第20話 結果

 遊嬉宴楽というチーム名を名乗っていながらテスト勉強に明け暮れていた四人はついに終わりの日を迎えた。テスト当日、遊子と楽は感動していた。初めて問題を見て、勘ではなく知識で答えを選択したのだ。記述式の問題に関しては捨てていたようなものだったのに自然と答えは浮かび上がっていた。解けるとこうも楽しいのかと感動した。この高校に入学していなければ味わえなかった楽しさだろう。勉強も悪くない。そう思えた瞬間だった。

「さて、成績表を配る」

 担任の言葉に遊子は緊張した様子で名前が呼ばれるのを待った。返ってきた解答用紙の点数は全科目平均点を前後するもので正直良くはないが、今までの点数に比べると努力がわかる点数だった。

「栄山遊子」

 大きな音を立てて存在感を出してくる心臓を必死で抑えて遊子はこれからの文化祭参加の運命が書かれている小さな紙を受け取った。中を見ることなく席に戻り、一呼吸おいてからその紙を見た。

「158位」

 今年の一年生は240人。遊子は満面の笑みを浮かべた。



 放課後、四人は嬉々として生徒会室に向かっていた。楽の順位は156位。二人ともギリギリではあったが、見事中間層に足を突っ込めた。

「くっ、まさか本当に中間層に入ることができたなんて」

 生徒会室に入ってきた四人に順位を聞いた誠はなぜか悔しそうに四人に鋭い視線を向けた。

「おめでとう、ギリギリだけどよくやったね」

 透子は満足そうに後に廊下に貼られる順位表を見た。

「では、約束通り文化祭参加を認めてくれますよね?俺ら、そのために今日まで遊びを禁止して勉強していたんです」

 嬉色は勝ったというオーラを全身から出して初音に問いかけた。しかし、肝心の初音はどこか焦ったような様子で楽を見つめており、嬉色の話など聞いていなかった。

「片心初音生徒会長!どうしますか、四人の文化祭参加!」

 大きな声で誠に問われ、やっと正気に戻った初音は取り繕うようにわざとらしく咳をした後真剣な表情で四人と順位表を交互に見た。

「確かにギリギリとはいえ中間層に入っているわ。この順位表が証拠ですもの」

 初音は仕方ないと言った様子で頷いた。

「文化祭参加を認める。ただし、条件があるわ。やるからにはこの高校の文化祭の色ともいえる勉強という点を疎かにしないで。貴方達がふざけると参加を認めた私達の顔に泥を塗る行為というのを忘れないでほしいわ。それくらい、この生徒会は舐められてはいけないのよ」

「はい!ありがとうございます!」

 遊子は飛び上がるように両手を高く上げ、そのまま宴に抱き着いた。楽と嬉色も満足そうに肩を組んでおり、そんな四人を祝福するように希望が拍手を送っていた。口を大きく開けて呆気にとられている誠の肩に透子はニヤニヤと手を置いた。そんな中、初音だけは楽を見つめていた。



 文化祭参加が認められて四人が真っ先に向かったのはあの茂みだった。

「君ら、凄いな」

 四人から生徒会室で起こったことを聞いた掴は目を丸くして四人を見つめて呟いた。

「まず俺は君らが中間層にいくとは思っとらんかったし。悪いけど」

「でも、約束ですよ。やってくれるんでしょう?」

 嬉色は掴に詰め寄った。やらないなんて言わせない。そんな思いが無表情ではあるものの目から伝わり、掴は柔らかく微笑んだ。

「約束やもん。やったる」

 頷いた掴に四人は笑顔で手を合わせた。こうして、遊嬉宴楽チームに三年生、作曲担当の掴が加わった。



 文化祭参加決定と頼もしい作曲担当が加わったことで上機嫌で遊子達と別れた楽はトイレに寄った後、自分のクラスに戻ろうとしていた。

「ねぇ」

 人の少ない廊下で声をかけられ、楽はまさか自分じゃないだろうと思いつつも首を動かした。

「ここよ、堂山楽」

 お忍び旅行に来ている芸能人の如く周りを警戒しながら曲がり角から顔を出す生徒会長、初音に楽は何を言われるのか察した。こちらを手招きで誘う初音に楽は大人しく着いていった。

「で、何の御用でしょうか?」

 連れてこられたのは音楽室、美術室など技術科目の教室が詰められた階の廊下だった。生徒の影は一つもない。

「なぜ、言わないの?」

 楽の目を見ず地面を見つめながらそう問われ、楽はやはりかと苦笑した。

「言ってほしいんすか?」

 質問で返され、初音は少々ムッとしながらも首を振った。

「まさか、俺がそれを脅しに文化祭に出させてくれって言うとか思っていたんですか?」

「まぁ、そう思ってもおかしくはないと思うわ」

「するわけないでしょ」

 ばつの悪そうな顔で頷く初音に楽はくだらないと言わんばかりの顔でその言葉を斬った。

「アイツらがそんな手、望むわけない。楽しいことに全力で、今を楽しむ方法を探しているんだから。生徒会長を脅すなんて、全然楽しくないでしょう?」

 楽は三人を思い浮かべているのか、優しさの含まれる笑顔で黙っている生徒会長を見た。それはまるで手のかかる妹、弟をもった兄のようだった。

「安心してください。見なかったことにしてあげますよ」

 その優しい笑みに初音は何も言えなかった。同時にその言葉と楽に安心した。

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