第18話 ある日の遊

 思わぬ再会に遊子の顔は明るくなった。対する遊子に出会った人物は最悪と言わんばかりの顔で遊子を見ていた。場所は職員室、基目島がいないことを見計らって職員室で作業をしている物見に遊子が質問をしに来た後だった。同じように物見に質問しに来た掴とばったり出会ってしまった。

「お久しぶりです!」

 出会えた喜びで場所が職員室でいることを忘れて遊子は掴に声をかけた。一方、掴はそっぽを向いて他人であり続けようと努めた。

「よし、お前達多目的室に行くぞ」

 そんな二人の様子を察した物見は席を立った。決して基目島が戻ってくる気配がしたのが理由ではなかった。



 多目的室に入った掴は遊子を思いっきり睨んだ。

「俺が今、こんな普通の恰好をしとる意味がわからんと?」

「すみません、嬉しくてつい」

 遊子は申し訳なさそうに頬を掻いた。

「まぁ、お前達が知り合いだろうと俺は予想していたけどな」

「先生と先輩、お知り合いなんですね」

「俺がこの学校に通っとる原因、この人がおるから」

「失礼だな。そっちから声をかけてきたくせに」

「基目島反対派閥ってすぐにわかりましたからね」

「何で皆、俺がそうだと気づくんだ」

 物見は不思議そうに腕を組んで考え始めた。確かに基目島のことは苦手だが、それでもうまく付き合っているつもりだし、それを表に出したこともなかった。それでも緩野や掴にバレているのだから、不思議でしょうがなかった。

「あのですね、先生、顔に出とるんですよ」

 まさしく青天の霹靂。物見は信じられないと顔に書いて掴を見た。それほど自身のポーカーフェイスに自信があったのかもしれない。

「あの、先輩!あたしら生徒会からチャンス貰って今度の新入生テストで下位から抜け出せたら文化祭に出られるんですよ!」

「へぇ?生徒会が?」

「一木が頑張ったみたいだぞ」

 ダメージを未だに受けながらも物見は付け足した。

「一木透子、あぁ、何でも見透かしとるような二年生か」

「あの片心の首を縦に動かしたんだ。流石としか言えん」

 うんうんと頷きながら話す二人に遊子は味方をしてくれた透子の強力さに冷や汗をかいた。もし、彼女が生徒会長側の人間だったら文化祭どころかこの学校での青春はありとあらゆる点から妨害されていたかもしれない。

「で、下位層から抜け出そうと勉強しとるってことは、やっぱり君ら勉強ダメやったんか」

「まぁ、あたしと楽がダメなんですけどね。でも、今めっちゃ勉強会していて順調ですよ。ね、物見先生」

「確かに努力は認める」

「ふーん。ま、頑張って。意外と俺、楽しみにしとるんやから」

 掴は遊子の肩に手を置いた。遊子は任せろと言わんばかりの顔で頷いた。

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