第12話 四角四面高校一の影の自由人
その日の登校中、遊子は一日中オリジナルソングの件について考えていた。案としては最高な案だと自負している。しかし、嬉色や楽の意見も納得できるし、この案の最大の問題点であることも理解している。しかし、この問題点さえ克服できればこの案の未来は明るいのではないだろうか。そう考え、遊子は何とか打開策はないものかと必死で頭を動かしていた。そのせいで、今日の放課後会にやる予定の英語を使ったいつどこで誰が何をしたゲームのための準備が未完だった。どうしたものかと悩みながらも遊子は上履きを靴箱から取り出した。すると、上履きと一緒に三つ折りの紙が落ちて来た。
「ん?」
まさか自分にラブレターかと冗談を思い浮かべつつ、遊子は拾って中身を見た。
「昼休み、裏門付近のベンチに来るべし」
ラブレターと言うより指令状のような内容に遊子は首を傾げた。しかし、同時にワクワクした感情も生まれた。きっとプラスの方向に傾くに違いない。冒険者のような気分になった遊子は早速それを伝えるために既に登校しているであろう三人の元へ急いだ。
昼休み、遊子達四人は指令通り裏門にあるベンチに訪れていた。しかし、何もなければ誰もいない。諦めて帰ろうか、いたずらだったのではないかという話になった時、遊子は首を動かして辺りを見回した。
「何か聞こえない?」
三人は遊子に言われ、耳を澄ました。ピアノの音が聞こえた。先程まで聞こえなかったのだから、始めたのはこの数分前くらいかもしれない。四人はピアノの音のなる方へゆっくりと黙って近づいた。そこはベンチではなく、草むらという表現が正しい場所だった。あまり手入れはされておらず、のびのびと成長している草をわけて行くと、レジャーシートを敷いて折り畳み式キーボードとノートを広げている男子生徒がいた。大きな鞄に寄りかかり、ヘッドフォンをつけ、左右長さの違う長髪という奇抜な姿をしており、これでもかと言うほど制服を着崩している。
「誰?」
突然現れた四人組に男子生徒は目を丸くしていた。遊子は彼の手元のキーボードをずっと見つめていた。
「あの、それ、何しているんですか?」
「いや、君らこそ」
突然現れ、名乗りもしない遊子達に男子生徒の目は警戒した色になった。
「まさか、基目島の犬やないやろうな?」
「そんなわけないじゃないですか。むしろ敵だと思いますね」
真っ先に否定したのは嬉色だった。それを聞いても男子生徒はこちらを鋭い目で見つめており、警戒心を解こうとはしなかった。
「俺、一年生の堂田楽っていいます。で、こっちから栄山遊子、尾池嬉色、品川宴です。いきなり来てすみません。俺ら、ここに呼び出されていて、たまたまここに来たんです」
楽が場の雰囲気を和まそうと柔らかい表情で男子生徒を見た。丁寧な対応に男子生徒は警戒しつつも会話を続けてくれた。
「呼び出された?」
「そうです。でもいなくて。で、帰ろうとしたら、ピアノの音が聞こえてきました」
「なっ、ヘッドフォン・・・」
男子生徒は恨めしそうに自身のヘッドフォンをとって見つめた。どうやら接続し忘れていたようだ。
「で、えっと先輩ですよね?」
楽が尋ねると、男子生徒は頷いた。自分が見つかった理由に納得したのか、警戒心は薄れているようだ。楽はこの勢いで気になっていることを聞いてみることにした。
「ここで音楽をやっているんですか?」
「そうっちゃけど」
「やっぱり凄い!」
男子生徒の答えに遊子はキラキラした目で男子生徒を見た。おもちゃ屋さんで運命の出会いを果たした子供のような純粋で輝いた目だった。
「先輩!お願いがあります!私達と組みませんか!」
「はぁ?」
当然ながら男子生徒は異世界人を見るかのような目で遊子を見た。そして、しばらく黙って遊子を見つめた男子生徒は何かを思い出したように口を思い出した。
「あ、君ら一年のトラブルメーカー軍団やな」
「いえ、俺達は善良なトラブルメーカー軍団です」
「コーンスープコーラ事件、三年まで噂になっとったわ」
先程の警戒心が嘘のように男子生徒はニヤニヤと笑い出した。
「さ、三年生なんですね」
完全に警戒心がなくなったことを察したことで安心した宴が控えめに言うと、男子生徒は腕を組んだ。
「で、俺と組むって何を企んでると?」
「文化祭でオリジナルソングを作って、その英訳を発表しようとしているんです!」
「でも、俺ら曲を作ったことがないんで、諦めていたんです」
遊子の言いたいことをいち早く察した嬉色は遊子の説明に付け足した。
「先輩、曲作ってくれませんか?」
遊子に見つめられ、男子生徒は考え込むように黙った。思わぬ出会いに反対意見を出していた嬉色と楽も期待した目で男子生徒を見ている。元々この案をやりたかった宴は祈るように男子生徒を見つめていた。そんな視線を浴びながら男子生徒は口を開いた。
「まぁ、よかよ」
その答えに四人の顔は晴れた空のように明るくなった。
「でも、条件がある」
男子生徒は人差し指を立ててにやりと笑った。
「生徒会の審査を突破できたら、君らのそれに付き合っちゃる。これが条件。ま、たぶん無理っちゃけど」
そう笑って男子生徒はキーボードなどを片付け始めた。
「あーあ、君らのせいで時間切れ」
男子生徒は鞄にキーボードやノートを詰め、代わりにカツラを取り出した。そして、着崩した制服を直し、髪をゴムでまとめて慣れた手つきでカツラを被った。その早業に四人は口を挟むことができなかった。あっという間にどこにでもいる四角四面高校の男子生徒となった彼は四人の反応にまたしてもにやりと笑った。
「奇抜な頭は目立つけん工夫せんと」
男子生徒は自身の頭を指さした。まばたきを繰り返す四人を見て、男子生徒は鞄を持って続けた。
「俺は三年の
そう言って掴は四人の間を通って校舎に戻っていった。これがチーム遊嬉宴楽と四角四面高校一の影の自由人と言っても過言ではない上級生との記念すべき対面であった。
《作者コメント》
お久しぶりです、今回少し長めですね。実は今回この作品は私のチャレンジ精神によってめちゃくちゃ自分の首を絞めているんです。まず、方言ですね。掴くんは方言男子なので調べたり、その方言で話す有名人の会話を聞いたりと自分なりに勉強はしているのですが、間違っているところばかりだと思うので、間違っていたらコメント欄でご指導お願いします。あと、ちょいちょい出てきていますがオリジナルソングって何を考えているんでしょうね・・・。とにかくまだまだ序盤です。これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。では、また!
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