第5話 眷属として再召喚される?

 金土日と今までにないほどつまらなかった。


 一度ゲーセンにも行ってみたが、中二病のおっさんたちしかいなかった。


 テレビもゲームも動画もどれも気晴らしにはならなかった。

 今日も今のところ阿久間とは遭遇していない。


「はあ……」


 気が重い。

 出会ったとして、なんと話しかければいいのだろう。


 弁当は二つ作ってきたが、今日もいなければただの大食い。


「俺から動くか」


 今日、阿久間から迎えに来る確証などない。

 また今日もいないかもしれない。同じクラスでないからわからない。


 だが、


「見つけた」


 なぜか、少し霧が晴れたように感じた。そして、若干のプレッシャーが襲ってきた。


「あ、阿久間……」


「ん? どうかしたかい? キミの方からボクに話しかけてくるなんて珍しいね」


 なんだか距離を感じる。よそよそしいような気がする。


 やっぱり、俺があんな態度とったからか?


 いや、今は考えるな。


「阿久間。話がある。屋上へ来てくれないか」

「ふ、ふーん? いいだろう。行こうじゃないか。やけに積極的だね」

「ああ。伝えたいことがある」

「つ、伝えたいこと!?」

「大事な話だ」

「大事な話!? そ、そうかい。わかった。ちょっと待っててくれるかい?」

「ああ。待ってる」


 すぐには来てもらえないようだが、仕方ない。

 話を聞いてくれるだけ御の字だ。




「ごめん。待たせたね」

「いや、今日は俺から頼んだんだ。気にしてない」

「そっか」


 なんか、小綺麗になっているように見える。

 いや、外に出たからだ。

 後ろ手に何か持ってる?

 いや、腕を組んでるだけだろう。弁当じゃないはず。


 気をそらすな。


 言え。


「阿久間。その、こないだは悪かった。だから、これ。また、弁当で悪いけど、他に思いつかなかった。今日は持って来てるみたいだし、夕飯に食べてくれてもいい。受け取ってくれないか?」

「え、と……ああ。なんだそんなことかい。眷属のことは主人であるボクが許そう」

「そ、そんなことだって? お前、先週休んでたじゃないか。俺のせいじゃないのか?」

「まさか、眷属を自称するのに主人であるボクの活躍を見てなかったのかい?」

「眷属は自称してねぇ」

「話しそびれたからまさかとは思ったけど……」

「自称してないからな」


 俺のツッコミは無視しつつ、阿久間は後ろ手に持っていたトロフィーを無造作に置き……トロフィー?


「これ! ほらこれ! ボクが海外の大会で優勝した時の写真! ボク、先週海外の大会に行ってたの!」


 スマホの画面に映る?阿久間は様々な国の人々に囲まれて笑顔でトロフィーを掲げていた。

 写っているのは?阿久間の後ろにあるトロフィーと同じトロフィーだ。


「は? 海外の、大会……?」

「そうだとも! 時差ボケがひどいけど、帰って来て早速、眷属のキミがボクの活躍を褒めてくれるんだとばかりに思って、おめかしまでして来たのに! なんだよ! そんなことかよ!」

「そんなことって、お前な! 俺がどれだけ心配したか……いや、なんでもない!」

「なに? 心配してくれたの? ボクが黙って休んだから」

「黙れ!」


 事実だが、おちょくられるのは癪だ。

 ニヤニヤしたまま脇腹を突っついてくる。

 くそう。口を滑らせた。


「そうかいそうかい。にしてもまた弁当を作って来てくれるなんて眷属も板についてきたのかな?」

「そ、そんなんじゃない!」

「くっ! 眷属に強く言われると、我が魂にヒビが入る……」

「ぐ、ぬぬぬぬ」


 遊ばれている。完全に遊ばれている。顔が熱い。


 心配して損した気分だ。


 ただ、本人のペースを見出すようなことはしてなかったようで良かった。


「さて、今日はどんな美味でボクを楽しませてくれるのかな?」

「別に、今回も普通だよ」

「またまたー。この間の生姜焼きも美味しかったのだから、そこまで謙遜する必要もないだろうに。あ、そうだ。これもだった」


 トロフィーに引っかけられていた謎の袋から出てきたのは、俺の渡していた弁当箱だった。


「ちゃんと洗っておいたからね」

「捨てていいって言ったのに」

「眷属の物を粗末に扱うわけにはいかないだろう?」


 変なとこ律儀だな。

 まったく、本当に勘違いされてるだけで悪いヤツじゃない。


「その顔。自信があると見た。中身は……」


 そういうわけじゃないんだが


「ハンバーーーグ!!!」


 突然、なんの前触れもなく阿久間は叫んだ。


「は?」

「ハンバーグじゃないか! これをわざわざボクのために?」

「詫びになるようなもので俺が作れるの、これしか思い浮かばなかったんだよ」

「やった! ハンバーグだよ? ハンバーグ! ボクの大好物じゃないか。やっぱり優勝のご褒美だよ。リサーチ済みだったんだね」

「落ち着け。俺にそんな能力俺はない」

「うまー」

「聞け! まったく……」


 頬を押さえて幸せそうに食べる。

 別に味も普通なのに。めっちゃ喜んでくれてるように見える。

 やはり、自分の作ったものを美味しそうに食べてもらえるのは悪い気はしない。


「あんまり急いで食べるなよ。危ないからな」

「わかってるよ。そんなドジしない、ゲホゲホ」

「言ったそばから……ったく」




「チッ!」


 今、ドアの前に誰かいたような……気のせいか?

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