第10話 お客様は協力者
その日の四人は歴史上の人物ドラフト会議をしていた。ルールは事前にサイコロで決めた時代に活躍した歴史上の人物が行ったことや年代を正しく言い合いながら、四人がそれぞれ決めたお題にあう歴史上の人物を取り合うという遊びだ。ちなみに本日の昼休みに行われた文化祭で何をやるかという会議は平行線のまま終わっており、まだ何も決まっていない。
「お題が難しすぎるよ!もっと運動会で自分の組に入ってほしい人とかにしてくれればいいのに!」
遊子は頭を抱えながら叫んだ。四人目のお題を出す嬉色が提示したお題は『学園バトルファンタジー作品を実写ドラマ化する時のキャスティング』だった。頭脳派、筋肉系、ヒロイン系とキャラクター選択は無限大であるが、歴史上の人物とイメージを重ねるには想像力を最大限に活用しなければならない。
「俺、日本史だけしか詰め込んできていないからやべぇわ」
「よし、被せにいく」
「てめぇ嬉色!俺のテリトリーに来るな!」
「よく、こ、このお題を思いついたよね」
盛り上がる男子陣の横で宴は真剣にキャスティングを考えていた。四人がノートとペンを手に頭の中にいる歴史上の人物から必死でキャスティングをしている最中、教室の扉がノックされた。放課後会には珍しい客人に四人は顔を見合わせた。
「は、はい、どうぞ」
多少な警戒心を抱きつつ、遊子が返事をすると音楽教師の緩野が扉から顔を出した。
「あの、ごめんなさい。お邪魔したかしら?」
「緩野先生だ。どうかしましたか?」
「その、貴方達が文化祭に参加したいと言っている話を聞いて、先生が協力できそうなことがあったらいいなと思って」
緩野が控えめに答えると警戒心のある目で見つめていた四人の目が一気に輝いた。
「え!協力してくれるんですか!ちょっと、もう先生そんなとこに立ってないでこっちで話しましょう!」
遊子が椅子を運びながら緩野に向かって叫んだ。
「え、えぇ、ありがとう」
遊子に言われた通りに椅子に座った緩野は四人の顔を順番に見つめながらコホンと咳をした。
「文化祭で何をやるかは決めているの?」
「それが全くもって思いつかないんですよ。放課後に何するかは凄く思いつくのに」
遊子は残念そうに答えた。四人が手に持っている歴史上の人物の名前が書かれた紙を見て、緩野は首を傾げた。
「今は何をしていたの?」
「歴史上の人物ドラフト会議です。ちょうど難しいお題が出て行き詰っていました」
「お前のせいでな」
淡々と答える嬉色に楽は苦笑した。
「あの、今までどんな発表があったんですか?」
宴は思い切ったという様子で緩野に尋ねた。緩野は赴任してきてからの文化祭の光景を思い出しながら口を開いた。
「研究発表は勿論のこと、他には、そうねぇ。翻訳とかあったわ」
「翻訳?英語を訳したんですか?」
「そうよ。外国の歌を自分達なりに日本語に訳していた生徒がいたわね」
緩野は当時の文化祭を頭に浮かべた。当時、その発表は他の発表とは異なっており、かなり注目されていた。流行りの洋楽を訳すということもあり、基目島に何か言われるのではないかと心配されていたが、そんなことはなかった。
「え、どうしてですか」
基目島が何も言わなかったと聞いて、嬉色は目を見開いて尋ねた。
「その発表をした二人組の成績が学年の一位、二位だったからよ。だから、止めるどころか積極的に協力していたし、生徒達も注目していたわ」
「楽、あたしらは無理だね」
「俺ら下から数えた方がわかりやすいもんな」
緩野の話を聞いて遊子と楽は顔を見合わせた。嬉色と宴は学年でも中間の成績を保っているが、勉強嫌いな遊子と楽の成績は下位だった。
「生徒会の審査も通ったのは成績上位だったからですか?」
「どうだったのかしら。正直、生徒会の運営は基目島先生の管轄だから、先生にはわからないの」
「くっ、コーンスープコーラ事件がなければ俺らにも勝ち目があったかもしれないのに」
心の底から悔しそうに嘆く嬉色の肩を宴は何も言葉を発することなく肩に手を置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます