第16話 ある日の宴楽
文化祭に出るため、新入生テストまで遊嬉宴楽禁止同盟を結んだ四人は昼休み、放課後会以外でも図書館やフードコートで少ない時間を利用して集まって勉強をしていた。一人だと捗らない遊子と楽の勉強も、四人集まれば会話はなくともチーム感が生まれ、モチベーションが高まり、勉強は順調に進んで行った。
「俺、ちょっと飲み物買ってくる」
賑やかなフードコートにて、行き詰った問題から一旦距離を置こうと楽はそれぞれ苦手な科目をやっている三人にそう声をかけて席を離れた。平日だというのに様々な年代層がフードコートに訪れていた。ちょっと贅沢をしようと楽はジュース専門店でトロピカルジュースアイストッピングを注文した。数分待ち、バニラアイスがのったトロピカルジュースを持って楽は自分の席を目指した。
「でさぁ、そいつが何故かあたしの彼氏ぶってんの」
「えーマジ?そいつおっさんじゃなかったん?」
「おっさんだよ!あたしと同じ干支だよ?」
「うけるー」
この賑やかなフードコートの中、通り過ぎようとする楽にまで聞こえるほど大きな声で盛り上がっている彼女達の会話に楽は何も聞いていませんと顔に書いて平然と彼女達の横を通り過ぎた。
「初音もそう思わん?きしょすぎ」
「確かにね」
しかし、最近耳にした名前に楽は思わず反応してしまった。まさかとは思いつつ、知った名前が耳に入ったことで思わず楽は振り返った。
「生徒会長みてぇ」
振り返った時に目に映った少女は派手なメイクと露出度の高い服装を着ていたが、どことなく生徒会長である片心初音に似ていた。そのため、楽は思わずそう呟いてしまった。ただ生徒会長に似ているなというただの感想の一部だった。
「えっ」
どうやら子供の声や注意する大人の声、彼女達のように話に花を咲かせている学生がいる中で、呟いた楽の言葉はしっかり「初音」と呼ばれた少女に届いていたようだった。楽の顔を見るなり、ラメ入りアイシャドウで彩られた瞳が大きく見開かれ、固まってしまっている。その反応を見て、楽はこの少女が四角四面高校の生徒会長、片心初音であることを確信した。
「初音?どしたん?」
「べ、べつに」
友達に声をかけられて正気に戻った初音は焦りながらも何事もなかったように楽から目を逸らして彼女達の会話の中に入っていった。
「ふーん?」
楽はその様子を見つめ、少し何かを考えてから席に戻った。
宴にとって勉強会は苦痛ではなかった。確かに今までのように勉強に関するゲームではなく、ただのテスト勉強のため遊びの要素は少ないが、それでも友達と一緒に勉強をするというのは宴の中では学生生活を彩る青春の一つであった。今日も昼休みの勉強会を終え、宴は緊張感が張りつめている教室に戻っていた。
「あっ」
静かで殆ど生徒のいない廊下で宴は透子に出会った。トイレや質問で教室から出ていた生徒達は一木透子を憧れの眼差しで見ていた。ポニーテールを揺らしながら、生徒の視線を集める透子は宴に気づくと微笑んだ。
「おやや?君はトラブルメーカーズの品川宴ちゃんよね?」
「こ、こんにちは」
「はい、こんにちは。革命は順調かな?」
生徒会が学校の変わり者と言われている生徒と話している光景に周囲はざわつくことはしないものの、なぜだという視線を主に宴に注いでいた。
「勉強は順調です、さ、さっきも勉強会してました」
「そっか、頑張ってね。期待しているよ」
透子はそう言って宴の肩を叩くとそのまま歩いて行った。宴は振り返って揺れ動くポニーテールが遠くなっていくのを只々見つめていた。掴に基目島の犬とまで言われた生徒会に属していながら自分達と普通に話してくれ、チャンスをくれた透子に宴は周りの生徒が憧れる理由がわかる気がした。
「かっこいいなぁ」
この時、宴は人生で初めてこうなりたいと思う人に出会えた気がした。
「私も、あんなふうに、堂々としたい」
口数が少なく、いつも控えめであることは自覚している。だからこそ、変わろうと髪型を変えた。変わろうと思いきった題名の本を借りた。その結果、自分を変えることはできなかったが、環境を変えることはできた。最高の仲間に出会えた今、今度こそ自分が変わればもっと大好きな仲間にプラスを与えられるだろう。宴は強く頷いた。
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