんだって!話し合うねーって盛り上がっちゃった!!」


(その漫画は、俺が勧めたんだよ…)


「それにね…」


(おいおいおいおい…もう良い加減にしろって…)


「遠藤君が、昨日、夢に出てきちゃったの!!もう、恋しなさい!!って事だよね!?」


(完全なるだ…)


この時点で、ウリが好きな男子は、6人だ―――…。

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