第13話 VS生徒会

 音楽の有力な候補を見つけた遊子達は文化祭でオリジナルソングを作り、それを英訳するという方向に完全に舵を切っていた。会って間もなく、どんなセンスでどれほどの技術があるのかわからない掴に任せてもいいのかという不安はなかった。あの奇抜な見た目と、それを隠すための変装が遊子達と彼が合うということを教えてくれたように感じた。少なくとも生徒会のことを「基目島の犬」と言ってしまっているあたり、基目島に対する気持ちは遊子達に近いなのだから敵対することはなさそうだった。こうして、最強の仲間候補を見つけたチーム遊嬉宴楽が完全に舞い上がっていた。最初は文化祭で何をするのかさえ、まともに決めることができなかったのに順調にここまで決まったのだ。あとは生徒会の事前審査をクリアすれば文化祭までの道は近く、最高の思い出作りは約束されたものだ。

「このまま順調なら生徒会審査も受かっちゃうかもね!」

 遊子は果てしない海に夢を求めて旅立つ旅人のような瞳で意気揚々と仲間を引きつれて生徒会室に入った。その純粋で真っ直ぐな自信に当てられた三人もこのまま何事もなく文化祭へ参加できると思っていた。

「却下」

 生徒会長、片心かたこころ初音ういねはきっぱりと遊子の説明途中に言い捨てた。

「基目島先生から聞いているわ。このトラブルメーカー軍団」

「右から一年A組の栄山遊子、B組の尾池嬉色、C組の品川宴、D組の堂田楽、生徒会長、奴らは基目島先生が気をつけろと仰っていた要注意人物です!悪影響を与えると!」

 眼鏡の位置を直しながら副会長の忠野ただのまことはチーム遊嬉宴楽を威嚇した。

「こら、初対面に失礼だよ、トラブルメーカー軍団だとしても」

 ポニーテールを揺らしながら誠の頭を叩いた一木いちき透子とうこは愛想の良い笑みを浮かべて遊子達を見た。

「案はなかなか面白いと思うよ。この二人は厳しすぎるけど、我が高校の文化祭の影のテーマ、っていうか基目島先生が合格基準として設定している『学び』という点では独創性が高く、合格基準に達していると思う」

 生徒会室に入ってから初めて貰えた好意的な意見に遊子は顔を明るくした。

「でも、我々生徒会としては、その合格基準だけでホイホイ皆を合格にするわけにはいかないの。限りがあるからね。そこでもう一つの評価の視点はこの高校の生徒らしさがあるかどうか、だよ」

 真剣な顔で聞く後輩に透子は微笑みながら続けた。

「つまり、成績が伴っているかどうかってこと。この高校の本業は勉学ってなっているでしょ?成績下位の生徒は文化祭に参加する意欲と暇があるなら全てを学問にまわせってことよ。悪く言うと」

 この説明を聞いた途端、嬉色と宴は隣の人物の顔色が青くなっていく音が聞こえたような気がした。

「聞くところによると、尾池嬉色と品川宴は問題なさそうだけど、その両サイドが問題あるって感じだね」

「う、うそでしょ」

 この世の終わりを見ているかのような表情で遊子は呟いた。

「でもまぁ、チャンスをやらないというのも酷い話だと思うんだ。成績さえ伴えば君達がたとえこの高校を統べる基目島先生にコーンスープコーラをぶっかけたトラブルメーカーズだとしても、文化祭に参加する権利は平等にある」

「おい、透子!何を言い出すのだ!」

 誠は立ち上がって透子に怒鳴りつけた。これから彼女が何を言おうとしていたのかを察したのかもしれない。

「お前は生徒会長ではない!そんなこと、生徒会長でないお前が決めていいことではないだろう!」

「生徒会っていうのは生徒の代表であり、リーダーである。それが我が校の生徒会だよ。生徒の代表であり、リーダーである我々が私情で生徒を差別するのは問題だよ。常に公平であり、平等であるから代表でリーダーの立場を担える。ここでトラブルメーカーという理由だけで彼らを落とすのは明らかに不公平」

 透子は立ち上がり、誠の肩を掴んで無理矢理座らせると、生徒会長の初音の方を向いた。

「片心初音生徒会長、提案があります。彼らが五月末に行われる新入生学力テストで下位の順位をとらなければ文化祭出場を認めましょう」

「本気で言っているの?」

「えぇ、本気です。これが生徒会です」

 鋭い初音の視線に透子は余裕そうな笑みを返した。

「あの、僕も賛成です」

 今まで黙っていたもう一人の生徒会一年生、雲上くもうえ希望きぼうが控えめに手を挙げた。太い眉と短い前髪から幼さの残る顔には不安げにも見え、透子の案に期待している様子もあり、控えめでありながらも堂々としていた。

「簡単ですよ。下位になれば落とせばいいんですから。こっちの方が他の生徒や教師陣への説得力もあります。それとも生徒会長は彼らが簡単に下位層を抜け出せると考えているのですか?だからこそ、脅威は最初に潰しておこうという算段であるなら大変失礼いたしました。私の配慮が足りませんでした」

「透子」

 わざとらしく肩をすくめる透子に初音は一睨みするとため息をついた。

「その挑発に乗るほど私は馬鹿じゃないわ。でも、そうね、その案に乗ってあげてもいいわ」

 初音は見下すように遊子と楽を見た。

「貴方達の学力は充分聞いているわ。下位層はそう簡単に抜け出せない。どんな手を使おうと無理でしょうね。でもまぁ、抜け出せたら文化祭出場を認めてあげてもいいわ」

「言いましたね。どんな手を使ってもいいんですよね?」

 友達が見下されたことに腹が立った嬉色は強気に尋ねた。初音は余裕そうに頷いた。

「必ず下位層とやらから脱出してやってみせますよ」

 嬉色は遊子と楽の腕を掴んで生徒会室を後にした。嬉色の後をついていく宴も控えめだが初音を睨んでから生徒会室から出て行った。

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