第6話 何者かが召喚された?

 学校を出てから誰かに見張られている気がする。

 おそらく二人。


 いや、俺まで中二病に侵されたわけじゃない。本当にいるのだ。俺でもわかるような明らかな尾行。


「おい。阿久間。お前、人に恨まれるようなことしたか?」

「ふっ。そんなもの数え上げたらキリがないさ。人はどこで人を恨むかわかったものではないからね」


 平常運転だ。

 それより、カッコつけてるけど恨まれるって自覚はあるのか。


「なら走れ。お前なら走れば誰にも追い付かれないだろ?」

「まさか。ここは任せて先に行けと? キミもだいぶわかってきたみたいだね」

「違う。ふざけてる場合じゃないかもしれないぞ」

「では聞くが、ボクが眷属であるキミを置いて逃げるとでも?」

「逃げないだろうな」

「ボクのこともわかってるじゃないか。追っ手に遅れを取るようなボクじゃないさ」


 まあ、俺としてもそう思うが、相手は男。万一ということもある。

 というより、時差ボケとか言っていたし、不調なら万一もあり得るだろう。


「さあ、行こうか!」

「おいっ!」


 阿久間は相変わらずの腕力で、俺のことなどお構いなしに引っ張ってしまう。




 なぜ、わざわざ路地に入るのか。

 こんなことをすれば追っ手は易々と追いつくというのに……。


 人目がつかない場所に来たことで姿を現した男たち。

 やはり、追っ手は二人。ジリジリと距離を詰めてくる。


「お前らバカなのか? こんなところにわざわざ入るなんて」

「ホントだよなー。狙ってくださいって言ってるようなもんじゃん」


 俺もバカだと思う。

 頭はキレるヤツのはずなのに、何をしてるんだかって思う。

 しかし、どこかで聞いたことのあるような声な気が……。


「ふっ。誘い込まれていながらそれに気づくことなくついてくるとは、キミたちこそ人を侮りすぎなんじゃないかな?」

「ああ? 状況がわかってないみたいだな」

「女が何できるってんだよ。こんなの袋の鼠だろ」

「せめて俺が壁になるべきだろ」

「その必要はないさ。キミは主人であるこのボクに守られていればいい」


 ゲーセンの時よろしく俺は守られる側らしい。

 前に出ようにも今からでは邪魔になってしまいそうだ。


「やってまうぞ!」

「たりまえだ! おら!」

「ひっ」


 男たちが腕を振り上げた途端、阿久間は身を小さくして悲鳴をあげた。時差ボケとかそんな様子じゃない。


「ヒャッハハハ! 女はそうやって大人しくしときゃよかったんだよ!」

「もう遅いってな!」


 阿久間の様子に勢いづくチンピラたち。


「おい! 阿久間! しっかりしろ!」

「……」


 完全にチンピラから視線を外してしまっている。

 普段の阿久間なら造作もない相手だろうに、今じゃ攻撃をかわすことすらできない。

 これでは負けに行くようなもの。


「くらえ!」

「このやろ!」

「うぐっ!」


 急いで間に入り、阿久間に覆い被さるようにしたが、背中と脇腹にモロにくらってしまい、意識が飛びかける。


「ふっへへ! いいざまだ!」

「初めからわかってたらよかったのによ!」


 阿久間に当たってはいないようだ。


「無事か?」

「キミ……」

「泣かせるねぇ」

「覆い被さるしかできないのかなぁ!」

「グアっ! うっ……」


 立て続けに俺のことを殴る蹴る。

 だが、耐えられないほどじゃない。


「ど、どくんだ。ボクなら大丈夫」

「大丈夫なわけないだろ」


 さっきは明らかに様子がおかしかった。今だって俺をどかすことすらできていない。

 それなのにこのまま阿久間を解放するわけにはいかない。


「どう? わかったでしょ?」


 今度は明らかに聞き覚えのある声。

 その拍子に男たちは俺への殴打をやめた。


 路地の先には伊集院。


「阿久間呼幸なんかといるから、そうやって不幸になるのよ」

「げっ。助っ人か?」

「まずいな……」

「ちょうどアタシ今フリーだし、関係を切るっていうなら付き合ってあげてもいいけど?」


 明らかな棒読み。

 おそらく準備してきたセリフ。

 どうせ伊集院の計画なのだろう。何がそこまで気に障ったのか……。


 俺の下で小さくなっている阿久間は小動物のように、どうするの? みたいな表情で見てくる。

 まったく、こんな場所で何をしてるんだろうな。人に知られたらタダでは済まないだろうに……。


「なるほどな。確かに阿久間といるのは最悪だった。今だって殴られて蹴られてボコボコにされてな。俺でもここまで悪いことは今までなかった。それに、お前の申し出を受ければ、今も助かるかもしれない。いい提案だ」

「なら……」

「だが、こんなことするお前といる方がよっぽど最悪だろうさ。こんな話、俺の方から願い下げだよ!」


「ムキー! もういいわ! やっちゃいなさい!」


 やっぱりお前のせいじゃねぇか。

 しかし、ここが知り合いの住処の近くでよかった。


「待つんだ! そこの少年少女!」


 突然の闖入者。迫ってきていた男女の動きは止まり、現れた男たちへ視線が集まる。


「な、何よ。警察かと思ってビビらせないでよ」

「ああそうだ。こんなのちょっとした喧嘩だよ。大人が入ってくることじゃない」

「おっさんたちにだってそういうことあっただろ?」

「喧嘩ねぇ……」


 そう言いつつ謎の動きをするおっさん。そしてその後ろに続く老若男女の中二病軍団。

 意味のわからない集団に完全にビビっている様子の伊集院たち。

 おっさんは似合わないウインクで合図をくれる。


「阿久間、今のうちに逃げるぞ」

「で、でも……」

「いいから、あの人たちが気を引いてくれてるうちに」


「少年少女よ。喧嘩は大いに結構だが、今のは一方的じゃなかったかな?」

「結構じゃないの?」

「一方的は結構じゃないな!」


「ほら、行くぞ」

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