第4話 堂田楽

「え、修羅場?」

 センター分けで肩よりも長い髪をもった男子生徒が弁当片手に立っていた。長身で大人っぽい見た目だが、制服は新しい。おそらく同じ一年生だろう。男子生徒は人がいると思っていなかったのか、目を丸くしている。

「ようこそ」

 嬉色は突然立ち上がると、真顔のまま、その男子生徒を出迎えた。

「え?男一人に女二人で詰め寄るって、お前、何かしたんじゃないのか?大丈夫か?」

 男子生徒はそんなことを言いながら、嬉色に腕を引っ張られていて教室の中に入った。

「そんなんじゃないよ。さぁ、君も仲間に入らないかい?」

 爽やかな嬉色の声色に男子生徒は遊子達を見てから嬉色を見て、首を傾げた。

「え、修羅場の?」

「そんな誘いあるわけないだろ」

 嬉色に逃がさないと言わんばかりに腕を掴まれ、真顔で見つめられた男子生徒は再度遊子達の方を見た。彼が求めているのは状況説明と嬉色からの解放である。

「なるほど、確かに!いらっしゃい!」

 しかし、男子生徒の要求ではない何かを理解したのか、遊子にもう片方の腕も掴まれ、男子生徒は首を傾げたまま、嬉色の隣に座らされた。

「まず、自己紹介をしよう!あたしはA組の栄山遊子!」

「俺はB組の尾池嬉色」

「えーと?俺はD組の堂田どうだがく

「・・・・・C組、品川宴」

「みんなクラスが違うなら出会えなくて当然よね」

「いや、その前に説明してくれよ。俺は何に勧誘されたんだ?」

 うんうんと頷く遊子に意味が分からないといった顔をしながらも、居座る気はあるようで楽は弁当を広げ始めた。

「あたしと嬉色はこの高校を楽しく過ごすためにメンバーを探していたの。寂しくない?友達のいない高校生活なんて」

「放課後勉強会とかだって、俺らは遊びたいの」

「へぇー、面白そうじゃん。俺もこの高校生活がつまんねぇかもって思っていたところなんだよね」

 二人の話を聞いておにぎりを頬張りながら楽は目を輝かせた。

「それ、私も入っていいの?」

 弁当を食べながら、おずおずと宴が尋ねた。

「勿論よ!てか、そのためにここに誘ったんだから!」

 遊子が笑顔で答えると、宴は嬉しそうに微笑んだ。

「でも、俺が言うのもなんだけど、よく四人も集まったよね。みんな、受験してこの高校、来たんでしょ?勉強するところだってわかってきたのに、反逆者みたいのが四人もいるってやばくない?」

 嬉色がパンに齧り付いた。この高校の厳しさは有名で、選択肢からはずす受験生は多い。第一希望にする生徒はめずらしいとまで言われている有様だ。遊ぶことが大好きな遊子がこの高校にいること自体が嬉色の疑問だった。

「いやだって、あたしはマーク式っていうことと、この高校の名前の響きだけでここに来たから」

「俺も~。マーク式だから受けた」

 楽が手のひらを遊子に向けた。その意図を察した遊子は目を輝かせてその手を叩いた。

「こんな理由で受かったのにびっくりだけどな!」

「だって、この高校、毎年人数ギリギリだもん。むしろ足りないくらい」

 笑う楽に嬉色が答えた。

「やっぱり厳しすぎるからな。点数さえギリギリでも追い付けてれば落ちることはないぞ」

「だから、入れたのね。ていうか、そういう嬉色はどうなのさ」

「周りより少し勉強ができたのに有頂天になった親に強引に勧められたから」

「わ、私も」

 淡々と答える嬉色に宴も頷いた。

「で、これからどうする?俺達四人で何をする?」

 さっさと話を終わらすかのように嬉色は話題を逸らした。

「やっぱりさ、知らなかったとはいえ、この学校に来たんだから、この学校の決まりには従わないといけないし、他の生徒に迷惑をかけないやつがいいよね」

 以前と同じように何故か会話を広げないようにしている嬉色に遊子は疑問を抱きつつも会話を続けた。

「郷に入っては郷に従えってやつか?」

「そうそう、楽のそれよ」

 卵焼きを食べながら、遊子はうんうんと頷いた。

「勉強で遊ぶってこと?」

 宴が尋ねた。遊子はその提案に顔を明るくさせた。

「それいいね!学びながら遊ぶ的な!だって、教科書に書いてあることだけが学びじゃないんだし、どうせ勉強するなら楽しい方がよくない?特に、あたしなんか勉強嫌いだから遊びがないとやる気でないよ」

「おぉ、それなら俺も楽しめるかも。あと、個人的には身体を動かしたいな。体育あんまりねぇから」

「じゃあ、グループ作って、案を出していこう。今日、携帯が返されたらすぐに」

「い、いいね、楽しみ」

 宴は頬を赤く染めながらサンドイッチを食べた。

「じゃあ、放課後もここに集まろうよ。好きな食べ物とか質問攻め大会しよ。それぞれ仲良くなるためにさ」

「いいよ。放課後までに考えとく」

「う、うん!」

「オッケー」

 遊子が放課後が待ち遠しい様子で提案すると、同じくらいワクワクした三人は笑顔で頷いた。


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