第2話 遊戯に召喚された

 あの後、結局チャイムが鳴るギリッギリまで眷属として解放してもらえなかった。

 逃げようにも、腕力は阿久間が上であり、相手は一応女子なこともあって、逃げることは叶わなかった。


 そのせいで、やっと学校から解放される放課後にも関わらず、俺は普段以上に疲れていた。

 昼にミニトマトしか食べられなかったから空腹なせいもある。

 早く帰って何か食べよう。


「ふっはははは! 迎えにきたぞ保智、我が眷属よ! さあ、我と共に遊戯に興じようではないか!」


 天才さんは俺のクラスまでしっかり把握してるんですねぇ。


「え、阿久間さん。どうしたの?」

「保智に用がある」

「保智? あ、あのぼっちくん?」

「おいおいマジかよ。阿久間さんがぼっちに用?」


 聞こえてるぞ。


 俺のことをチラチラ見ながら阿久魔に向けて正気か? みたいな視線を送っているのも気づいてるからな。


 まあ、ぼっちなのは事実だ。否定はしない。

 屋上にピッキングで侵入してまで昼を過ごしてるんだからな。

 だが、どうしたものか……俺はただの弁当当番じゃなかったのか? いや、それも違うが。


「いないのか? ん? いるじゃないか。おい、聞こえていないのか? 我が眷属よ。ボクはもう待ちくたびれたぞ」

「……」


 誰か何か言え!


「…………」


 だーもー! 居心地が悪い。

 いつも以上に居心地が悪い。

 どう動くか期待して俺を見るな。


 仕方なくさっさと荷物を持って席を立った。

 飛んでくる視線も無視してそのまま廊下に出る。


「……行くぞ」

「もちろんだとも!」


 あのまま教室にいるより、阿久間についていく方がまだマシだ。


「ねえねえ、何あれ。何あれ!」

「ホント。何アレ」

「いーなー保智。美少女のお迎えなんてさ」

「そうかー? 相手はあの阿久間さんだろ?」


 好き勝手言ってるが、全部聞こえてるんだよな……。


「ふっふっふ。やはり、我が眷属はこの運命からは逃れられないのだ」


 まあ、隣のヤツが楽しそうだからいいか。

 俺はよくないけどな。




 遊戯がどうとか言っていたが、やってきたのはゲーセンだった。

 うん。まあ、なんとなくイメージできるけどな。


「さて、遊戯を始めようか。ボクは大得意だからね」

「知ってる」

「本当かい!? ふふっ。これは腕が鳴るね。眷属の前で恥はかけない」


 何やら勝手に燃えているが、俺は別に阿久間の熱心なファンだから知っているのではない。

 学校では有名な話だ。

 男を引きずるほどの腕力を持ちながら、テストでは必ず学年一位。部活には入っていないが、大会の助っ人に呼ばれれば優勝へと導く。

 そんな阿久間が全てをほっぽり出してまで何かをするのは、ゲームの大会へ行く時だという噂は同じ学校に通っていれば誰でも一度は耳にする。

 ぼっちの俺でも耳にしているのだし、きっと誰でも知っている。


「さあ、苦しみに囚われた彼らを救いに行こう。無論、キミは守られているだけで構わない」


 俺を眷属とか言うくせにこき使うつもりはないらしい。

 俺のご主人様は俺を連れてゲーム機の前へとやってきた。


「スタートだ!」


 何もわからないままゾンビを撃つゲームが始まった。

 ゲームだし、ほどほどにやるか。


「……」


 と思ったのが間違いだった。


「どうだいどうだい? ボクの力の前に全ては灰燼に帰すのだ!」

「おい。俺何もしてないぞ」

「キミは守られているだけでいいのさ! はっはははは!」

「あ、狙ってたのに」

「そんな野蛮なもの、我が眷属が使う必要はないさ!」


 阿久間は俺の狙ったものを全て奪うように、いや、俺なしで全てぶち壊すように、阿久間は次々とゾンビを撃ち抜いてしまった。

 ゲームは、ただ隣で叫んでいるやつのプレイ画面を見て終わってしまった。


「大丈夫だったかい?」

「ああ。おかげさまで何も面白くなかったよ」

「ふっ。無事で何よりだ」

「会話にならねぇ」


 めちゃくちゃ仕事したみたいな顔してるのが腹立つ。

 いや、仕事はしてるんだが、俺何もしてないんだが? 人が掃除するように弾丸当てる作業を横で眺めてただけなんだが?

 そりゃ、上手くてすごいとは思ったが……。


「Akuma、Akuma、Akuma……」

「あまり名前を呼ばないでくれ。恥ずかしいじゃないか」

「いや、そうじゃなくてだな」


 出ているランキングは全て同じ名前でカンストしてある。

 もう何も言えない。


「おい。嬢ちゃんたち」


 凄すぎて気づかなかったが、いつの間にか人が集まってきていた。

 いくらゲーセンとはいえさすがに騒ぎすぎたか。

 元が騒がしいからいつもよりもうるさかっただろうからな。


「その、ごめんなさ」

「いつも一人の嬢ちゃんが男連れとは、まさか……?」

「さすがブラッドアイ。そうさ。彼はボクの眷属だ」

「やはりな。とうとう召喚に成功したんだな。ふっ。よろしくな。眷属の少年。嬢ちゃんに召喚されただけあり、こちら側の人間のにおいがする」

「は、はあ……」


 なんだろうこのおじさん。とても陽気でテンションが阿久間に似ている。

 というより、なんだこのアウェー感。

 もしかして俺が知らなかっただけで、世間的には俺が少数派だったりするのか?


「それで、今日も荒らして回るのか?」

「いいや。今日はこれで終わりだ。次はアレに挑む」

「アレ、か。気をつけろよ」

「わかっているさ」


 何やら神妙な雰囲気で妙な一体感をかもしだしている。

 学校では一人でも、こんなところに仲間はいたらしい。


 だが、真剣な視線の先にあるのはプリクラだ。


「何を気をつけるんだ?」

「さあ、行こうか」

「二人でか? 二人でか!?」

「そうだとも。不満か?」

「は? 待て待て待て」


 相変わらずの腕力で中に入れられ、妙に明るい部屋の中で写真を撮られ、文字を入れられ、あっという間に小さな写真が排出された。


「なかなかの強敵だった。今日はこの辺にしといてやる。帰ろう我が眷属よ」


 満足げに笑う阿久間。


 俺のスマホに勝手にシールが貼り付けられている。

 俺は終始巻き込まれていただけなんだが。


「って、俺は眷属じゃないからな!」


 昼飯で弁当のために眷属とか言ったせいで大変なことになっている。

 シールは剥がせそうにないし……。

 今日のところは解放されるみたいでよかった。

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