第8話 進まぬ会議と追根究底

 翌日の昼休み、四人は遊嬉宴楽会議を始めていた。

「昨日は盛り上がりすぎてしまい、すっかり文化祭の話をするのを忘れていたことをここに報告します」

 遊子が神妙な面持ちで口を開いた。遊子はロコモコ弁当、嬉色はコンビニで売られていたメロンパンのような見た目をした、メロンの餡が詰まっているメロンマン、宴はサラダとドーナッツ、楽は中華丼弁当と個性豊かな昼食が置かれている中、四人が始めたのは何故か反省会だった。

「そして、残念なことに本日の放課後会は四字熟語しりとりです。おそらく話し合いは不可能でしょう。昨日のように盛り上がって文化祭の話を忘れてしまう未来が見えるのが現実です」

 嬉色は真剣な面持ちでメモを見た。

「そう、四字熟語しりとり楽しみなんよ、あたしもう結構調べたから自信あるし。で、でも、文化祭の話ができないのは問題だよ」

 遊子は悔しさとワクワクを堪えるように拳を作った。

「ちなみにさ、文化祭の申し込みっていつからなんだ?」

 楽が尋ねると、嬉色は学生手帳を開いた。

「文化祭は十月だ。準備は全体の九月後半から。発表者は夏休み中に準備をすることになるから六月から七月半ばまでだね」

「じゃ、ま、まだ余裕があるんだね。そんなに急がなくてもいいんじゃない?」

「甘いね、宴」

 キランと目を光らせた嬉色に宴は首を傾げた。

「これも学生手帳に書いてあったんだ。実は、五月に事前審査がある。生徒会にこんなんやりたいんすけどぉって大まかな内容を言うのさ。申込期間が始まっても、その時に生徒会から却下されたら、もう俺らの発表は通らない。事前審査は何度もチャレンジ可能だけど果たして合格できるのかっていう不安がある」

「げぇ、大丈夫かよ」

 楽は嫌そうな顔をした。

「生徒会といえば基目島先生のテリトリーの一部じゃないか」

「そうなんだよね。そこが問題。それさえなければ文化祭出られそうなんだけど、如何せんあたしら指名手配されているところあるから」

 四角四面高校の生徒会は各学年の成績トップの生徒のみ入れることができる四角四面高校の生徒憧れの場所だ。基目島と共に成績向上の活動を行い、この高校の大学進学率の高さを維持し続けている優秀な集まりであり、基目島からの信頼と評価は厚い。

「あのコーンスープコーラがここまで引っ張られているとは迂闊だったね」

「マジお前ら何をやらかしたんだよ」

 コーンスープコーラ事件を知らない楽と宴は元凶である二人を見たが、二人は決して目を合わせようとしなかった。

「普段やりたいリストに書いてあるような勉強をしつつ遊ぶゲームは絶対に発表としては駄目そうな気がするんだよな」

 話題を変えようと嬉色はメロンマンに手を伸ばしながら口を開いた。

「確かに、俺らは勉強になるけど、聞き手からしたら知っていること発表されているようなもんだもんな」

 弁当の蓋を開けながら楽は頷いた。

「な、何かいい案ないかなぁ」

 宴はサラダにドレッシングをかけて混ぜながら呟いた。

「何か勉強かつ、楽しいことしたいなぁ」

 ハンバーグを頬張りながら遊子は空を見つめた。結局この昼休みでも何をするのか、決めることができなかった。



 放課後、辞書を使って四字熟語を調べてきた四人はしりとりをしていた。ルールは簡単で、意味がきちんと言えて黒板に正しい漢字を書くことができればセーフというゲームだ。遊嬉宴楽から始まったしりとりは早くも五巡目になっていた。

「百戦錬磨!戦いとかにおいてめっちゃ経験があって鍛えられていることとか、経験がめっちゃあること!」

 遊子が黒板に豪快に『百戦錬磨』と書いた。

「満場一致。その場にいる人みんなの意見が同じになってまとまること」

 悩む様子もなく、嬉色は黒板に『満場一致』と書いた。

「ち、ち、あ!知行合一!えっと、知識と行為は一緒で、真の知識は絶対に実際の行為に伴うものである!」

 宴も小さいながらも堂々と『知行合一』と書いた。

「つぅ!?何かあったか!?」

 楽は腕を組んで考え始めた。

「お、楽がアウトか?」

「待って、楽、頑張って!あたしもわかんない!」

 嬉色の言葉に遊子は焦ったように楽を応援し始めた。楽が思いつかなければ次は遊子に回ってくるのだ。そうしたら、遊子もアウトになる。

「ちなみに俺もわかんない」

「わ、私も。私が知合合一って言ったんだけど思いつかない」

「え、みんなわかんないの!?じゃ、全員アウトじゃん!」

 早すぎる終わりを迎えてしまった四字熟語しりとりに四人は肩を落とした。

「二回戦いく?」

「その前に『つ』から始まる四字熟語が何なのか気になる!調べよう!」

 遊子は辞書を開いた。三人も遊子を囲んで辞書を覗き込んだ。

「追根究底、物事を根本まで徹底的に調べること。うわー!あたしら追根究底が足りなかったのか!」

「まさしく!だな」

「悔しい。三人が思いついていない状況で俺がこれ言ったらかっこよかったのに」

「き、嬉色は相変わらず面白いね」

 本気で悔しがる嬉色に宴は苦笑した。

「よし、二回戦だ!」

 辞書を勢いよく閉じて、遊子は叫んだ。そんな楽しそうな声が響く教室をこっそり見つめている生徒がいた。


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