第弐ノ章・楼閣ノ研究者
鶚登場
(鶚は見周り警備中)
暁、千歳登場
暁「楼主!」
鶚「暁さん」
千「すみません、ここを通してください!」
鶚「はぁ?あんた、どちら様」
暁「ごめんなさい楼主、この子は千歳。神隠しでこの町に迷い込んで子なの」
鶚「あぁ…今夜は月の動きに異常が出てますものね」
千「王様を目覚めさせたいんです!だからここを通してください!王様はこの先にいるんですよね!?」
鶚「王様を目覚めさせるってあんたね…方法知っててそれ言ってんの?」
千「え、そんなのあるんですか?」
千歳、キョロキョロして暁の元に行く
千「暁さんって王様を目覚めさせる方法分かりますか?」
暁「ごめんなさい、ただじゃお目覚めにはならないことはわかるんだけど、方法までは…」
この辺りで詠と夕が大きな箱を運びながら登場
鶚の後ろに待機
千「そうですか…」
鶚「王様の目覚めには『結晶』が必要なのよ」
千「結晶?」
鶚「この町には代々、閻魔様がお好きな三つの分野の研究者たちがいるのよ」
千「三つの分野とは…」
鶚「植物、音楽、天文学よ。これらの研究者たちが一つずつ、その知識の塊である結晶を持っているの」
千「知識の塊でどうやって目覚めるんですか?」
紅「鶚」
鶚、驚いて辺りを見回す
紅、箱から登場
紅「ちょいと話し過ぎじゃないかい?別世界の人間に町の理をぺらぺらと…」
鶚「べ、紅さん!?何やってるんですか!貴方そんなことする人じゃないでしょ!?」
紅「わっちだって好きでやってるわけじゃないさ。夕が見てみたいって言うから仕方なくだよ」
詠「やってくれてよかったっすねぃ!」
夕、うなずく
鶚「相変わらず仲がよろしそうで何よりですよ」(呆れ)
暁「貴方たち、出歩いてていいの?」
紅「あぁ。今は閻魔の王様の目もないしねぇ」
鶚「ごめんなさいね客人さん。で、結晶には知識以外にも、力が秘められているらしいのよ。それらが合わさって一つになると強大な力を発し、王様は目覚めるんだと」
暁「なるほど、結晶が必要なのか。でも三つ一度になんて…」
鶚「今からずっと昔にも、同じ事件があったらしいんです。その時は研究者たちの結晶を奉納することによってお目覚めになったと、書物に書いてありました」
千「じゃあその研究者さんたちに会って結晶を貰えば良いってことですね!」
↑このセリフ中、紅は箱に戻って研究者たちははけようとする
研究者たちの方を見て
鶚「ま、そういうことなんじゃない。そうでしょ、研究者さん方」
研究者ら、止まる
千「え!?貴方たちが!?」
詠「あー、バレちゃあ仕方ないですねぃ。…そうですぜ、あっしらが研究者ってやつでさぁ」
千「そうだったんですね!!えっと、貴方はなんの…」
詠「では改めて…。始めまして、お嬢さん。あっしは詠!ここで音楽の研究をしてまっせ」
詠、夕の元へ行って
詠「んで、こっちが天文の研究者の夕でさぁ!夕はちょいと話すのが苦手で、初対面だとあんまり話さないんすけど、仲良くしてやってくだせぇ。まぁ、今は月の事があって、先代が残した対処方を調べるのに追われてるんですけどねぃ」
詠、辺りを見回して紅がいないことに気づき、箱を叩いて
詠「…ほら、紅も」
紅、箱から出て
紅「わっちは植物の研究者、紅ってんだ」
千「三人とも、よろしくお願いします」
詠「こちらこそですぜ!」
千「あの私、王様にお願いしたいことがあるんです。だからどうしても起こしたくて/
紅「へぇ、嬢ちゃんは閻魔の王様への客人なのかい。だから狐の姫君と一緒にいるってわけか」
千「姫君?」
暁「その呼び方はやめてって前も言ったよね、紅」
紅「王様の一番のお気に入りなんだ。床入りも時間の問題だろう?」
暁「床入りって…!」
紅「婚礼には黄色い和蘭撫子でも添えて、祝福してやるさ」
暁「ふざけないで」
紅「まぁあの王様だもんねぇ。誰も嫁になんかなりたくはないだろうさ」
沈黙
詠「で、お嬢さんは結晶が欲しいってことで?」
千「は、はい、そうなんです!王様を起こすためなんです!結晶をくれませんか!」
紅「王様を起こす?なんのために」
千「王様に、いなくなった姉様の居場所を教えて欲しいんです!」
紅「随分と自分勝手な願いだねぇ、嬢ちゃんや。王様を目覚めさせるなんて、とんだ阿保のする事だよ」
千「え、どうしてですか!?王様起こさなきゃじゃないんですか!?敬うべきお方が!愛すべきお方が!倒れちゃってるのに!」
暁「千歳ちゃん…!」
鶚「あんた…よほど平和な国から来たんでしょうね…」
紅「千歳の嬢ちゃんや、お前さんは『みーんなが大好きな王様』でも想像してんのかい?」
千「え?」
紅「嬢ちゃんの町や国はそうだったかもしれないけどねぇ、うちは違うんだよ」
鶚「まぁ…好かれてる、とは言えないでしょうね」
千「そ、そうなんですか?」(暁を見る)
暁、顔を逸らす
千「そんな…」
詠「うちは王様の悪政と暴政が酷いんでさぁ。まさに悪逆非道って感じなんでぃ」
千「悪逆非道、ですか」
詠「そうっす。民衆の人たち、税が重くて食べたい飯も買えねぇって聞きますし。どんどん上がる税と、全然上がらない賃金…。納めなかったら殺されるとか、家を燃やされるとかも言いますぜ。そうやって苦しんでる民衆を差し置いて、自分は宝石だらけの玉座に座って、美味いもん食って、寝て、笑ってるんすよ」
千「そんな…」
詠「それで、前に一揆が起こったんですけどねぃ。もう閻魔さんカンカンで。お城の衛兵総出で鎮圧して、問答無用で処刑っすよ」
千「それは…研究者さんたちにも、そうなんですか?」
紅「研究者は閻魔の王様の命令上、生まれてこの方、城内の楼閣で監禁生活さ。わっちら三人は、外なんて出たことないんだよ」
千「え…出たこと、ないんですか?」
詠「あっしらが知ってんのは、この小さな窓から見える景色だけなんでさぁ。この一角しか、見たことねぇんです」
千「それも、王様の意向で…?」
詠「もちろんでっせ。うちは王様の機嫌一つも町の問題になってくるんで、絶対に刃向かえないんでさぁ」
鶚「王様のご機嫌でいろいろ変わっちゃうものね」
詠「閻魔さんのご機嫌が斜めだと空気が最悪で、あっしの可愛い楽器たちの音が悪くなっちまうんでさぁ。演奏しても不協和音ばっかで嫌になっちまいますぜ…」
紅「わっちの花たちも下を向いちまうからねぇ。研究どころじゃないよ。夕、そっちは天候が狂っちまうって話だったけね?」
夕、うなずく
千「…そんなんじゃ、王様は目覚めない方がいいじゃないですか…。あたし、どうすれば…」
鶚「あんたの王様への用件がなんなのかは知らないけど、今起こせば、命が危なくなるかもね」
暁「じゃあ閻魔様がいらっしゃらなかったら、誰がこの町の舵を取るの?」
紅「新たな王を立てればいい。それこそ、姫君が女王にでもなったらいいじゃないか。優秀な側近さんは、政治の仕方だって分かってるんだろう?」
暁「王を立てるなんて簡単なことじゃない」
紅「そんなことを言って…姫君だって王様のこと、気に入ってないくせに」
沈黙
千「…あたしは、姉様を探してるんです。突然いなくなった姉様を」
詠「それで、この町に?」
千「はい。王様から話が聞ければ、何か進展するんじゃないかって、そう思ってて」
詠「お嬢さんもお嬢さんで大変ってことっすね/
/紅「帰っておくれ」
千「え?」
紅「研究対象には危険物だってある。こちとら命懸けで研究してんだ」
(紅に近づいて)
詠「え、どうしたんですかい、紅?急に怒っちゃって!」
紅「くっついてくんじゃねぇ鬱陶しい」
詠「いつもの穏やかな紅くんはどこ行っちゃったんでぃ〜?笛でも吹きゃ元気出ますかい??」
紅「ふざけんな俺はもうガキじゃねぇんだよ!!」
詠「あっしからしたら可愛い子供でっせ?ほら、昔みたいにまた『お兄ちゃん』って呼んでみてくだせぇよ〜〜」
紅「誰が呼ぶか!!」
詠「もう〜照れちゃって可愛いでちゅね〜〜♡♡」
紅「あーー!!うるせぇぞ詠!…ったく…(咳払い)何ボケっとしてんだい。早く出てお行き。いくら待ってたってダメなもんはダメだよ」
千「で、でも」
紅「ほら、行った行った」
★千「え、ちょっと!」
★暁「べ、紅」
千歳、暁、追い出される(はける)
詠「あれ、どこ行くんでぃ?あっしも行きや/
/紅「てめぇは来んな」
詠「ひどいこと言わないでくだせぇよ!!」
紅、詠はける
二人を見送った鶚、夕のそばに寄って行く
鶚「ねぇ、夕ちゃん」
夕、鶚を見る
鶚「最近何かあった?」
夕「え?」
鶚「元気なさそうだったから、ちょっとね」
夕「なんでもない」
鶚「ほんとに?私には辛そうに見えるんだけど」
夕「……。夕の話、聞いてくれる?」
鶚「もちろん」
夕「夕たち、王様が倒れて、自由になったよね。だから会いに行ったの。夕。あの人に」
鶚「あぁ、例の殿方?私もお見かけしたけど、とても美しくて格好いいだったわね」
夕「最初は、何もできなかった。でも、仲良くなれた。頑張って話しかけたら、少し」
鶚「えぇ!?よかったじゃない!」
夕「驚いてた。夕が研究者って知って」
鶚「そりゃそうでしょうね。研究者なんて一生お目にかかることない存在だもの。でも、なんでそれで落ち込んでたの?」
夕「女の人、いた」
鶚「え?」
夕「隣に、いた。女の人と、小さな子供。すごく楽しそうだった。だから…夕は、いちゃいけないと思った。あの場所に」
鶚「夕ちゃん…」
夕「あの人のそばに、夕の居場所はないって分かったの」
鶚「そう、だったのね…」
間
夕「今日、風の流れ、変。月、おかしいからかな」
鶚「そうなの?夕ちゃんが言うとなんだか不気味ね…」
夕「鶚、もう戻った方がいい。夕はまだ少し、ここにいる」
鶚「…わかったわ。夕ちゃんも早めに戻ってね」
夕「ありがとう」
鶚、はける
舞台には夕だけが残る
夕、挙動不審に動き出す
紅の机や椅子をどけて何かを探している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます