第3話 弁当当番として召喚された

 結局阿久間の分の弁当も作ってきてしまった……俺は本当に何をしているのだろう。

 思わず頭を抱えたくなる。

 昨日は昨日で金は全て阿久間に支払わせてしまったし、なんだか悪くて作ってきてしまったのだ。


「……そう、仕方なく。仕方なくだ」


 まあ、阿久間にとってゲーム代などはした金にすぎないだろう。

 どこでどうしているのかは全くわからないが、高校生にしてそこらのサラリーマンより稼いでいるという話があるからな。

 俺の気持ちの問題だ。


 さて、とっとと行かないと昨日みたいになるからな。

 さっさと出るか。


「迎えに、おっと。今日は早いんだね。我が眷属よ」

「行くぞ」

「ああ、もちろんだとも」


「ねえ、アレってやっぱりそうなんだよね? そういうことだよね」

「つまらないわね」

「美少女と一緒に昼食かー。憧れるなー」

「でも、相手は阿久間さんだぞ?」

「野郎よりいいだろ!」


 また何か言われているが、阿久間は気にした様子もない。

 言われ慣れるなんてことはないだろうが、どうなのだろう。


 さて、そんな俺の自称ご主人様は、今日も変わらず何も持たないできている。

 俺の弁当の何がそんなによかったのかわからないが、その視線はじっと弁当に注がれ、今にもよだれを垂らしそうだ。


「それ、ボクのために作ってきてくれたのかい?」

「昨日の借りを返すためだ。二つあれば俺も食いそびれないからな。あと、前見て歩け」

「おっとと」


 俺はよそ見してぶつかりそうだった阿久間の腕を引いた。

 小さくて軽い。その上柔らかい。

 この体のどこに俺を引きずるほどの力があるのか。


 いけないいけない。


「よそ見するからだぞ」

「それじゃあキミが守ってよ。眷属だろう?」

「俺はボディガードじゃない」

「今は助けてくれたじゃないか」

「たまたまだ。お前には必要ないだろ? さっさと行くぞ」




 本来の通り、屋上には誰もいない。

 今日も俺と阿久間だけだ。


「ほら」

「それじゃあ今日はキミがボクに食べさせてくれ」

「はああああ!?」

「キミからの捧げ物なのだろう? なら、相応の扱いでボクに捧げてくれ。キミはボクの眷属だろう?」


 楽しそうに笑ってやがる。

 さっきからなんなんだこいつ。俺が下手に出てるからって……。

 喉に箸ぶっ刺してやろうか。いや、やらないが。


「勝手に食べてろ。俺は召使じゃない」

「つれないねぇ。まあ、こうして作ってきてくれただけでも眷属としての忠誠としておくかな」

「だから昨日の借りだって」

「ありがたく頂戴するよ」

「聞け!」


 まったく、調子が狂う。

 本当にはたから見ているから面白いのだ。

 自分の身に降りかかってきたらどれだけ面倒か……。


「そうだ。阿久間、お前。ピッキングなんてどこで覚えたんだ? 縁のないことだろ?」

「なんだい? 食べさせてくれないのに、主人の情報は気になるのかい?」

「俺より先にここに来てたんだ。気になって当然だろ?」

「なるほどね。まあいいよ。それくらい話そうか。ボクはね、キミのを見て覚えたんだよ」

「俺のを? 俺がここに来てたの知ってたのか?」

「もちろんだとも。ボクはこの学校のことならなんでも知っているよ。特に、キミのことはよーく知っているよ」

「どうして……?」


 思わずごくりとつばを飲んでしまう。

 阿久間は俺の何を知っているんだ?


「キミは闇の才覚が人よりありそうだったからさ」

「うわー。嬉しくない」


 昨日は辺なおっさんにもこちら側とか言われたし、俺って人からそんなふうに見られているのだろうか。

 まあ、いいや。さっさと食わないとまたトマトだけみたいなことになる。

 食おう。


「へー。今日は凝ってるんだね」

「普通だよ。昨日の残りだ」

「生姜焼きとか出るんだ。いいね」

「自分で作ったんだよ」

「作れるんだ」

「いいだろ別に」

「いいとも。ボクも好きだよ。楽しみだな」


 意外だ。

 金持ちということは知っていたから、もっと高いもんばっか食ってると勝手に思っていたのだがそうでもないのか。


 しかし、今日はやけに食わないな……。


「食わないのか?」

「ん? 食べるとも」


 ニコニコ笑顔で俺を見てくる。

 まだ、粘れば食べさせてもらえると思ってるのか?


「あのなぁ。今回はあくまで借りを返すためだけに作ってきたんだからな?」

「なら、どうして昨日ボクを無視して帰らなかったんだい? 無視していれば、借りなんてできなかっただろう。そもそも、ボクは弁当をもらっていたんだ。そこでトントンと考えることもできたはず。違うかい?」

「それは……とにかく、俺はお前の眷属じゃない」


 俺は残っていたものを全てかき込んで立ち上がった。


「弁当箱は捨てていい。じゃあな」

「え」


 何か言おうとした阿久間を無視して俺は屋上を後にした。




 その日の放課後、阿久間は教室に来なかった。

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