第3話 品川宴
嬉色と仲間探しを約束した遊子はとりあえず教室の外で仲間を探すことにした。同じクラスに仲間になりそうな生徒がいないことは初日でわかっていた。話しかける隙間さえ与えない休み時間になった途端の参考書の開く早さは神業と言っても過言ではなかった。そこで、嬉色のように他クラスにいると思い、遊子は廊下にいる。
「しかし、こんなにも静かな廊下があるかね?」
トイレに向かう生徒以外、人が一人もいないのだ。遊子は廊下が賑やかだった中学校時代を思い出し、窓に寄りかかって通り過ぎる数人を観察した。
「あー!どうしよう!いない気しかしなくなってきた!」
一向に見つかりそうもない状態に遊子は頭を抱えて座り込んだ。
「わっ」
突然しゃがんだ遊子に偶然前を通り過ぎた少女が驚いて抱えていた本を落とした。
「あっ、ごめん!」
遊子はすぐに落ちた本を拾った。ふと、見えてしまった本のタイトルに遊子は固まった。
「《友達の作り方》、《遊びとは》、《楽しい学校生活への道》」
思わず声に出すと、少女は慌てて遊子の手から本を奪った。
「あ、ごめんなさい」
顔を真っ赤にして、少女は俯いた。遊子は勢いよく彼女の肩に手を置いた。片目を前髪で隠した彼女と遊子は目を合わせて思いっきり微笑んだ。
「ねぇ!明日のお昼、暇!?」
それが、遊子と
翌日の昼、遊子は顔を真っ赤にさせた宴を連れて、昨日の空き教室に向かった。空き教室は昨日の放課後会で遊子と嬉色が掃除をしたため、少しは綺麗になっていた。
「どうぞ、どうぞ。埃っぽい場所ですが。でも、一応昨日、掃除はしたんだよ?二人だけだけど」
そう言いながらドアを開けると、既に嬉色が待っていた。椅子に座ってプリントの裏に何かを書いているようだった。
「え、ほんとに仲間見つけていたんだ」
遊子の隣に立つ少女を見て、嬉色は何度か瞬きをした。
「どういうこと、その反応」
嬉色のリアクションに遊子は不満そうに尋ねた。
「てっきり遊子の虚言かと」
「嘘だと思って昨日一方掃除していたの!?」
「ネタバレしないからおかしいと思っていたんだ」
平然と答える嬉色に溜息をついた遊子は教室内を見渡した。
「嘘じゃないからね。それより、嬉色一人?」
「まぁ」
「あららぁ?あたしは見つけちゃったのに、嬉色くんには無理だったのかなぁ?昨日の掃除中に俺も見つけるみたいなこと言っていたのにおかしいなぁ」
「うるさいな」
宴の肩に手を置きながらニヤニヤと遊子が笑いながら嬉色に近づいた。嬉色は心なしかムッとした様子で遊子を見た。遊子に連れられた宴は困惑したように背後にいる遊子と嬉色を交互に見つめている。そんな状況の中、閉めたはずのドアが思いっきり開かれた。
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