第19話 見透かし少女は忠誠に見透かされない
橙色の空の下、透子と誠は肩を並べて帰っていた。
「最近の生徒会長、ご様子がだいぶおかしいが何かあったのだろうか?やけに何かを気にしていらっしゃるような」
「まぁ、人には何個か自分の中で留めておきたいものがあるからね。何かが出てきちゃったんでしょうね」
心配そうに悩む誠に透子は淡々と答えた。
「透子、何か知っているのか?」
「まぁね。あたしは何でも知ってんの。それより、今は別のことを心配しておいた方がいいよ」
「別のこと?生徒会長のご様子より重大な事か?」
「当たり前でしょ。今年の新入生テストは結果次第で一年生の環境は大きく変化するだろうね」
「ん、んん?」
よくわかっていない顔をする誠に透子は足を止めて向かい合った。
「栄山遊子と堂田楽の勉強の出来なさは多分共通認識になっていると思う。ただでさえ言動見た目で目立つ二人なんだからすぐに広まっていると思う。じゃあさ、そんな二人が下位層から抜け出したらどうなると思う?」
「下位層から中間層になるだろう?順位が上がるのだから」
「そう、順位が上がる。同時に彼らが上がった分だけ下がった生徒も出てくる。勉強ができなくて基目島先生に目をつけられている二人より下になった、つまり勉強ができないというレッテルを順位表によって貼られた生徒達はどうなるだろうね?」
透子に言われ、誠は気づいたのか目を見開いた。
「気づいたでしょ?勉強と成績が求められ、それがこの高校の生徒の全てになる。そういうシステムが形成されているのよ。だから、下位層になってしまった生徒に何が起こるのか考えておいた方がいいわ。これは考えすぎでは済まされない話だと思う」
「た、確かにそうかもしれん」
「誠」
透子は誠の目をしっかり見つめた。何かを見透かすような目ではない。説得するような力強い瞳だった。誠は目を逸らすことなく透子と見つめ合った。
「あたし達生徒会が考えるのは学校のシステム向上だけじゃない。生徒達の平穏な生活もだよ。あたしはそう思う。だから、変えようと思ったの。いつかこの事態は引き起こる。あの四人組が現れなくてもこんなシステムじゃ時間の問題だったと思う。それならあたしがこの高校にいる間に変えたい」
真剣にそう語る透子に誠は深く頷いた。
「そうだな、透子らしい。君はいつもそうだったな。そうやって何でも見透かしては動く」
誠は懐かしむように微笑んだ。
「まぁ、誠にはできないことだよね」
「む、一言余計だぞ」
「だって、こんなに長くいるのにあたしの何も見透かせないんだから」
「どういうことだ?」
首を傾げる誠に透子はニヤリと笑って、そのまま背を向けて歩き出した。背後から自分を追いかけて来る足音が追い付くのを待った。
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